香港に本拠地を置くビットコイン取引所、BitfinexやTetherなどが、「不当に電信送金を凍結してた」として、ウェルズ・ファーゴを相手に訴訟を提起した。訴えは1週間でとりさげられたものの、事業に仮想通貨を利用している企業に不安の影を投げかけた。

その反面、仮想通貨に対する関心を高めている銀行も多く、ポジティブな風も吹いている。

Bitfinex「決済機関が容易に事業を妨害できるという先例を作ってはならない」

Coindeskの報道によると、Bitfinexによる訴状は今年4月、ウェルズの本社があるカリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に提出された 。

KGI銀行など台湾の銀行4行とBitfinex 間の電子送金取引をウェルズが凍結したとし、凍結の解除および禁止と最低7万5000ドル(約815万円)の損害賠償を求める内容だ。告訴側には同様の「凍結」を受けた仮想資産取引会社、Tether などを運営するiFinexも名前を並べていた。

こうした金融機関による予期せぬ取引の凍結が、送金あるいは着金側の事業運営に打撃となることはいうまでもない。Bitfinexを筆頭とする告訴側は「決済機関が容易に事業を妨害できるという先例を作ってはならない」とのいきどおりから、訴えに踏みきったという。

Bitfinexの勝訴の確立は低かった?

しかしこの訴えは1週間後に突然とりさげられた。Bitfinexの代表者、ブランドン・カープス氏は多くを語らず、近日中に詳細を発表する と述べた。

今回の件に関してウェルズ側が沈黙を守っているため、凍結の正確な理由すらも明らかにはなっていない。憶測の範囲であるが、ウェルズが「ビットコイン関連企業つぶし」を目論んでいるとは考えにくい。おそらくビットコインをとりまくマネーロンダリングなどの犯罪行為に対する先入観に後押しされたか、なんらかの点でコンプライアンスに反すると判断したためではないかと見られている。

起訴が報じられた当初から、複数の専門家が「勝訴のチャンスはきわめて低い」 との見解を示していた。Bitfinexなどの交換所とウェルズの間にはなんの契約も交わされておらず、金融機関には犯罪行為を防止する目的などで、疑わしい・問題があると判断した取引を凍結する権限 があたえられている。

Bitfinexの「(ウェルズに代わる)ほかの送金手段がある 」というコメントからすると、勝算の少ない裁判沙汰に時間とコストを費やすよりも、新たな決済機関との関係づくりに集中した方が、よほど生産的だと悟ったというところだろうか。

仮想通貨促進に積極的な銀行も

凍結の真相がどうであれ、ウェルズが仮想通貨の取引になんらかの警戒心をいだいていたことは明白だ。Bitfinexは昨年、7200万ドル(約78億3432万円)相当のビットコインが流失 した大型ハッキング事件でも、マスコミに大きく報じられている。

しかしすべての金融機関が反仮想通貨というわけではない。シティバンクはイングランド銀行に仮想通貨の開発を提案したほか、独自の仮想通貨「CityCoin」のテストを行っていた ことが、シティ・イノベーション・ラボの責任者、ケン・ムーア氏の発言から明らかになっている。

ゴールドマン・サックス、サンタンデール銀行、バークレイズ銀行、UBSといった国際大手でも、仮想通貨の研究・開発を視野にいれた同様の動きが見られる。世界中で3100万人の顧客をかかえる仏ソシエテ・ジェネラル は2015年、ビットコイン開発者の募集 広告を掲載した。各国の政府も仮想通貨の未来の可能性を探索中だ。

こうしたポジティブな風をうけ、ビットコインに代表される仮想通貨がメインストリームに躍りでる日も、けっして非現実的な空想ではないだろう。(アレン琴子、英国在住フリーランスライター)

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