金融機関に3年ほど勤め、辞める若者たちがいます。

彼らは何を夢みて金融機関に就職し、そこで何を体験したのでしょうか。

「証券会社を去った20代の若者」の体験談から、今金融業界が抱えている問題点を探ります。

座談会の出席者(聞き手以外、全て仮名)

  • 元証券マン①…蒼汰。タヌキ証券に3年勤務した
  • 元証券マン②…賢人。ウサギ証券に4年勤務した
  • 元証券マン③…和也。カメ証券に2年半勤務した
  • 聞き手…くすいともこ。女性向け投資メディア「DAILY ANDS」編集長

入社理由は「アツい人間が多かった」

元証券マンの座談会
(写真=筆者撮影)

くすい :今日はお忙しいなか、お集まりいただきありがとうございます!元証券マンの座談会ということで、証券会社に入ったきっかけ、辞めた理由などを率直にお伺いできればと思います。よろしくお願いします。

一同 :よろしくお願いします。

くすい :では早速、タヌキ証券に3年勤務した蒼汰さんから。なぜ、証券会社に入ったんですか?

蒼汰 :僕は就活をはじめた頃、もともとコンサルタントになりたいと思っていました。理由は色んな業種に関われるからです。そんな時、たまたまタヌキ証券から説明会のメールが来て、金融にも興味があったので行ってみました。そしたら、アツい人間が多くて。ナンバーワンのセールス部門になる、みたいな……。他社からも内定もらっていたんですが、その中で一番かっこいいなと思ったのがタヌキ証券だったんです。

くすい :そこが人生の分かれ道だったと。ひとまず蒼汰さんが証券会社に入ったきっかけは「アツい人が多かったこと」だった。では次に、賢人さんはなぜウサギ証券に入ったんですか?

賢人 :僕はもともと学校の先生になりたかったんです。でも、子どもたちに何かを教える時に日本社会の構造を知っておいた方がいいと思って、日本経済の中心となっている商社と金融を受けたんですよね。最初、カメ証券に受かって内定者懇親会に行ったら、自分と合わないヤツばっかりだったんで、ウサギ証券を受け直したんですよ。

くすい :そうだったのですね!カメ証券といえば和也さんの古巣ですね。和也さんはなぜカメ証券に?

和也 :僕はどこでもよかったんです。就活のときは、業種は絞らず、いろいろ受けましたね。10社くらい。

賢人 :それ、少なくない?

和也 :証券、銀行、メーカー、広告……。あとは、東京証券取引所に行きたかったです。

くすい :なぜ東京証券取引所?

和也 :僕は内定をもらった会社で一生懸命頑張ろうって思っていたので、色んな業界を見られる会社がいいいなって思ったんです。それで金融を中心に見ていて、東証の会社説明会に行ったら人が「ゆるく」て、よさそうだなって思いました。でも、東証は結構早い段階で落ちて、東日本大震災が起きて……。朝からバイトでもするか、ってバイトしていたら、電話が来たのがカメ証券のリクルーターだったんですよ。「マーチ」のリクルーターですね。(※和也さんは「マーチ」出身)

蒼汰 :あー、「2軍」ですね。そろそろ人いれないとヤバイなっていう時期だったんでしょう(笑)。

賢人 :早慶じゃムリだった、次マーチに行っとこう!みたいな(笑)。

和也 :ですね(笑)。そこからトントントンって内定をもらって、「最初に内定もらったところにしよう」と思っていたので就活をやめました。

賢人 :ちなみにカメが一番、リクルーターがお金を使っていますよね。1杯1000円くらいするホテルの紅茶かなんかを奢ってもらえるって聞きました。

和也 :ああ、そうだね。東京駅の近くにあるホテルのコーヒーを飲んだかも。

くすい :ふむふむ。3人に共通していたのは、もともと証券マンになりたかったというわけではない、ということですね。では実際は入社してみてどうだったんでしょうか?

