「フェア・ディスクロージャー・ルール」とは、上場会社に関して、市場参加者の間で「情報格差」が生じないようにするためのルールである。日本ではまだ導入されていないが、この度、金融庁の金融審議会で骨子が固まった。想定される制度の内容、導入に向けた動きの背景について解説する。
フェア・ディスクロージャー・ルールとは何か
上場企業などが「株価に影響を与える可能性がある未公表情報」を特定の人のみに伝えると、その他の投資家とは情報格差が生じる。情報格差をなくすためには、特定の人に伝えたあと、時間をおくことなく全ての投資家に対して、その情報を公表するようなルール作りが必要だ。そのため、導入が予定されているのが「フェア・ディスクロージャー・ルール」である。
フェア・ディスクロージャー・ルールは、日本ではまだ制度として導入されていないが、欧米やアジアの一部の国では、既に導入されている。米国の場合、上場会社が重要かつ未公表の情報を特定の人に意図的に伝える場合には、同時に公表しなければならない。情報伝達が意図的でない場合にも、速やかに行う必要がある。EUでは同様のルールを置くとともに、上場会社は内部情報を速やかに公表するように義務付けている。
導入に至る経緯と背景
金融庁では、数回に渡り金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」を開き、情報開示についての意見交換を行ってきた。ここではフェア・ディスクロージャー・ルールについて詳細に検討すべきだと報告されている。このように至った背景には、未公表の情報伝達が問題視され、実際に行政処分を受けた証券会社が複数存在したという事実があるからだ。
● 事例1
2014年12月頃、上場会社Aが特定の証券会社に所属するアナリストに対して、未公表の業績に関する情報を伝達。アナリストが営業マンに伝え、営業マンが顧客にこの情報を提供してA社株式の勧誘を行った。1年後の2015年12月に行政処分を受けた。
● 事例2
証券会社Bのアナリストは、2015年に上場会社少なくとも3社から公表前の業績に関する情報を取得。アナリストレポートに記載するなどして顧客に情報を提供した。証券会社は2016年4月に行政処分を受けた。
導入することのメリットは ?
フェア・ディスクロージャー・ルール導入の目的は全ての投資家に公平な取引を可能にすることだが、金融審議会は、他にも次のような意義があると述べている。
・ 発行者側の情報開示ルールを整備・明確化することで、発行者による早期の情報開示を促進し、投資家との対話を促進すること
・ アナリストによる客観的で正確な分析及び推奨が行われるための環境を整備すること
・ 発行者による情報開示のタイミングを公平にすることで、いわゆる「早耳情報」に基づく短期的な売買を行うのではなく、中長期的な視点に立って投資を行うという投資家の意識変革を促すこと
ルールを明確化することで、情報開示が早期に行われる。また、情報伝達の時期に差があると、短期的な取引になりがちだ。短期の取引は、企業の長期的なイノベーションに向けた投資を阻害してしまい、ひいては日本企業の競争力低下をもたらす。フェア・ディスクロージャー・ルールの制定が、日本の経済を長期的に成長させるきっかけになるかもしれない。
今後の動向に注目
その一方、規制対象となる「株価に影響を与える可能性がある未公表情報」の定義が曖昧だという指摘もある。違反の線引きが曖昧だと、企業側が自己防衛のために何も話さなくなり、かえって対話の後退に繋がりかねない。既にアナリストの業績予想の精度が落ち、決算発表後の株価のボラティリティ (変動幅) が高まっているとの報道もある。
フェア・ディスクロージャー・ルールの導入時期は2018年春頃といわれている。法整備の詳細を含めて、今後の動向に注目したい。(提供: 大和ネクスト銀行 )
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