垂直統合モデルを貫き通したジョブズの手腕

アップルが破壊的イノベーションとなるプロダクトを生み出せたのはもちろんジョブズ氏の手腕ですが、なぜ世界的大ヒット商品を次々と生み出すことが出来たのでしょうか。その理由は2つあります。1つめは組織内の選択と集中を行ったこと。そして2つめは垂直統合モデルを貫いたことです。前者については、ジョブズ氏がアップルを離れている間、社内は混乱を極め、無尽蔵に商品ラインナップが増えていきその数は数百に登っていた状況でした。

ジョブズ氏が復帰をすると、皆の前で十字線を書き、左側がプロユースで右側が一般ユース、そして上のスペックが高くて下が廉価版である言い、商品ラインナップをこの4つに絞れと言明したのです。かくしてマッキントッシュはProとAirという分かり易い2つのシリーズに絞られました。皆がMacを欲しがる要因の一つに、このシンプルさがあります。他のメーカーのパソコンを買おうとしたら、複数のアルファベットや数値が羅列した多くのラインナップから機能を比較して絞る必要があります。

しかし、MacはProかAirという選択で良いのです。そして、ジョブズ氏は商品ラインナップをシンプルにするのと同じくらい徹底的に垂直統合モデルを貫きました。アップルはハードの開発、デザイン、製造、流通、そしてハードウェアに搭載されたコンテンツプラットフォームの運営までを一気通貫で行います。(製造は中国のフォックスコン等にアウトソースしていますが、それでも細かくアップル社がハンドリングを行っています。)このハード面とソフト面を一気通貫で手がけるからこそ、顧客に最高のユーザー体験を届けられるのです。

実際、androidスマートフォンに比べてiPhoneが格段に扱い易いことは、両者を使ったことのあるユーザーであれば分かるでしょう。ジョブズ氏が復帰した直後は、さかんに赤字部門であるハード部門の売却を奨められていましたが、ジョブズ氏はかたくなに拒否しました。ハードとソフトを一気通貫で手がけることがアップルの強みであり、もしもこの時ハード部門を売却していたら後のiPodやiPhoneは生まれていなかったのです。ただ、これは経営戦略と言うよりはジョブズ氏が「全て自分で手がけて完璧な物を作りたい」という個人的資質によるものも大きいのです。


今後のイノベーションは

アップル社の次のイノベーションと噂されているのがウェアラブルデバイスである「i Watch」です。ここ数年、Googleやサムスンなど世界的な企業がこぞってメガネタイプや時計タイプの身につけるデバイス、ウェアラブルデバイスの開発を行っています。iPhone以来の急成長が見込めるとすれば、アップルの発表する「i Watch」が市場を席巻する他ありません。しかし、問題なのはiPhoneやiPodのヒットはジョブズ氏の個人的好みや芸術家気質による要因が多かったということです。

例えばiPodのボディ背面の鏡面仕上げは日本の職人による手作業ですが、この部分をわざわざ鏡面仕上げにする経済合理性はありません。iPhoneのフロント部にプラスチックではなくガラスを使用しているのもそうです。(むしろ画面にヒビが入るというデメリットすら負っています。)さらには、iPhoneをデザインしたジョナサン・アイブ氏が、夜中にiPhoneのフロント部のフチの出っ張りが気になり、既に生産が開始していたのに、ジョブズ氏に進言して生産をいったん止めたこともあります。

常にジョブズ氏は経済合理性よりはデザインとしての美しさや芸術性を優先してきたのです。これは完全に個人の資質であり、一朝一夕に他人に感性をコピーすることは出来ません。ゆえに、ティム・クック体制において組織としての統率は取れているかもしれませんが、以前のような執念とも言えるプロダクトを生み出せるかどうかは、非常に難しい問題なのです。

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