米株式市場は最高値を更新するなど活況を呈している。
とはいえ、景気の先行きに対する不透明感は否めず、株価についても一抹の不安は否めないところでもある。

そうした中で目先的には、まもなく発表される米雇用統計が注目される。今回は7月の米雇用統計のポイントを整理してみよう。

雇用者数や失業率には不安なし?

まず雇用者数を見てみると、6月は前月比22万2000人の増加で、3カ月平均は19万4000人である。7月の事前予想は18万人程度が見込まれているが、この数字は今年1~6月の平均値とも一致しており、予想としては妥当な数字と言えそうだ。

ただ、長期的に持続可能な数字かどうかには疑問の余地がある。1カ月当たりの雇用者数の増加は2014年が25万人、2015年が23万人、そして2016年が19万人と増勢が鈍化しているためだ。

イエレンFRB(米連邦準備制度理事会)議長は長期的には「7万5000人から12万5000人の増加が整合的」としており、18万人ペースでの増加が長期的に持続可能なペースとはならない恐れがある。FRBが完全雇用に近づいていると認識していることもあり、雇用者数の増加も10万人程度に鈍化していくほうが「むしろ健全」と言えるのかもしれない。

また、6月の失業率は4.4%と前月から0.1ポイント上昇したものの、FRBの長期見通しである4.6%を下回っており、労働市場のひっ迫を示唆している。

労働参加率の低下、薬物中毒の影響も

雇用統計での不安材料は賃金の伸びと「労働参加率」の低さにある。「高齢化社会なのだから労働参加率の低下は当然」との指摘もあるが、これは的外れと言わざるを得ない。なぜなら、働き盛りの労働参加率も低下しているからだ。

たとえば、25歳から54歳までの6月の労働参加率は81.4%となっているが、金融危機が起こる2008年ごろまでは83%台、さらにさかのぼって1990年代後半は84%台を推移しており、趨勢的な低下傾向にある。

イエレン議長は7月の議会証言で「薬物中毒が労働参加率の低下に影響している」と述べている。米薬物乱用・精神衛生管理庁によると、2015年時点で26歳以上の成人270万人が鎮痛剤を乱用しており、これとは別に現在では23万人がヘロインを使っていると推計している。

薬物中毒の拡大が人的リソースを損ない、企業が適性な人材を確保することを困難にしている恐れがある。

JOLTSは完全雇用への接近を示唆

6月の賃金の伸びは前月比で0.2%上昇、前年同月比では2.5%の上昇であった。

ただ、前年同月比での伸びについては、昨年12月の2.9%を直近のピークに縮小傾向にある。賃金の伸びの縮小が今後も続くのか、気になるところだ。

5月のJOLTS(米求人労働移動調査)では求人数が566万6000件と前月から30万1000件減少した。一方、採用件数が547万2000件と前月から42万9000件増加し、採用数が求人数に迫っている。

求人数の減少は企業が必要な人材を確保し「完全雇用」に近づいていることを示唆している。また、労働市場の信頼感を示すとされる離職率も5月は2.2%と前月の2.1%から上昇している。

こうした状況からFRBは「賃金の伸び率」の上昇が加速すると見ているが、前年同月比での伸びについては先に述べた通り縮小しているのが実情だ。

7月の雇用統計では、賃金の伸びにサプライズが見られるのか注目したい。

経済指標は冴えない数字が並んでいる

ところで、米景気は失速とまでは行かないが、伸び悩んでいることは確かである。事実、経済指標はパッとしない数字が並んでいる。

たとえば、7月の米自動車販売台数は前年同月比7.0%減、1~7月の累計で2.9%減となっており、減少傾向を強めてている。

また、6月のPCE(個人消費支出)は前月比0.1%増と前月の0.2%増から伸び率が鈍化し、個人所得も前月比変わらずと前月の0.3%増から失速している。インフレ調整後の可処分所得は前月比0.1%減と今年に入って初めてマイナスとなった。

PCE価格指数は2カ月連続で横ばいとなり、前年同月比は1.4%上昇と前月(1.5%上昇)から低下し、FRBが目標とする2%からさらに遠のいている。一般に、物価の伸びの鈍さは、需要の弱さを示唆している。

4~6月期のGDP(米国内総生産)成長率は前期比年率2.6%とまずまずの数字となっているが、1~3月期が1.2%にとどまっており、上半期の成長率は2.0%を下回っている。また、6月の個人消費の結果を踏まえると、4~6月期の数字は下方修正される可能性もありそうだ。

7月のISM製造業景気指数は56.3と前月の57.8からは低下しており、先行指標となる新規受注が落ち込んでいる。自動車の生産減少の影響が見え隠れしているほか、原油安でエネルギー産業への投資にも不安を抱えている。

このように、経済指標には冴えない数字が並んでおり、景気の拠り所は雇用情勢に傾いている様子がうかがえる。

サプライズなければ円高の流れを継続か

2日発表の7月のADP雇用報告書では、民間部門雇用者数が17万8000人増となった。このことを考えると、今回の雇用統計でも大きなサプライズはなさそうだ。

雇用者数の増加や失業率で労働市場の堅調さが確認される一方で、低い賃金の伸びが懸念材料というのが「これまでの流れ」である。この流れは今回も踏襲されるだろう。

今回の雇用統計でサプライズがなければ、低い賃金の伸びが米利上げ見通しを後退させ、円高・ドル安要因となる公算が大きい。為替については円安予想は根強いものの、昨年12月から今年3月、6月と米利上げが3回も実施されているにもかかわらず、一向に円安となっていない事実を留意すべきであろう。

IMFは7月28日に公表した「対外セクター報告書」で、ドルは米国の経済ファンダメンタルズに基づくと、10~20%過大評価されているとの認識を示している。

ドルが過大評価されており、ドル高是正をメインに考えるのであれば、FRBが追加利上げを急ぐような材料が出ない限り、円高の流れが続くのではないだろうか。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)

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