世界には、行き場を失った「ホームレスマネー」が多く流通しています。しかし、その多くは日本などには到来せず、アメリカに流れていくのです。特に、シリコンバレーや、「新シリコンバレー」と呼ばれるサンフランシスコなどベイエリアへのマネーの流れを把握しておくことは重要です。

(本記事は、大前研一氏の著書『マネーはこれからどこへ向かうか 「グローバル経済VS国家主義」がもたらす危機』KADOKAWA(2017年6月16日)の中から一部を抜粋・編集しています)

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大前研一,マネーはこれからどこへ向かうか 「グローバル経済VS国家主義」がもたらす危機
(画像=Webサイトより、クリックするとAmazonに飛びます)

世界中を飛び回るホームレスマネー

21世紀に入ってから、世界のお金の流れが大きく変わりました。経済的な国境がないボーダレス・ワールド化し、世界中のホームレスマネーが国境をまたいで、リターンの高いところに向かって飛び回るようになったのです。このお金の動きはテクノロジーの発達によって益々加速されていると言っていいでしょう。

世界的なマネーの流れを見るうえで見過ごせないのが「ホームレスマネー」の存在です。ホームレスマネーとは、高いリターンが得られる投資先を探して世界中をさまよっている、不要不急で無責任きわまりないお金、余剰資金のことです。

その額は、リーマンショック以降減少しているものの、最盛期には6000兆円もありました。このホームレスマネーは、世界の一部の都市や地域に流れていますが、残念ながら日本にはほとんど流れてきません。

ホームレスマネーが生まれたのは、市場の金あまり現象(過剰流動性)が主な原因です。この過剰流動性は、以前は政府が考えなく金融緩和を行い、実体経済を大きく上回る資金を市場に提供したことで起こりました。ですが、21世紀になってから出現したホームレスマネーの大きな要因のひとつは、世界的に高齢化とモノあまりが進み、需要が低調となったことでお金がモノに転換されなくなったことです。

アメリカ経済の好調でベンチャーにマネーが流れている

今の世界的なマネーの流れを見ると、一時期、新興国へと向かったお金の流れが再びアメリカに戻りつつあり、このところアメリカの経済状況は非常に良好です。とくに2015年と2016年12月に行われた利上げにより、先進国の中で最も金利が付くのはアメリカであろうと、近年世界中からマネーが流入しており、2015年の外国直接投資受け入れ額は3480億ドルと過去最大を記録しました。

そして、そのマネーの多くがユニコーン企業などのベンチャーに流れるという現象が起こっています。ユニコーン企業というのは想定時価総額が1000億円を超えているにもかかわらず上場していない企業(未上場ベンチャー企業)です。日本にはフリマアプリのメルカリとDMMくらいしかありませんが、アメリカにはこうしたユニコーン企業が数百社あります。

一方、VC(ベンチャーキャピタル)投資額は2000年にITバブルの絶頂期を迎えた後、急落し、その後はリーマンショックも影響して低迷しましたが、近年徐々に上向き、2015年にはITバブル期以降で最高の水準まで戻ってきています。

新シリコンバレー(ベイエリア)にVC投資が集中

VCがアメリカで投資している地域・都市の推移においては、投資の約半分はシリコンバレー(ベイエリア)に集中しています。規模にして5兆円ほど。対してニューヨーク、ボストン、ロサンゼルスへの投資は1兆円ほどですから、投資額の点でシリコンバレーが圧倒的に上回っています。ちなみに日本ではVCの投資額は逆立ちしても数千億円レベル。そのうえ、ファンドを組んでも投資先がないといった状況です。

さらに5億ドル台で前述のスナップチャット、リフト(ライドシェアリング)、ゼネフィッツ(中小企業向け人事管理サービス)、4億ドル台でパランティアテクノロジーズ(ビッグデータ解析)、WeWork(シェアオフィス)がランクインしています。

ここで注目すべきはランクインした企業の所在地です。1位から9位の企業はすべてカリフォルニア州の会社です。10位のWeWorkは今でこそニューヨークに拠点を置いていますが、起業地はサンフランシスコ。つまり、VCの投資額上位10案件はすべてベイエリアで生まれた企業が占めているのです。他のエリアの企業はこの規模の金額を調達できていないということです。

IT産業の重心はサンフランシスコへ

先ほど新しいシリコンバレーの定義(ベイエリア)について説明しましたが、ここでは「従来のシリコンバレー」と「サンフランシスコ」に分けて考えてみたいと思います。

もともとシリコンバレーと呼ばれていたエリアと後発のサンフランシスコを比較すると、実はサンフランシスコがここ数年で急成長しており、2014年時点では従来のシリコンバレーと同等の投資額を得るまでに至っています。今後はおそらくサンフランシスコの方が投資額を伸ばしていくのではないかと私は予測しています。

では、両エリアでどのような企業にどれほどの大型投資が流れているのかを確認してみましょう。従来のシリコンバレーでは、ピュア・ストレージ(クラウド・データストレージ)で2億2500万ドル、タンゴ(メッセージングアプリ)で2億ドル、パランティアテクノロジーズで1億6500万ドルが上位3社。対するサンフランシスコでは、Uberが12億ドル、ドロップボックス(クラウド・データストレージ)が3億2500万ドル、リフトが2億5000万ドルとなっています(ともに2014年Ⅰ~Ⅲ期のデータ)。

つまり、IT産業の重心が従来のシリコンバレーからサンフランシスコへ移動しつつあることが窺い知れます。

このように、マネーの流れは新興国からアメリカへ、アメリカの中でもシリコンバレー(ベイエリア)、とくにサンフランシスコ地域へ集中的に向かっていると見てよいでしょう。

日本に流れてこないホームレスマネー

しかし、ホームレスマネーをはじめ世界のお金は一向に日本へ向かう気配がありません。日本は世界的に見ても巨大なマーケットを持っており、株式市場を見ても資産価格以下の株価水準の企業がたくさん存在することを考えると、ホームレスマネーを呼び込む条件は揃っていると思うのですが、日本へはほとんど流入していません。アベクロ政策と称して低金利で市場にお金を大量に流したところで、経済がそのお金を必要としなければ景気回復につながらないどころか、そのお金はどんどん海外へ出て行ってしまうのです。

日本は、今一度、なぜマネーがアメリカへ、とくにシリコンバレーへ向かっているのかをよく理解し、日本に資金を呼び込む方策を考えるべきでしょう。そこでは、シリコンバレーの潮流を日本に取り込むことが重要になってきます。

大前研一
株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長/ビジネス・ブレークスルー大学学長。1943年福岡県生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、東京工業大学大学院原子核工学科で修士号、マサチューセッツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、常務会メンバー、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。