奇抜とも思える革命的な発想で次世代銀行を先導してきた英国のアプリ専用アトムバンクが、今度は「5年固定金利住宅ローンを2年固定住宅ローンと同等の金利で貸しだす」という、消費者にとっては夢のような融資商品で住宅ローン市場に衝撃を走らせた。

金利は住宅ローン市場最低水準の1.29%から。FinTechが起こした金融革命により転換期をむかえた住宅ローン市場では、オルタナ住宅ローンがすでに米市場の42%を独占しているという。

低金利の今、固定金利型の平均金利が最低水準に

「住宅ローンの固定金利」 とは、借り入れが発生した時期から一定期間金利に変動がなく、期間終了後に返済額の見直し・再算出が行われるシステムだ。1年から10年が主流だが、一般的に固定期間が短いほど金利が低くなる。

手数料が割高といった弱点も挙げられるが、「市場の利率変動によい意味でも悪い意味でも影響を受けない」という利点は大きい。それに加え世界的な低金利の影響で、固定金利型住宅ローンの金利も年々低下。英Halifax銀行の2015年のデータでは、変動型住宅ローン金利の平均が4.49%(前年比0ポイント)だったのに対し、固定金利型の平均は最低水準の2.26% (0.59ポイント減)まで引きさげられた。

そのため2013年から2015年にかけて、変動型から固定型に切り替える消費者が50%増えたそうだ。

低運用コストで利益を顧客に返還

英テレグラフの情報によると、アトムバンクのお得な「固定金利キャンペーン」は今月中旬から限定期間で適用される。金利は頭金や借入金額に左右されるが、例えば40%頭金をいれれて一律900ポンド(約12万3264円)の手数料を支払った場合、5年間の金利が1.29%におさえられる (手数料ゼロの場合は1.64%) 。アトムバンクが提供している2年金利固定型と同じレートに値する。

英老舗銀行もバークレイズ銀行が同様の借り入れ条件で、金利1.75%(手数料999ポンド/約13万6831円)、HSBCが金利2.74%(手数料1262ポンド/約17万2844円)と健闘しているが、アトムバンクの太っ腹加減には太刀打ちできるレベルではない。

居住用住宅ローン部門マネージャー、マリア・ハリス 氏は、「低運用コストを直接顧客に利益というかたちで還元できる、オンライン専用銀行ならではの大盤振る舞い」と、大手銀行には真似のできないサービスをアピールしている。

オルタナ住宅ローン借り換えが米市場の4割を独占

住宅ローン市場の台風の芽となりそうなオルタナ住宅ローンは、けっしてアトムだけではない。融資ユニコーンの代表格、SoFi (ソーシャル・ファイナンス)も、融資幅を学費ローンの借り換えから住宅ローンに拡大。 現在は新規借り入れから借り換えまでを請け負っている。

米ローン・ダイレクト は住宅ローンと消費者金融、レンダ は住宅ローンの借り換えを専門に提供している。

いずれのオルタナサービスも「審査の厳しい銀行から融資を受けにくい消費者」をターゲット層にしている点が特徴だ。2008年の金融危機以降、世界的な金融規制強化や低金利環境で、銀行は融資しぶりに傾いている。

連邦準備制度の報告書からは、米国では2015年の時点でオルタナ住宅ローンによる借り換えが、住宅ローン市場の42% を占めるまでに成長していることが明らかになった。
「オンライン申請の手軽さ」「銀行ほど偏っていない審査基準」「低コスト」など、ネット銀行の利点を全面におした戦略で、以前は銀行という選択肢しかあたえられていなかった消費者が、続々とオルタナ融資に流出している。

機械学習技術を活用した英デジタル住宅ローン・ブローカー、Habito

アトムバンクのさらなる前進は、こうした流れをさらに加速させると予想される。FinTechの勢いを二分する英国では、住宅ローン関連スタートアップも盛りあがりを見せている。

デジタル住宅ローン・ブローカー、Habito は、機械学習技術を利用した住宅ローン比較サイトで、総額820万ポンド(約11億2429万円)の資金調達に成功した。消費者はウェブサイトから所得や融資タイプなどの個人情報と希望条件を入力するだけで、チャットボットが住宅ローンの仕組みや条件に合った商品を細かく説明してくれる。

住宅ローンの知識がない消費者でも簡単に利用できる配慮が嬉しい。そのうえツール自体の利用は無料だ。融資を受けた場合のみ、融資総額の最高0.35% を手数料として支払う。2014年の設立以来、Habitoのサービスをとおして2万を超える利用者が総額7000万ポンド (約95億9761万円)の住宅ローンを受けている。(アレン琴子、英国在住フリーランスライター)

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