シンカー:2月の失業率は2.8%と、1月の3.0%から更に低下した。2%台は1994年12月以来である。日本の失業率の低下はまだ限界(完全雇用)に達していないことが証明された。しかし、物価上昇圧力がまだ弱いことから考えると、2014年の消費税率引き上げ後の消費者の生活防衛意識、すなわちデフレマインドが強く、低価格戦略からなかなか企業が脱せていないようだ。一方、グローバルな生産・在庫循環の好転と円安を背景とした回復がより見えやすくなってきた。循環的な景気回復モメンタムの高まりと、FEDの利上げを背景とした米国の長期金利上昇などにより、日本の長期金利にも上昇圧力がかかっているようだ。しかし、「中長期的な予想物価上昇率」を引き上げ、デフレ完全脱却の動きを確かにするため、日銀は国債買いオペを増額してでも、長期金利を誘導目標である0%に辛抱強く誘導し続ける決意をもっているとみられる。2018年までには失業率は2.5%前後まで低下し、労働需給の更なる逼迫により、賃金上昇がパートから正社員に明確に波及し、賃金上昇が加速する局面に入っていくと考える。そして、内需の回復が物価を押し上げる形になると考える。その過程で、消費者の生活防衛意識が緩み、デフレマインドからインフレマインドに変化していくだろう。

SG証券・会田氏の分析
(写真=PIXTA)

2月の鉱工業生産指数は前月比+2.0%の強い結果となった。1月は実質輸出が同-1.0%、生産が同-0.4%と弱かった。1月の輸出と生産の動きは、旧正月の日取りの影響が大きいため、2月と合わせて見る必要があった。今年の旧正月は1月28日で、昨年の2月8日より早かった。

結果として、1月の輸出と生産は弱く、2月はその反動で強く出た。2月の実質輸出は同+6.5%と極めて強かった。生産と輸出ともに年率2%台の伸び率のトレンドになっており、グローバルな生産・在庫循環の好転と円安を背景とした回復がより見えやすくなってきた。

3月の経済産業省の予測指数は同-5.0%と弱かったが、同-2.0%まで上方修正された。そして、4月は同+8.3%と極めて強く、新年度入り後の生産計画は良好である。昨年末に経済産業省は鉱工業生産の判断を「持ち直しの動き」へ上方修正した。更に、「上昇」へ判断が上方修正されるかが今後は注目される。

日銀は先行きのリスク要因として、「米国経済の動向やそのもとでの金融政策運営が国際金融市場に及ぼす影響、中国をはじめとする新興国・資源国経済の動向、英国のEU離脱問題の帰趨やその影響、金融セクターを含む欧州債務問題の展開、地政学的リスク」を挙げている。

企業も同様の警戒感をまだ持っているとみられる。グローバルな景気動向は堅調で、政策も景気刺激的であることの安心感が、生産が計画通りに増加を続けることができる中で、徐々に企業の警戒感を和らげていき、日本の景気回復基調もしっかりしてくると考えられる。

2月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比+0.2%と、2ヶ月連続の上昇となった。1月に同+0.1%と13ヶ月ぶりに上昇に転じた後、上昇幅が拡大した。過去の原油価格下落と円高の下押し圧力が消え、足元の原油価格上昇と円安の押し上げ圧力に変わる転換点に来ている。

日銀は、「消費者物価の前年比は、エネルギー価格の動きを反映して0%程度から小幅のプラスに転じたあと、マクロ的な需給バランスが改善し、中長期的な予想物価上昇率も高まるにつれて、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる」と判断している。確かに、2017年の実質GDP成長率は3年連続で潜在成長率を上回る可能性が高く、「マクロ的な需給バランス」は改善している。更に、原油価格の持ち直しや円安もあり、物価上昇率は高くなっていくだろう。企業の強い雇用不足感によりパートタイマーの時給は大きく上昇しており、サービス業でも物価上昇圧力が徐々に強くなっていくだろう。しかし、物価上昇に加速感はなく、2017年末までに1%程度に戻るのが精一杯だろう。

日銀の物価目標である2%に上昇していくためには、「中長期的な予想物価上昇率」が著しく上方シフトしていなければならないが、まだ確認されていない。循環的な景気回復モメンタムの高まりと、FEDの利上げを背景とした米国の長期金利上昇などにより、日本の長期金利にも上昇圧力がかかっているようだ。しかし、「中長期的な予想物価上昇率」を引き上げ、デフレ完全脱却の動きを確かにするため、日銀は国債買いオペを増額してでも、長期金利を誘導目標である0%に辛抱強く誘導し続ける決意をもっているとみられる。

3月の東京都区部のコア消費者物価指数は前年同月比-0.4%(同-0.3%)と、昨年12月の同-0.6%という下落のピークから持ち直しのトレンドだろうが、2月の-0.3%から下落幅が拡大してしまった。2014年の消費税率引き上げ後の消費者の生活防衛意識、すなわちデフレマインドが強く、低価格戦略からなかなか企業が脱せていないようだ。

2月の失業率は2.8%と、1月の3.0%から更に低下した。2%台は1994年12月以来である。企業の強い雇用不足感を背景として、就業者はは増加を続け、失業率は低下トレンドを続けている。ただ、年末年始の企業の販売促進による雇用の増加の反動で、労働力人口と就業者がともに減少した結果であり、この失業率の結果はできすぎで、3月には反動で若干上昇する可能性が高い。企業は4月の新年度からの業務拡大に向けて、採用活動に力を入れているようだ。2月の有効求人倍率は1.44倍と1月から変化はないが、1991年7月以来の高水準になっている。

日本の失業率の低下はまだ限界(完全雇用)に達していないことが証明された。求職者は大きく減少してきたが、生産年齢人口比率では2010年4月の3.5%からまだリーマンショック前のボトムである2.5%程度までしか低下していなかった。1990年前後のバブル期の1.5%程度まで低下することは困難であろうが、2.0%程度までまだ0.5ppt程度低下することは可能であろう。

企業が求める雇用者の条件と、労働者のスキルのミスマッチが広がり、失業率はもう低下をしないという議論が失業率が4%程度であった時から存在した。そうであれば、求職者比率は低下しないはずだし、低下しても、その低下と比較し、失業率は高くなるはずである。しかし、失業率は逆に下振れていることが確認できる。

ミスマッチはスキルの問題というより、労働時間や環境などの問題の方が大きいと考えられる。政府・企業の取り組みである働き方改革は進行し、よりフレキシブルな労働が許容され始め、失業率が求職者比率の低下に対して下振れているのかもしれない。

2018年までには失業率は2.5%前後まで低下し、労働需給の更なる逼迫により、賃金上昇がパートから正社員に明確に波及し、賃金上昇が加速する局面に入っていくと考える。そして、内需の回復が物価を押し上げる形になると考える。その過程で、消費者の生活防衛意識が緩み、デフレマインドからインフレマインドに変化していくだろう。そこまで日銀は辛抱強く緩和姿勢を続けるだろう

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
会田卓司

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