要旨
今年に入って、ドル円レートは概ね110円から115円のレンジでの一進一退の推移が続いている。市場の先々の米利上げ観測が後退し、米長期金利が低迷したためだ。トランプ政権による財政政策への過度の期待が剥落したことに加え、米国の物価上昇率が低下し、FRBが目標とする2%から遠ざかっていったことが背景にある。また、イエレンFRB議長の任期満了を控えるなか、次期議長に誰が指名されるのかが見えないため、先々の利上げペースが見通しにくくなったことも影響したとみられる。さらに、4月以降、北朝鮮の核・ミサイル実験や、それに伴う米朝関係の緊張を受けて、たびたび大きく円高に振れたことで、投資家のドル買い意欲が削がれた面もある。
今後ドル円が115円を突破するための条件を考えると、まず米利上げ観測の持ち直しが不可欠となる。少なくとも、年2回~3回の利上げが織り込まれる必要がある。そのためには、米物価上昇率が持ち直していくことに加え、次期FRB議長人事が固まり、今後の利上げ継続方針が確認されることが重要になる。さらに米税制改正の動きが進展し、米国の成長加速期待が高まれば、115円突破の追い風になる。また、市場がそれほどリスク回避的にならないことも必要条件になる。北朝鮮情勢がどんどん緊迫化に向かうとの見方が台頭しないことが必要だ。また、新興国からの資金流出や米株の下落といった利上げの悪影響が限定的に留まることも重要になる。国内に関しては、今月の総選挙で、大規模緩和継続に否定的な政権が誕生しないことが115円突破の大前提となる。
筆者は、今後115円を超える円安ドル高に向かうと予想しているが、満たさなければならない条件も多い。年内に115円を突破する可能性はあるものの、定着は難しいだろう。ドル円が115円から120円のレンジで概ね安定するのは、来年に入ってからと見ている。