目的達成にどのくらい役に立つのか。
車の自動運転には周知の通り、アメリカの非営利団体SAEインターナショナルが定めた「SAE J3016」でレベルが定義されており、これがスタンダードとなってきている。
車の自動運転は運転者の運転を支援し、事故等を抑制することを目的としており、センサー等を活用し、各種情報を収集し、迅速かつ的確に分析処理し、プログラム等によっていろいろなレベルの「安全な運転」という目的を達成するものだが、システムを活用するという幅広い意味で、一番身近で現実感のあるAI活用と言って良いであろう。
現在はレベル1、2が主流で、各自動車メーカーはレベル3、レベル4の自動運転に向け、各種走行データを収集しテストを重ね、様々なリスクに対応できるよう、技術開発、プログラム改良等にしのぎを削っている状況である。現状のレベル1や2でも、実際に事故の削減、抑制効果があり、実効性のあるAI活用状況と言える。車の自動運転においては、過去のデータ蓄積と活用がかなり有効であることが、この結果に顕れていると思われる。これは道路・交差点・信号等のインフラ、他の自動車・自転車・バイク等の行動パターン等、走行する自動車をめぐる外部環境がそう変化しないためであると考えられる。
一方、投資判断でのAI活用はどうであろうか。実際にAIを投資判断に活用したファンドが登場してきているが、既存のファンドと比較して明らかに優位な投資結果が出せているかは、経過時間が短く、まだ判断できない。ただ現状では、車の自動運転における事故率減少ほどの成果は出ていないと言えるであろう。
投資の世界では、従来からクオンツ運用という投資手法があるが、これは過去のデータの数量分析等で有効な投資判断モデルを開発して、プログラム等で投資を実行するという、人間の判断を最小限にした投資手法であるが、これとAI活用との違いは何なのであろうか。AIは過去の蓄積されたデータに加えて、ビックデータ等、より幅広い様々な種類の膨大なデータを活用することができ、また、ディープラーニング等で人間では開発できない投資手法を発見することができる等の違いがある。しかし、私には両者の違いは、車の自動運転との違いと比較すると、本質的にあまり大きくないのではないかと考えている。
車の自動運転との違いは大きく2つあると思う。まず1つには、投資判断においては、過去のデータ蓄積が将来に活用できる度合いが車の自動運転より小さいという点である。簡単に言うと、明日の道路は今日と同じと仮定することは合理的で有益だが、明日の株価は今日と同じと仮定することは現実的でないということである。投資の世界でも過去のデータは活用するが、将来は過去と同じとは思っていない。もう1つの違いは、車の自動運転では、自動運転したからといってその影響で道路の形状が変わったりすることなどはないが、投資においては、AI活用による投資も含め、買われた投資の価格は上昇し、売られた投資の価格は下落することが多いという点である。つまり車の自動運転は外部環境にあまり影響を与えないが、投資では投資を実行することで外部環境が変わってしまうのである。
もちろん、AI活用にも当然メリットはある。人間の投資判断は、感情、大人の事情等に左右され、ぶれる場合があるし、判断に時間がかかることもある。一方、AIを活用するとクオンツ運用と同様にモデルに基づいて、感情等にされずに一貫した投資判断をし、人間より速く投資の実行ができる。投資成果が挙がるかどうかは別として、システムへの依存度だけでいうと、車の自動運転でのレベル4辺りになる。また人間には発見できなかった投資手法が編み出せるので、思いもよらない有効なファクターが見つかるかもしれないし、ある程度の期間は優位な投資成果を生み出すことができるかもしれない。
しかし、機械学習レベルのAIでは、前述したように過去データ活用の限界、投資行動自体による投資対象の価格変動等があるため、長期にわたって優位性を確保していくのはなかなか難しいのではないかと思う。