JR東日本を取り巻く事業環境

JR東日本、特に東京圏の運輸事業の事業環境は横ばいとなっております。2014年3月期実績では、東京圏在来線の鉄道運輸収入は+47億円(前年比:100.7%増)となっていますが、要因別に見ると連休、お盆、年末年始の利用増が+40億円となり、一方副都心線東横線の直通で▲20億円の減収要因になるなど、大きな増加は望めなくなっています。定期についても、JR東日本2017年度までの中期経営計画の前提となる収入の伸び率は年率+0.0%と横ばいを見込んでいます。一方、新幹線の運輸事業収益伸び率は2015年3月期計画では+107億円(前年比101.7%増)の増収。ショッピング・オフィス事業でも桜木町、長野での駅ビル開業等で+29億円(前年比101.2%増)の増収を見込んでいます。すなわち、JR東日本は首都圏の事業環境の悪化により、新幹線や駅ビル等、いろいろな事業のシナジー効果で稼ぐ構造に変化しているのです。


クルーズトレインの収益性

では、クルーズトレイン自体は儲かるのでしょうか?先行して導入したJR九州の「ななつ星in 九州」の例から収益性を検証したいと思います。結論から述べると、クルーズトレインはそれ自体ではほとんど儲かりません。車両の制作費は30億円。これを鉄道用客車の償却年数20年で割ると一年当たり1.5億円です。

ななつ星の定員は28人で料金はスイートで18万円(1泊2日:2名1室の場合)又は43万円(2泊3日:2名1室の場合)、1室しかないDXスイートは28万円(1泊2日:2名1室の場合)70万円(2泊3日:2名1室の場合)なので、1泊2日では1人あたり20万円、2泊3日では1人あたり35万円の収入。運転日数はJR九州ホームページの2015年12月1月実績から、1泊2日、2泊3日それぞれ2回ずつとしました。

<ななつ星 in 九州の損益試算>

1泊2日の収入 20(万円)x28(人)x2(回)x12(月)=1億3340万円

2泊3日の収入 35(万円)x28(人)x2(回)x12(月)=2億3520万円

減価償却費                     1億5000万円

運行経費(仮定)            1億8430万円(収入の50%)

2億2116万円(収入の60%)

利益                              3,430万円(運行経費が収入の50%の場合)

▲3,686万円(運行経費が収入の60%の場合)

結果は以下のように運行経費が収入の50%であれば3,430万円の黒字、運行経費が収入の60%であれば3,686万円の赤字となり、利益はほとんど上がりません。JR東日本が導入を予定しているクルーズトレインについてもほとんど利益は上がらないと推定されます。


多角化の軸-クルーズトレイン-

では、何故JR東日本は収益性があまり無いと思われるクルーズトレインを投入するのでしょうか?考えられる理由としては他の事業とのシナジー効果、ブランドイメージの向上が考えられます。中期戦略であげられているように、海外からの観光客の取り込みが重点施策としてあげられています。そのために、海外からの観光客にとって目玉となる商品としてクルーズトレインを売り込み、観光での鉄道利用、グループのホテル利用、駅ビルでのショッピングなどで収益を上げることを目論んでいると思われます。また、ブランドイメージを向上することで、リピーターの増加も見込めます。リピーターが増えることで次回はクルーズトレインを使わなくても新幹線を使い弘前の桜と十和田湖を見るなどの旅行を行うことが考えられ、継続的に来てくれる可能性があります。JR東日本は他の事業とのシナジー効果とブランドイメージの向上から多彩な事業で収益を上げることを目論んでいるのです。


クルーズトレインを軸に、「貴重な体験」を売り出せるか

JR東日本のクルーズトレインは、乗車するという体験もさることながら、目的地での観光や食事、お土産の購入など旅の全ての体験を売り出す商品です。いわば、ディズニーリゾートの列車版であるといえます。鉄道、不動産業が主体であるJR東日本がいかにエンターテインメントに徹し、乗客に「貴重な体験」を売り出せるかが、クルーズトレインの成否を分けることになると思われます。

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Photo: JR東日本HP