複雑な制度もネックに

相続時精算課税制度が敬遠される3つ目の理由として、制度自体の複雑さも要因になっていると思います。まず、相続時精算課税制度の適用対象となる者に関する規定が定められています。贈与する側は65歳以上の者であれば誰でも構いませんが、贈与を受ける側に一定の要件が課せられます。配偶者に関しては適用対象外です。子に関しては20歳以上の子に対して適用できます。

孫に関しては既に子が亡くなっている場合に限り、20歳以上の孫に対して適用できます。これ以外の人間に対しては適用できません。なお、贈与する側に関して60歳以上の者に緩和する改正案、および、贈与を受ける側に関して子が生きている孫を認める改正案も意見として出ています。

次に、相続時精算課税制度を利用する際の手続きが複雑です。

当制度を利用したい場合、贈与税を申告する時に「相続時精算課税制度選択の届け出」を税務署に提出する必要がありますが、書類には所定の書類を添える必要があるうえ、届け出期間は対象となる初回の贈与が行われた翌年の2月1日~3月15日の期間に限られます。また、提出期限に間に合わなかった場合、その年(正確には前年中)の贈与に関しては一切適用を受けることが不可能な規定になっています。

また、相続時精算課税制度を利用して贈与を受けていても、相続放棄をすることが認められますが、相続放棄しましたにも関わらず、贈与を受けた金額に対しては相続税が発生します。そして、相続税・贈与税の計算が複雑なため、当制度を利用する方が有利になるのか計算するのに大変な手間を有します。

また、現金を相続する場合はまだしも、土地や建物を相続する場合、その評価額がいくらであるのかを確認しなければ相続時精算課税制度を利用する効果が薄れてしまいます。他に「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けました場合の非課税措置」等、類似した制度が多く、どの制度が最も良いのか素人には検討も付きません。これらの制度も複雑な仕組みになっているため、結局の所、税理士に相談するのが良いでしょう。

将来、他の制度へ統合する可能性も

結論から言って相続時精算課税制度はデメリットが多すぎます。2500万円の基礎控除額も相続税発生時に清算する仕組みになっているため、長い目で見れば全く控除の意味がありません。結局の所、当制度のメリットは生前贈与を相続税と同一化して扱えるだけです。しかも、近年の税制改正は「贈与税の引き下げ」「相続税の引き上げ」と言う方針で動いており、どんどん当制度のメリットが少なくなっています。

ましてや、「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税措置」等の多額の贈与が非課税になる他の制度も作られており、今となっては相続時精算課税制度のメリットがすっかり薄くなりました。そのため、今後は他の制度や一般的な相続税・贈与税に統合される可能性も考えられます。

もっと新しい制度、例えば、2500万円の範囲内で任意時点の贈与を相続税に同一化する等、他の制度が作られる可能性もあります。そして、この様な頻繁な制度変更も当制度が利用されない理由の1つでしょう。新しく作られた制度の方が得だったら、暫くはリスクが少ない方法を取るのは当たり前の話です。そのため、実際に相続時精算課税制度を考えている人は、もう1度考え直した方が良いでしょう。(ZUU online 編集部)

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