日銀金融政策(9月):新任の片岡委員が反対票を投じる

◆(日銀)現状維持

日銀は9月20日~21日に開催された金融政策決定会合において、金融政策を維持した。長短金利操作(マイナス金利▲0.1%、10年国債利回りゼロ%程度)、資産買入れ方針(長期国債買入れメド年間80兆円増、ETF買入れ年間6兆円増など)ともに変更はなかった。

会合終了直後に公表された声明文における景気の総括判断は、「緩やかに拡大している」と、前回から据え置かれた。個別項目では、公共投資についての判断が、前回の「増加に転じつつある」から「増加している」に上方修正された。

なお、当会合から新たに会合へ参加するということで注目を集めていた片岡委員が、物価について「来年以降、2%に向けて上昇率を高めていく」との表現に「可能性が低い」として反対を表明した。また、同氏は現行の長短金利操作に対しても、「2019年度頃に2%の物価上昇率を達成するには不十分」として反対票を投じた。

会合後の総裁会見では、同委員による反対の主旨についての質問が相次いだが、黒田総裁は「(声明文に記載されたこと以上の)議論の内容は、主な意見、議事要旨および議事録において開示すること(ルール)となっているので、この場で具体的にコメントすることは差し控えたい」と述べ、「活発な議論が行われることは大変結構なこと」と評価するに留めた。

また、総裁は、導入から1年が経過した現行の長短金利操作の評価について、「適切なイールドカーブが形成されてきた」「経済にプラスになる形で(イールドカーブが)維持されてきた」とその効果を主張する一方で、賃金・物価がなかなか上がってこないことを問題点として挙げた。長短金利操作に伴う国債市場の機能低下という副作用については、完全に否定した。

政府の財政健全化目標先送りの動きに関連して、財政規律の問題を問われた場面では、「共同声明でも財政の持続可能性を高めるということが示されており、財政規律を保つということは当然」としつつも、「政府がその時点で適切なものを決めていくということに尽きると思うので、具体的に申し上げるのは差し控えたい」などの発言に留め、政府に規律を強く求めることはなかった。

その後、9月29日に公表された「金融政策決定会合における主な意見(9月開催分)」では、ある政策委員が「追加金融緩和によって総需要を一段と刺激することが必要である」との意見を表明していたことが明らかになった。声明文との関係上、片岡委員の主張と推測される。また、現行緩和に否定的な見解を示してきた木内氏と佐藤氏が退任した影響とみられるが、政策委員の間で緩和の副作用やコストへの警戒が後退している様子もうかがわれる。

今後は、片岡委員から追加緩和の具体策の提示が行われる可能性が高く、その内容が注目されるとともに、政策委員の中で同委員を支持する動きが出てくるかどうかも注目点となる。

今後の金融政策に関する筆者の見通しは従来と変わらない。2%の物価目標達成が依然として見通せない状況が長く続くため、日銀は「モメンタムは維持されている」という主張を繰り返すことで、長期にわたって現行金融政策の維持を続けるとみられる。その際、長期金利目標も長期にわたって現状の「ゼロ%程度」で維持されると予想している。

追加緩和については、現在の枠組みで可能な対応は小幅な金利引き下げや買入れ資産の小幅な拡大などに留まり、効果も限定的とみられる。かと言って、大胆な追加緩和策を採るとなると、もはやヘリコプター・マネーや外債購入といった劇薬しか残されていないと考えられることから、追加緩和が実施される可能性は低いとみている。