富裕層特例とは
現在、観光目的で来日した外国人の滞在期間は最大90日とされています。政府は、その滞在期間を、年収600万円以上、資産7000万円以上という条件を満たす外国人に限って最大一年間に延長する方針を決めました。この条件は、現在オーストラリアで行われている政策に倣うものです。オーストラリアでは既に実績が出ており、日本でも滞在期間を延長して消費や不動産投資へつなげたい考えです。
元々、小泉政権の時に発表された観光立国政策が、今現実的に動き出した背景には、2020年の東京オリンピック招致の成功と、ASEAN諸国の経済的発展があります。既にタイ、マレーシア、ベトナム、フィリピンなどの国に対してビザの発給要件を緩和する措置がとられています。しかし、最大のお土産購入国である中国に対しては、現状はビザ発給条件の緩和措置はとられていません。また、空港での入出国手続きの迅速化を図る措置の一つとして優先レーンの設置も検討されています。成田空港や関西国際空港で試験的に、政府関係者、富裕層特例適用者、国際会議出席者などを対象に優先レーンを運用し、効果が認められれば順次他の空港にも設置する予定です。
このような富裕層観光客を優遇する措置は日本の景気にどのように影響するのでしょうか?
富裕層特例が利用されるために必要なもの
いくら富裕層特例を設けても、日本という国が一年間滞在したくなる国でなければその特例を利用する観光客はやってきません。オリンピックをきっかけに多くの外国人が日本観光に訪れ、彼らがその後も来日して長期滞在したくなるような環境を作りたいものです。日本は、観光地としての要件である、道路の整備、公共交通機関網の充実、治安の良さ、食品の安全性、などは既に備えております。
また、熱帯や亜熱帯が多いASEAN地域の人々にとって、日本の南北に長い地形や明確な四季は一年間滞在して満喫する価値があるものです。>北から南から多くの観光客が移動してくれれば消費も伸びようというものです。VISAやAMERICAN EXPRESS、銀聯などのクレジットカードで決済できるポストペイ方式の乗車カードが手軽に取得できれば外国人観光客がより活発に移動できます。
しかし、ここで立ちはだかるのは言葉の壁です。都心部と違って地方の観光地では外国語人口はぐっと減ってしまいます。富裕層ですから英語を話せる人が多いはずですが、一年滞在ともなれば母国語であるタイ語、インドネシア語、マレー語、ベトナム語なども必要になります。医療や高額の契約にかかわる場面ではネイティブレベルの言語能力を期待されることもあります。もし、ASEAN諸国の言語が話せたら通訳として活躍出来る場面も予測でき、タクシーの運転手、駅員、看護師、宅建主任などが英語やその他の国の言葉を話せれば大いに役立つはずです。
また、大きな観光資源である寺社仏閣に於いても複数の言語能力が望まれます。語学力は荷物になりません、ASEAN諸国の言葉を教える語学学校も必要になります。言葉の能力とともに必要なのが宗教的制限に対する知識です。日本は世界でもまれなほど宗教に関して柔軟な国なので、宗教的制限を軽く見る傾向があります。最近になって、ハラール食品に対する関心は少し深まってきましたが、それ以外にも宗教的な制限は少なくありません。医療現場や観光地の商店などが宗教的な制限は厳格なものなのだということを理解する必要があるのです。
消費動向への影響
どの国の人にもソウルフードがあります。一年間滞在するとなると、そういうものが手軽に買える環境が必要です。特に、ハラール食品がスーパーで手軽に買え、飲食店では明確に原材料を表示されていなければイスラム圏の人々が一年間滞在するのは難しいのです。道路標識や信号なども国際的な表示を追記する必要が出てきます。日本語教室や茶道、華道、陶芸の教室、柔道や剣道の道場など長期的に楽しめ、しかも日本人と交流が出来る場所を提供できれば長期滞在の魅力は倍増します。そのためには、それらの指導者にも語学力が必要になるのです。
また、日本の日用品、コスメティクス、家電品の質の良さは世界的に認められています。日本のトイレ用温水洗浄器や畳などは一年間使い慣れると手放しにくいものです。絹織物や麻織物、日本酒や緑茶も同じようにハマると手放せなくなるものです。衛生観念や健康意識、心地よさといった生活水準は一度レベルが上がってしまうとなかなか落とすことが出来ないものです。滞在中にこれらの消費量が増えると思われますが帰国後もそれぞれの国で消費量が増える可能性があります。このような需要を確実なものにするためには、より以上に品質や機能性の管理が重要になります。これを怠ると長期滞在者やリピーターが獲得できず、つぎ込んだ資金を回収できなくなってしまいます。