3月22日にロンドンで発生した国会議事堂テロの為替市場への影響は、無に等しかった。事件が速報として世界中をかけめぐった午後3時頃には1.153ユーロから1.151ユーロ(約138.33円から138.09円)まで急落したものの、午後4時過ぎには1.154ユーロ(約138.45円)まで回復し、翌日午前10時には1.161ユーロ(約139.29円)を記録した。3月24日午前6時現在は1.159ユーロ(約139.05円)に落ちついている(XE.COMデータ)。

2001年の米同時多発テロ事件から2016年のブリュッセル連続テロ事件まで、これまでのテロでは市場が大きくゆらいだけに、予想外の反応といえる。

「襲撃規模」「産業へのダメージ」などの差異と専門家は分析

「襲撃規模」「産業へのダメージ」「想定範囲」などの差異が、市場への影響を最小限にとどめたとの見方が専門家の間では強いようだ。

例を挙げると3000人以上の犠牲者をだした米同時多発テロでは、1万4500件を越えるビジネスが事業遂行不可能なレベルまで破壊された、あるいは打撃をうけた(ロンドン商工業議会データ)。1929 年に米国に起こった大恐慌以来初めて、主要為替取引は4日間休止。ダウ工業株30種平均は大暴落した。

記憶に新しい昨年のブリュッセル連続テロ事件でも、犠牲者数は死亡・負傷をあわせて200人を上回った。航空株とサービス株は軒並み下落。いずれの事件後も、第3テロへの警戒から渡航のキャンセルが相次いだ。

2005年のロンドン同時爆破事件でも、発生直後にはFT100種総合株価指数が急落した。死亡者・負傷者数は800人を超えた。


為替市場はリスクの高さに反応する

尊い命が失われたことには変わりはなく、憤りや悲しみがけっして被害規模の大小で量れるものではないという前提で比較すると、今回の国会議事堂テロでは被害者数は40人強。爆破などによって建物やビジネスが破壊されるということもなかった。

会見でのテリーザ・メイ首相の言葉どおり、「事件に影響されず、多くの市民が日常生活を続けていく」ことが可能な範囲であった。

事件直後に若干の下落を見せたポンドもわずか1時間あまりで回復し、さらには事件直前の価格を上回る結果となっている。

英金融サービス企業、ETXキャピタルの市場アナリスト、ニール・ウィルソン氏は、市場がリスクのレベルに反応する点を指摘し、「今回の事件はリスクを強めるほどの規模ではなかった」と分析している。

「予測不可能」なトランプ大統領には大きく反応

同じくロンドンを拠点とするIGグループのアナリスト、ジョシュア・マホニー氏も、「国家規模あるいは国境を越えたテロ行為は為替市場に激震を走らせる」と語っている。今回の国会議事堂テロに関しては一度きりの単体テロとの見方が強く、今のところ政府が軍事支出を大幅に増やすような事態にはおちいる可能性は低い。

また今回の襲撃が「ある程度想定内だった」との意見もある。ロンドンが大規模なテロの対象となったのはけっして初めてのことではない。過去数年は比較的平穏に見えたものの、テロ対策への警戒態勢は「深刻レベル」であったうえに、欧州で相次ぐテロの矛先がやがてロンドンに向けられるのも時間の問題だった。

どうやら「まったく予測のつかない」という点では、トランプ大統領の一挙一動の方が為替相場に大きな影響をあたえるようだ。(アレン琴子、英国在住フリーランスライター)

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