韓国中央銀行の韓国銀行は、2017年4月20日から買い物のつり銭をプリペイドカードなどにチャージするコインレス社会のテスト事業を開始した。

テストには、コンビニエンスストアのCU、セブンイレブン、With me、大手スーパーのイーマート、ロッテマートの約2万3000店の小売店と、交通系のTマネー、キャッシュビー、銀行系の新韓FAN、ハナマネー、電子マネー系のネイバーペイ、流通系のLポイント、SSGマネーの7つのカード事業者が参加する。システム整備の関係で5月から加わる事業者もある。

韓国はカード社会

キャッシュレス,電子マネー
(写真=PIXTA)

韓国はカードが普及している。交通カードのTマネーは、地下鉄やバスなど公共交通機関を100ウォン引きで利用でき、コンビニでプリペイドカードへのチャージや買い物ができる。消費者は1000ウォン以上の買い物は、一部の露店等を除いてデビットカードに相当するチェックカードやクレジットカードで決済できるのが原則だ。カードで決済すると事業者が販売時に収受する付加価値税や個人が受けられるカード所得控除のデータが国税庁等サーバで管理され、納税申告の負担軽減とともに脱税防止にも役立っている。

接待交際費などカード決済が義務付けられている商取引もあり、提携割引や無利子での分割払いをはじめカード会社間の競争は激しい。カードで積み立てたポイントの電子マネー化やポイントのチャージ、商品の購入代金への充当に加え、口座入金などの現金化サービスも増えている。

つり銭のコインレスサービスはこのポイントチャージや現金化スキームを応用している。カードに入金されるつり銭は、銀行系カードはカード会社の現金化スキームを利用して口座に入金され、流通系カードはカードポイントとしてチャージしたあと、カード会社のコールセンターに申請して口座に入金する。

韓国銀行がコインレス化を進めるワケ

コインレス化の導入で消費者は小銭の持ち歩きが不要になり、韓国銀行も硬貨の製造や流通コストを抑えられる期待がある。韓国の硬貨は500ウォン、100ウォン、50ウォン、10ウォンの4種類で、2016年に硬貨の製造に要した費用は凡そ600億ウォン(約57億円)だが、クレジットカードや各種電子決済の発達で現金の使用は急速に減っている。2016年度の現金決済率は26%と、クレジットカード決済率50.6%の凡そ半分だった。

今回はじまったテストはつり銭をカード等にポイントや電子マネーで還元する仕組みだが、韓国銀行は積み立てた小銭がポイントを経ずに、口座に直接入金されるシステムを検討しており、2020年までに対象事業所を拡大する計画だ。

取り残される在来市場

大手チェーンは既存システムを応用できるが、電子金融が相対的に弱い個人事業者はシステムから疎外される懸念が提起されている。

カード会社や電子決済のスキームを応用するつり銭のコインレス化は、大手チェーンは既存のシステムを応用できるが、個人事業者の導入は容易ではない。個人事業者への導入が進まないままコインレス化が進行すると、消費者がコインレス化に対応していない露天商や在来市場を敬遠する可能性がある。消費者の小銭取引内訳まで露出されプライバシー侵害が加重されるという指摘もある。(佐々木和義、韓国在住CFP)

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