シンカー:政府・日銀の共有目標である2%の物価上昇率を前提にすると、3.5%程度が景気判断失業率、3.0%程度がNAIRU、2.5%程度が自然失業率となる。0%を前提とすると、4.5%程度が景気判断失業率、4.0%程度がNAIRU、3.5%程度が自然失業率となる。3.5%を失業率が下回り始めたところから、日本はもはや完全雇用なので財政・金融の景気刺激策は必要ないという意見が増えた。そのような意見は、デフレを克服しようとする意志が弱く、政府・日銀が0%でも物価が安定していると認識していた過去の基準に基づいたものであると考えられる。まだ財政・金融の景気刺激策を続け、失業率を2.5%まで低下させ、賃金上昇を加速させることが、2%の物価安定の目標の達成には必要であると考えられる。

SG証券・会田氏の分析
(写真=PIXTA)

失業率は3%程度まで低下し、雇用環境は大きく改善してきた。

しかし、どの水準が安定的な失業率であるのかという判断は難しい。

失業率の低下が賃金の上昇につながり、それが物価を押し上げる。

どの程度の物価上昇率を政策当局が許容するのかによって、安定的な失業率の水準は変わってくると考えられる。

政策目標の物価上昇率と失業率のコンビネーションで、実質賃金がどれだけ上昇するのかが、判断の基準となる。

実質賃金に変化がないところが、雇用環境の良し悪しの分かれ目(景気判断失業率)であろう。

実質賃金の上昇が0.5%程度となるところが、インフレが加速するかどうかの分かれ目(NAIRU)であろう。

そして、実質賃金の上昇が1%程度となるところが、雇用が完全かどうかの分かれ目(自然失業率)であろう。

1労働時間単位の「実質」賃金、失業率、そしてコアCPIには、推計で以下のような関係があることがわかっている。

1労働時間単位の「実質」賃金の前年同期比(%) = 4.76 - 1.07 失業率(1年先行、%) - 0.50 コアCPI(除く生鮮食品と消費税、前年同期比、半年先行、%)

政府・日銀は2%の物価安定の目標を共有している。

2%の物価上昇率を前提にすると、3.5%程度が景気判断失業率、3.0%程度がNAIRU、2.5%程度が自然失業率となる。

3.0%程度である失業率が2.5%程度に向けて下落する過程で、賃金と物価の上昇が加速し、物価安定の目標に近づくシナリオとなろう。

政府・日銀のデフレに対する警戒感が弱く、共有する目標がなかった過去は、0%でも物価は安定していると認識されていたと思われる。

0%を前提とすると、4.5%程度が景気判断失業率、4.0%程度がNAIRU、3.5%程度が自然失業率となる。

3.5%を失業率が下回り始めたところから、日本はもはや完全雇用なので財政・金融の景気刺激策は必要ないという意見が増えた。

そのような意見は、デフレを克服しようとする意志が弱く、政府・日銀が0%でも物価が安定していると認識していた過去の基準に基づいたものであると考えられる。

まだ財政・金融の景気刺激策を続け、失業率を2.5%まで低下させ、賃金上昇を加速させることが、2%の物価安定の目標の達成には必要であると考えられる。

図)1労働時間単位の「実質」賃金上昇率の、失業率と物価によるマトリクス

出所:内閣府、総務省、厚生労働省、SG
出所:内閣府、総務省、厚生労働省、SG

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
会田卓司

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