蒼汰 :「人と人のつながりがない」んですよ。職場の序列の基準が数字。数字で順序がつく。入社後、支店に配属されてすぐに営業成績がランキングが発表されましたが、僕は半年ほど数字が全然出せなくて、「お前、ほんとにヤバイぞ」って毎日上司から言われていました。でも、誰も助けてくれないから打ち手が分からないんですよね。一番堪えたのは、周りの人間の冷たさですね。

くすい :人間の冷たさ、ですか……。

蒼汰 :自分に自信を持って入社したのに、だんだん自分に自信がなくなっていくのも辛かったですね。

和也 :教育係の先輩はいなかったの?

蒼汰 :いたけど、特に指導はなかったですね。2週間に一回くらい上司にガンガン詰められましたし、出社5分で「帰れ!」って大声で怒鳴られもしました。そこで帰ったら終わりなんで、帰らなかったですけどね。

賢人 :最近だとそれで帰っちゃう若者もいるらしいよ。「えっ、帰っちゃった!?マジ?」っていう。

元証券マン前編・カット
(写真=筆者撮影)

教育の「文化」があるウサギ証券

くすい :賢人さんはどうでしたか?

賢人 :タヌキ証券みたいな人間が冷たいっていうのは特殊だと思いますよ。僕の場合、厳しい会社だと思って入ったら、意外と人に優しい会社でしたね。ちゃんとみんなをトップセールスに育てたいってすごくアツい思いがあることがわかったんです。そこはすごくいいギャップでした。

蒼汰 :ウサギ証券は先輩が後輩を指導する「文化」がありますよね。悪くとらえたら「軍隊」ですけど、よく言えば教育制度が充実している。

賢人 :例えば口座開設100件が目標だったとして、残り3日で目標まであと5件だとすると、インストラクターが「今日、一緒に5件開設しよう」って一緒に外交してくれるくらいのアツさがありました。

くすい :そうなんですね。タヌキ証券とは大違いです。カメ証券はどうでしたか?

和也 :1年目はそんなに強く言われないんですよ。3年目から頑張るために、新規開拓してねという感じ。ちなみに2人は入社2年目でどれくらいの収益目標あった?

賢人 :僕は200万円。手数料で月に200万円稼ぐ。

蒼汰 :僕も同じくらいかな。

和也 :やっぱり多いね。僕の会社は2年目で100ぐらいだった。100(万円)いくと同期の中で30位ぐらいだったよ。

キャンペーンやレースのために頑張った

蒼汰 :なんかもう会社によって全然違いますね。僕の会社は新人のうちから即戦力。新人が活躍すると支店の順位が10位ぐらい上がるんです。逆に言うと、新人が頑張らないと支店の順位が低い。ある時には「お前、今月できなかったらわかってるよな?」って先輩から言われて、それはつまり「辞めろ」っていう意味でしたよ。

くすい :そういう時はどうやって目標達成したんですか?

蒼汰 :「仕込んで」いましたね。12月は新人レースがあるって最初から分かっていたので、10月、11月とお客さんには「12月にスゴイ商品が出ますよ」って言って。主に国債の販売なのですが。

賢人 :キャンペーンは意識するよね。あんまり最初に数字を出すとみんな追いついてくるから、うまくバランスを考えながら最後に勝ちにいく、みたいな。

蒼汰 :2年目レースっていうのもありましたね。毎日電話しあい。「いやー、ムリ!」って言いながら、最後にみんな入れてくる。

くすい :結果は常に見えているものなんですか?

賢人 :見えてます。ウサギだと四半期に1回、キャンペーンがあるから、やりすぎると次に数字が出なくなるんですよね。バランスを持って、ベスト3に入るにはどうしたらいいか?っていつも考えていました。

セールストップは4年目で年収2000万円!?

くすい :レースやキャンペーンで上位に入ると何かいいことがあるんですか?

蒼汰 :プライドですよ。ボーナスも出るけど、大したことはありません。

賢人 :カメは確か、ボーナス大きいよね。

和也 :頑張った分だけ連動しますね。4年目で一番できた同期は年収2000万円でした。キャンペーンで上位3位以内に入ると一番もらえる。投資信託とか部門別で表彰されるんですけど、部門1位で、なおかつ会社が設けたバー、例えば3億円とか、を超えると300万円ボーナスでもらえる感じでした。

賢人 :僕の会社は付いても50万円、あって100万円くらいかなぁ。なので先輩方の年収は絶対に超えられなかった。

和也 :年収2000万円って言ったら多分、支店長レベルなので、プレイヤーの方が儲かる会社でした。

蒼汰 :マジで!?いい会社!

