贈与税の節税効果はない

一方、相続時精算課税制度のデメリットは贈与税としての節税効果がない点です。相続時精算課税制度を利用する場合、相続時には相続財産の他に当制度により贈与を受けた金額も含めて相続税を計算しなくてはなりません。一般的な暦年課税制度を用いる場合、相続前3年以内に贈与を受けました金額を除いて相続財産から外れますが、相続時精算課税制度を用いる場合、贈与を受けた金額のうち全額を相続財産に入れて相続税を計算します。

勿論、相続時精算課税制度では既に支払った贈与税は相続税から控除できるため、過剰に納税している金額は全額還付されますが、一般的な暦年課税制度で言う基礎控除に相当する免税が存在しないため、贈与税としての節税効果はありません。

相続時精算課税制度を適用する場合、生前に多額の贈与を受けても非課税になるメリットがありますが、最終的には贈与額が全て相続税として扱われるため、長い目で見た場合、この制度を適用しないほうがお得に感じられるため、多くの人間が相続時精算課税制度に対して二の足を踏んでいるものと考えられます。その他にもデメリットが存在しています。

相続時精算課税制度の選択は慎重に

相続時精算課税制度があまり利用されない最大の理由は以下のデメリットにあると考えます。

相続時精算課税制度の致命的なデメリットは二度と通常の贈与税に戻れない点です。一旦、この制度を適用した場合、それを後から取り消すことが不可能であって、今後一切年間110万円まで非課税である贈与税の基礎控除が使えなくなります。父・母それぞれに対して適用・不適用を選択できますが、一旦、適用すると、その贈与者に対しては決して不適用に戻せなくなります。

また、相続時精算課税制度の特性上、相続税の非課税枠が減少するなど、根本的な制度変更があっても適用を取り消すことが不可能です。かつては5000万円+相続人×1000万円の非課税枠があったため、実際に相続税が課税される事例がほとんどなかったようです。ところが、2015年1月1日以降は3000万円+相続人×600万円に引き下げられ、同年の相続税対象者が10万3000人と前年の1.8倍になるなど、相続税を課税される事例が急増しています。

改正前は相続時精算課税制度を使って多額の贈与を受けても、富裕層でなければ相続税の課税対象となる可能性が低かったため、住宅取得時に適用する人が多かった様ですが、改正後は東京23区の一戸建て住宅等で課税対象になる可能性が高まるため、適用する場合、相続税が課税される可能性が生じる上、二度と元に戻せなくなるリスクが生じます。

贈与時は将来的に相続税が非課税になる金額であっても、施行前に不幸に見舞われない限り相続税を免れる方法がないのが相続時精算課税制度の落とし穴です。相続時精算課税制度を適用する場合、一般的な暦年課税制度に戻せなくなるため、利用する方が明らかに有利になる様な例であっても利用をためらう要因になっています。