ロンドン襲撃の速報が英国で流れたのは3月22日午後2時45分過ぎ。「国会議事堂のあるウェストミンスター橋周辺で男が無差別攻撃を開始し複数が負傷。警察官ひとり、女性ひとりが死亡した」というものだった。その後、詳細が矢継ぎ早に報じられた。

一台の大型車がウェストミンスター橋の通行人を跳ね飛ばしながら暴走し、議事堂前の鉄柵に激突。さらに車から路上におりたひとりの男が刃物をもって議事堂に向かって走りだし、阻止を試みた警官を刺殺。死者4人、負傷者40人という悲惨な事件となった。

最新の報道では、犯人が英国籍のある男で、数年前にも過激テロへの関与の疑いがあるとして、取り調べをうけていたことなどが判明している。

犯行現場から37メール先にいたメイ首相

一夜明けた3月23日現地時間午前10時の時点では、すでに拘束されている犯人の正確な身元や犯行の動機などは明らかにされていない。その後の調査で、共犯者の疑いがある8人が新たに逮捕されたとBBCに報じられている。

事件発生当初、単独の行動という点で狂人の犯行との見方もでていたものの、現場が国会議事堂であったためテロの要素が濃いと報じられていた。後にテリーザ・メイ首相から犯人の国籍や過去の犯罪経歴が明らかにされた。

無差別で残忍な凶行がくり広げられていた際、メイ首相は議事堂内にいた。「警察官が刺殺された現場からは、壁をへだててわずか40ヤード(約37メートル)という距離だった」とインディペンダント紙は報じた。目撃者の証言によると銃声のような音が聞こえた後(警察官が犯人に向けて発砲したものと思われる)、警備員に守られながら車で議事堂を後にした。

負傷した警官の蘇生にあたったエルウッド外務省大臣

メディアには詳細とともに様々な映像が流れでた。犯人が暴走する車で跳ねられた、あるいは自らテムズ側に飛びこんだと思われる女性が橋から落ちていく姿、「逃げろ!どこかに隠れれろ!」という声とともに走りだす人々、負傷して道路に横たわる被害者、後に死亡したキース・パーマー巡査の手当にあたるトビアス・エルウッド外務省大臣。

警察官、学生を含む負傷者はロンドン市内の病院で手当てをうけているが、そのうち2人は重体だという。テムズ側に落下した女性は後に救出された。

2002年のバリ島爆弾テロ事件で実弟を亡くしたエルウッド外務省大臣が、額に付着した血をぬぐおうともせずパーマー巡査の蘇生にあたる姿が印象的だった。議事堂は1分間の黙禱のほか弔旗をかかげ追悼の意を示した。

メイ首相「言論の自由、解放、民主主義は勝利する」

メイ首相は同日の夜、官邸前で緊急記者会見を行った。犠牲者とその家族に対して哀悼の意を述べた後、「言論の自由、解放、民主主義は勝利する」とし、「異常で卑劣なテロ行為」に屈することはないとの強硬な姿勢を示した。世界最古の国会議事堂が自由の精神を象徴する存在であること、「それゆえに(自由の)価値を認めないテロリストの攻撃の的になった」とも述べた。

また政府だけではなく、ロンドンの市民、「素晴らしい都市、ロンドン」を訪問中の観光客に、今回の事件にネガティブな影響をうけることなく通常どおりの生活を送り、「ともに前進していくように」と呼びかけた。

ロンドン警視庁はウェストミンスター地域を閉鎖。現在も捜査を続けている。今回の事件が2016年に発生したブリュッセル連続テロ事件のちょうど一周年にあたることから、なんらかの関連性を指摘する声も多い。また2015年のパリ同時多発テロ事件、2016年のベルリン・トラック突入テロなど、欧州で過激なテロが相次いでいる点にも焦点が当たっている。ロンドンにとっては2005年の同時爆破事件以来の大規模なテロ攻撃となった。

スコットランド議会は独立に関する議員投票を延期

もうひとつの焦点は、英国からの離脱問題を再燃させたスコットランドだ。スコットランド議会は同日中に、離脱を問う国民投票に関する議員投票を一時延期させる意向を表明。当初は進められる予定であったが、SNSなどをとおして「配慮がなさすぎる」との国民からの非難が相次ぎ、ケン・マッキントッシュ議長が延期を決定したというのが真相だ。

ニコラ・スタージョン首相はTwitterで被害者およびその家族に追悼の意を示し、「スコットランドがロンドンに連帯感をいだいている」と述べた。

スコットランド独立問題に関する議論は来週にわたり再開され、予定どおり3月28日には結論がだされると見られている。

理想と現実の差が拡大するEU

事件の詳細が明らかにされていないため、現時点ではすべてが憶測の範囲である。犯人(あるいは犯行グループ)の狙いはどこにあったのか。過激派予備軍としてMI5(英保安局)にデータが保存されていた背景から、イスラム過激派の一味という憶測が濃厚のようだ。

そうなればやはり欧州で続く一連のテロ活動との関連性が考えられる。欧州の各首相は英国と団結してテロに立ち向かっていく声明文を発表。フランソワ・オランド仏大統領は「欧州レベル、さらにそれを超えて行動すべき」、アンジェラ・メルケル首相は事件の背景はまだ不明であるという前置きをしたうえで、全面的に英国との協力する構えだ。

多発するテロ、Brexit、難民問題、ユーロ圏における経済危機、マルチカルチャー(多様化文化)の失敗。EUの理想と現実が音を建てて崩れ落ちようとしている。理想だけではこれ以上前進もままならないと大衆が気づいた今、EUの根本をくつがえす大胆な軌道修正が必須となるだろう。

英国は3月29日、正式にEU離脱を通知し、交渉を開始する。(アレン琴子、英国在住フリーランスライター)

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