賢人 :カメ証券はおっとりしている人が多いから、ガツガツしている人が稼げるんじゃない?

営業成績はトップからビリまで全てオープン

賢人 :ちなみにウサギ証券では、さっき、収益目標が200万って言いましたけど、それを目標にしているとトップセールスマンにはなれないので、デキる人はみんな自分でそれ以上の目標を設定していましたよ。前年度の順位を見て、だいたいいくらぐらいで何位になれるかチェックして。

くすい :へ〜。過去の順位も見られるんですね。

賢人 :全部見られますよ。トップからビリまで。

くすい :目標を達成するためには何を売ってもいいんですか?

賢人 :何でもいいです。投資信託でも、株でも、債券でも。

蒼汰 :僕は債券が大変でしたね。絶対に売りきらないといけない数字があって。

苦労したのは「債券」の販売

くすい :それはなぜですか?

蒼汰 :債券の仕組みとして、一回、証券会社が保有しているんです。売りきらないといけないんです。A社(某大手企業の社債)とかね〜。

賢人、和也 :あー、わかる!A社は超つらい。

蒼汰 :やっぱどこもそうなんだ!ホント辛かったよね!!

くすい :えっ、どういうこと!?

和也 :国債って国が発行するじゃないですか。社債って、A社とかが発行して、それを証券会社が全部売りきらないといけないんです。

蒼汰 :グループ会社だとバンバン、債券を発行するから、毎月同じような債券が出てくるんですよ。

くすい :なぜ毎月そんなにたくさんの債券が発行されるんですか?

蒼汰 :金融機関には債券部門っていうのがあって、どんな商品だろうが発行すると「発行手数料」が入るんですよね。それをお客さんに販売したら「販売手数料」が入る。

くすい :なるほど、発行すればするほど儲かると。

蒼汰 :確かに金融機関側はすごく儲かるんですけど、今、低金利なのでだんだん金利がつかなくなってくるんです。そうすると海外に目が向くんですよね。でも、海外の債券って発行手数料も高い。先進国だと金利も下がっている。僕、毎月毎月同じ100人のお客さんにオーストラリアの債券を販売していましたが、お客さんから「また同じやつでしょう」って言われて。

売りにくい金融商品のセールストーク

くすい :そういう時はどうやって販売するんですか?

蒼汰 :「いや、今回のは違うんです!」って説得していました。前回、売った時からいままでの変化を説明したりして。でも、本当は同じ商品だし、なんなら前より条件は悪いっていう……。(笑)

賢人 :金利がだんだん下がっているからね。

和也 :僕はシナリオを売っていましたね。今後、オーストラリアはこうなるだろうという「シナリオ」を描いて、買ってもらう。

賢人 :僕の場合は、今、買ってくれないお客さんに対しては、じゃあどうなったら買うのか、という部分を押さえておいて、そうなったら買ってもらいます。そういう策をいくつも立てておくわけです。

くすい :色々と手段があるんですね。「売りにくい金融商品の売り方」は先輩から教わるんですか?

蒼汰 :いや、僕は自分で考えていましたよ。

和也 :僕はまわりが電話しているのを聞いて、「その言い方いいなぁ」というのをマネしたりもしていましね。

賢人 :僕は先輩に同伴してもらった時のセールストークを覚えて使っていましたね。

後編は「辞めた理由」と「3年続いた理由」

ハイボールを煽りながら証券時代を楽しそうに語る3人。各社の風土に違いはあれど、やりがいを持って生き生きと働いていた様子が伺えます。

そんなに楽しそうに働いていたのに、なぜ3人は証券会社を去ったのでしょうか?後編ではその意外な理由がわかってきました。(後編に続く)

くすい ともこ
働く女性のための投資メディア「DAILY ANDS」編集長。北陸の地方紙で5年間記者として勤務後、Web編集者に。「無理のない範囲でコツコツ」をモットーに資産運用を実践中。