はじめに
「空売り」と言えばジョージ・ソロスの代名詞で、ポンドの空売りでイングランド銀行をつぶした話は有名だ。もちろんソロス氏だけの影響でポンドが暴落したわけではないのだが、ソロス氏単体の金額の問題だけでなく、他の投資家の選択に与えた影響が大きかったことは間違いないだろう。
そして、ソロス氏の空売りが話題になったのは1992年のポンド危機だけではない。本連載では、ソロス氏が過去に行った空売りやその背景、また空売りのノウハウについても紹介する。自身のポートフォリオに活かせるよう参考にしてほしい。
Brexit、米大統領選と誤算の続くソロス氏
トランプラリーで1億ドル(約111億2600万円)の損失を出したといわれているジョージ・ソロス氏は、その後さらに米株空売りの勝負に出た。トランプ銘柄の個別株を維持する一方で、S&P500種を1億1000万ドルから3億ドルへ(約122億 3860万円から333億7800万円)、Russell2000を3億3000万ドルから4億6000万ドル(約367億1580万円から511億7960万円)へと増やしたのだ 。
ソロス氏が1992年にポンドの空売りでポンド危機を引き起こした逸話は、あまりに有名だ。しかし「イングランド銀行を潰した男」の異名に、近年陰りが見え始めているとの疑念の声も上がり始めている。
2016年は英EU離脱投票の際、ドイツ銀行株の空売りのタイミングを読み間違ったために、9000万ユーロ(約112億1901万円)もの利益を逃していた。しかしこの件は市場が残留を予想していたことから、「仕方がない」との見方が強かったようだ。
ところが半年と間を開けず、同じような誤算が生じることとなる。今度はトランプラリーの見込み違いだ。Brexit同様、ソロス氏は結果を読み間違い、対立候補であったヒラリー・クリントン氏の勝利を確信していた。それに加え、「トランプ氏が勝利すれば市場は大暴落する」という世間の予想を、そっくりそのまま鵜呑みにしていたものと思われる。
ヘッジファンドでも勝者と敗者が大きく分かれたこの勝負で、「ソロス氏が約111億2600万円の損失を出していた」とメディアに報じられたのは、2017年に入ってからだ。
米国株指数ETFから主要大型・小型を拡大
2016年第4四半期(10~12月)に300億ドル(約3兆3378億円)の資産を運用していたソロス・ファンド・マネージャー の顧客にとっては、気が気でない結果となったのは言うまでもない。
しかしソロス氏は方向転換を図ることなく、米国株の空売りを継続。さらには拡大するという大きな賭けに出た。Form 13F によると、トランプ銘柄の個別株を維持する一方で、S&P500種を約122億 3860万円から333億7800万円へ、Russell2000を約367億1580万円から511億7960万円へと増やしていた 。
米国株指数ETFの中で主要大型(S&P500種)と小型(Russell2000)を拡大したということは、ソロス氏は依然として米国株急落という自らの予想に疑いを抱いていなかったということになる。その後2017年末頃に膨大な損失を出しつつ撤退したが、2018年には再び空売りポジションを取っている。