ドイツ南西部のバーデンバーデンで3月17日から2日間にわたり開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議は、トランプ政策のスローガンとなっている「保護主義」や「自由貿易」への対立を残したまま終幕となった。

米国、中国とならぶ世界3大貿易国であると同時に、G20議長国としてEU(欧州連合)を先導してきたドイツだが、この結果が「失速の兆候」に対する疑惑を表面化させたようだ。

トランプ政権の保護主義を容認する結果となったG20会議

今回の経済首脳会議は、トランプ政権発足後初の国際会議として注目を集めていた。欧米で広がる保護主義的な動きに対する懸念から、会議をとおしてなんらかの対応策が打ちだされると期待されていたが、貿易についての言及は最小限におさえられ、結局のところ合意には至らなかった。

これまで自由貿易推進目的で盛りこまれてきた、「あらゆる形態の保護主義に対抗する」との文言も省略され、波風が立たなかったぶん先行きへの懸念が色濃くなった感が強い。
会議直前にロイターの取材に応じたヴォルフガング・ショイブレ独財務省大臣は、貿易に関する米国との見解の差を理由に、「今回の会議では極力議論を避けるかも知れない」と警戒心を示していた。それを考慮すると、意図的な回避戦略であったとも受けとれる。

しかし結果的には米国の「自国第一主義」を黙認したかたちになり、今後WHO(国際貿易機構)の弱体化や保護主義政策を活発化させるきっかけとなったとの批判も、一部のエコノミストから挙がっている。

独IFO経済研究所のエコノミスト、ガブリエル・フェルベルマイヤー氏は、ドイツを筆頭とする各国の対応は「伝統からの逸脱」の兆しであり、「議長国、ドイツの敗北を意味する」と語った。

ショイブレ独財務省大臣は会議後、「相手(米国)が合意できないのであれば、強要はできない」と弱腰ともとれるコメントを発表。「有益な協議もなされた」と前向きな見解も示しているものの、その「有益な協議」が米国との貿易面で役立つか否かは大いに疑問が残るところだ。

トランプ大統領のドイツ批判炸裂

こうした流れが「欧州の先導国として長年認識されてきたドイツが勢いを失った」との疑惑を一部で浮上させた。

折しもドイツはトランプ大統領の新たな「口撃」の標的となっている。政権交代後も欧州とは友好なスタンスを維持するかと思われていたトランプ大統領だが、ここにきて「ユーロ安を利用して貿易黒字を確保している」と、痛烈なドイツ批判の口火をきった。

欧州中央銀行(ECB)による金融政策がユーロを引きさげていることは明白だ。そのユーロ安から利益を得て、「他国を食いものにしている」というのが批判の内容である。

金融首脳会議と同日、米ワシントンのホワイトハウスで行われたトランプ大統領とアンゲラ・メルケル首相の会談も、「終始冷ややかな空気の中で、両国の価値観の差が浮き彫りになる結果となった」と報じられている。

トランプ大統領はその際、アンゲラ・メルケル首相との握手を拒絶するなど、あからさまな敵対心を見せた。それに対してきまりの悪い笑みを浮かべるメルケル首相。「米国とドイツの新たな関係を予感させるワンシーン」と受けとれないこともない。

メルケル首相自体、常にEUの主導権を争ってきた英国の離脱や大量の移民流入問題を引き金に、「首相4選」の座が以前ほど確実なものではなくなり始めている。トランプ大統領はメリケル首相の寛大な移民政策が「ドイツを崩壊させている」とし、「(自分は)孤立主義者ではなく、自由貿易と公正な貿易の支持者だ」と主張している。

ドナルド・トゥスク欧州理事会議長が「EUの未来をゆるがす外的脅威」のひとつとして、トランプ政権を挙げている点がなにかを予感させる。(アレン琴子、英国在住フリーランスライター)

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