好調な企業決算にフレグジット(フランスのEU離脱)懸念の後退も手伝って、米株式市場はハイテク株を中心に堅調だ。しかし、最近の米経済指標は景気減速を映し出しており、先行きへの不安を内包している。

こうした中、4月の米雇用統計が発表される。企業業績が改善していることは明るい材料だが、雇用統計が景気減速を追認する内容となれば、株高に冷水を浴びせる恐れも否定できない。

間もなく発表される米雇用統計のポイントを景気動向を交えながら整理しよう。

移民政策の影響で統計に「歪み」生じる?

米雇用統計,見通し
(写真=Thinkstock/Getty Images)

3月の米雇用者数は前月比9万8000人増と事前予想を大きく下回った。ただし、3カ月平均では17万8000人増となり、依然として高い伸びを維持している。

イエレンFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、人口の増加を吸収するために必要な雇用者数の増加を7万5000人から12万5000人と述べており、9万8000人はちょうど真ん中に当たる。10万人前後の増加は「景気の過熱も失速も心配する必要がない」居心地のよい水準といえるだろう。

また、3月の家計調査での就業者が前月比47万2000人増と大幅に増えた点も心強い。

気がかりなのはラテン系の就業者が25万9000人増と全体の55%を占めている点だ。人口全体に占めるラテン系の割合は16%に過ぎないことを考えると、55%はあまりにも極端だ。ラテン系の就業者数は2月も27万4000人と大幅に増加しているが、1月は3万3000人減、昨年12月は3万8000人増と目立った動きが見られていない。

時系列でみると、トランプ政権発足と同時に異変が起きているようにも見受けられる。実際、ウォール街の市場関係者からは、トランプ政権の進める「不法移民の国外追放」の影響で合法なラテン系の雇用が増加している可能性を指摘する声も聞かれる。

つまり、移民政策の影響で統計に「歪みが生じている」恐れがあるということだ。4月以降も引き続きラテン系を中心とした就業者の増加が続くのか注目したい。

「例年通り」とは考えづらい個人消費の失速

ところで、今年1〜3月期の米GDP成長率は前期比年率0.7%と10〜12月期の2.1%から急減速し、3年ぶりの低水準に沈んだ。ただ、1〜3月期は例年数字が低いことを理由に悲観的な見方は限定的で、4〜6月期は反動により高い成長率が期待できるとして、むしろ楽観的な見方すら広まっている模様だ。

確かに、例年1〜3月期のGDPの伸びは他の四半期に比べて低くなる傾向にあるが、項目別でみると個人消費はそれほど低い数字とはなっていない。たとえば、マイナス成長となった2014年1〜3月期(マイナス1.2%)や2011年1〜3月期(マイナス1.5%)を見ると、個人消費はそれぞれ1.9%、2.0%と健闘している。

ところが、今年1〜3月期の個人消費の伸びはわずか0.3%であり、前述のマイナス成長時を遥かに下回っている。これは景気回復が本格化した2010年以降では最低だ。今回はマイナス成長時でも落ち込みの小さかった個人消費が失速していることから、1〜3月期の低成長を「例年通り」としてスルーするのは危険かも知れない。

成長鈍化に歩調を合わせるのか、それとも?

また、好調だったISM製造業景気指数も4月は昨年12月以来の低水準となり、個人消費減速の象徴である米新車販売は4月も落ち込んだままだ。今後に期待したいとろではあるが、こうした数字は状況がますます悪化していることを示唆している。

したがって、1〜3月期の反動から「(4〜6月期は)高い成長が期待できる」との見方は、文字通り期待で終わる可能性も排除できないだろう。

2016年の雇用者数は月平均で18万7000人増加し、GDP成長率は1.6%だった。同じく、今年1〜3月期の月平均は17万8000人増でGDP成長率は0.7%である。0.7%の成長率を基準にすると17万8000人増は大き過ぎるが、逆に17万8000人増から見ると成長率は低すぎる。

こうした状況を踏まえると、今回発表される雇用統計の内容が実体経済の動きにすり寄って減速を示すのか、それとも4〜6月期の高成長への期待をつなぎ止める数字となるのかがポイントとなりそうだ。

米議会とFRBで物価の見方に「食い違い」

賃金の伸びは所得の増加を通じて景気の拡大につながると考える点でも重要であるが、最近は金融政策の行方を探るインフレ指標としても注目度が高まっている。

3月のCPI(消費者物価指数)は前年同月比2.4%上昇と2月の2.7%からは低下したものの、それでも2.0%を大きく上回る状況が続いている。一方、3月のPCE(個人消費支出)物価指数は1.8%と2.0%に届いていない。

CPIに比べ、PCEはカバーする範囲が広く、信頼性も高いほか、消費行動の変化に「より柔軟に」対応していると考えられている。このため、FRBは金融政策の決定においてPCEの動きをより重視している。

しかし、公的年金を含む社会保障や公務員の給与などの調整にはCPIが用いられていることから、予算を決める米議会はCPIを重視している。CPIが2.0%を超える状況が継続していることを警戒し、米議会はFRBに対して利上げ圧力を強めている。

CPIは都市部を対象としていることや算出方法の違いなどから、通常PCEよりも高い数字となりがちである。問題はこの2つの指数が2.0%を挟んで上と下にあることで、その結果、米議会とFRBで物価の見方に「食い違い」が生じていることだ。

こうした流れから、物価を測る指標として「賃金の伸び」が注目されている。賃金の伸びが高まってインフレ圧力を強めるようだと、米議会の懸念が助長されてFRBも利上げに動かざるを得なくなるかも知れない。一方、賃金の伸びが落ち着いているのであれば、利上げを急ぐ必要はないと判断することになりそうだ。

「弱い数字」なら利上げ観測の後退も

低調に終わった3月の反動から4月の雇用者数の事前予想は19万人増とやや高めの数字となっている。事前予想通りの数字となった場合、他の経済指標との違和感が大きいことから、解釈が難しく、市場の反応も読みづらい。素直に反応すればリスクオンの流れが見込まれよう。

一方、低めの数字であれば、先行きは暗くなってしまうが、景気減速との整合性は取りやすい。10万人前後の増加であれば、FRBも利上げを急ぐ必要がなくなり、その他の弱い経済指標に合わせてハト派への政策転換もしやすくなるだろう。

したがって、「低成長・低インフレ」シナリオを示唆する結果となれば、リスク回避に動くことが予想されるものの、利上げ観測も同時に後退するので、株式市場の下げは一時的となりそうだ。為替はリスク回避と利上げ見通しの後退がともに円高・ドル安につながりやすいだろう。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)

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