不動産投資家、あるいはそれを目指す者にとって、借主とのトラブルは切っても切り離せません。ただお金を払って購入したものを貸すのが投資家や大家ではなく、そこには様々な法律の縛りがあるのです。ここでは、不動産投資における法律のトラブルとその対策について、ケースごとに解説していきましょう。

(本記事は、岡田のぶゆき氏、福岡寛樹氏の著書『大家さん、その対応は法律違反です! 〜不動産投資の法律トラブルと対策 Q&A〜』ぱる出版(2017年11月17日)の中から一部を抜粋・編集しています)

土地の概要は登記簿に明記されているが、それでもトラブルは起きる?

土地の概要というのは登記簿に明記されています。ここでいう登記簿というのは、不動産(土地・建物)の記録のことです。以前までは不動産の登記は、すべて手書きの紙をバインダーで閉じたいわゆる登記簿によって管理されていました。しかしデータ化社会が進むなかで、その内容をデータ化し、コンピュータによって管理するようになったのです。ここに記載された内容を登記記録と呼びます。

不動産の登記記録には土地と建物の2つがあります。もちろん、土地と建物ではデータ化された情報が違っています。ここでは土地の購入に関連するトラブルについてのお話をしますので、その記録内容に触れておきましょう。土地の登記記録には次のものが掲載されています。

・土地の所在
・土地の地目
・土地の大きさを表す地積
・土地が分筆や合筆、地積更正などが行われた情報
・土地の所有者の住所と名前と持分
・土地をどのようにして所有したかの原因
・土地を担保にお金を借りたり返したりした情報などの情報

項目上はこれでしっかりどのような土地なのかがわかるように思えますが、それでも起こりうるのがトラブルです。そのような事態に対処するためには、法律についての知識を少し身につけておく必要があります。なかでも隣地との境界がはっきりしない土地というケースには注意が必要です。

隣地の境界を公図頼みにしてはいけない

事例は100坪の古家付の土地を購入したときのトラブルです。この土地を更地にしてマンションを建てる予定でした。通常、土地を購入する場合、買主は不動産仲介業者から物件概要書などの資料の提供を受け、購入するかどうかを検討します。そして、気に入った場合は、住宅地図や公図や不動産登記簿謄本などを取り寄せて、さらに具体的に検討を進めることになるのですが、現状渡しというケースには注意しなければいけません。

このケースでは、仲介業者から「現状渡しになりますよ」と言われていましたが、公図や謄本等の資料を見ても特に問題がないと判断し、土地を購入しました。しかし、購入後、測隣家の塀の向こう側1メートルほどの位置に、「境界標」として杭が立てられていることがわかりました。そして公図は、その杭を境界として作成されたものであることもわかりました。ところが隣家の塀が杭よりもこちら側にはみ出しているため、現実には約94坪であることがわかったのです。隣家の話によると、少なくとも30年ほど前から、この杭があったということです。

建設しようとしていたので、6坪狭ければ大幅な設計変更が必要。ところが仲介業者は「現状渡しの公募売買なので……」と説明するだけで、何の対応もしません。隣家にも直接相談に行きましたが、「昔から塀はあった」と塀を設置し直そうとしません。

しかし泣き寝入りする必要はないのです。実は購入後であっても、売主には代金減額請求、仲介業者には善管注意義務違反で責任の追及できることがあるからです。それでは土地の境界がはっきりしない場合の対処法、売買契約書の記載と実測値が異なる場合に「売主」「仲介業者」にできる請求、トラブルを回避するための予防策、という3つの視点で考えていきましょう。

そもそも土地の境界線には、通常「境界標」があります。もし境界標がない場合は、他に参照できる資料を利用して境界線を判断することになります。例えば、過去に作成された測量図、登記所にある地積図や公図などが挙げられます。それらの資料を基に、隣接地の所有者との間で協議して境界を確定するのが通常の流れです。境界について合意した場合には「境界合意書」、公法上の筆界が定まった場合には「筆界確認書」といった書面を作成し、保管しておくとよいでしょう。

ただし公図の多くは、測量技術が未熟だった時期に作成されたもので、土地の形状や縮尺が正確に表記されていないケースも多いもの。これらの方法で境界が定まらない場合は、筆界特定制度を利用して登記官に筆界(公法上の境界のこと)の特定をしてもらうか、裁判所に境界確定の訴訟を提起することになります。

ここで1つ注意点があります。それは土地同士の境界線がどこかという問題と、所有権がどこまで及んでいるのかという問題は別であるということ。つまり、既に境界が確定していたり、当事者双方の間で争いのない信用できる境界標が存在したりする場合でも、その境界線を越えた部分の土地の所有権が争われることがあるのです。

民法は、他人の所有地であっても、10年ないし20年問、継続して占有した場合は、その占有していた土地の所有権を取得することができると定めています。これが土地の時効取得です。一筆の土地の一部であっても時効取得の対象になるので、占有されていた一部について占有者が所有権を時効取得することになります。このケースでは、もともと定められていた境界線は、隣家の塀の向こう側にある「境界標」としての杭の位置であることが認められそうです。仮にそう認定されたとしても、30年以上前から隣家がその杭を越えて塀を設置しており、隣地所有者が土地を占有してきた事実が認められ、隣家が時効取得していると考えられます。この場合、土地の購入者としては、隣家に対し、時効取得が成立している約6坪の土地について、相当な対価での買取を提案する方法があります。その際の条件として、土地購入者の負担で新たに塀を設置したり、これを機に境界線を明確にするなどの提案ができます。

時効により所有権を取得した場合には、取得者は土地の所有権について登記をする必要があります。時効取得が一筆の土地の一部の所有権である場合は、まず土地を分筆した上で登記する必要があります。土地を分筆するには、もともとの所有者の協力が必要となりますが、協力が得られない場合には、裁判所に訴訟を提起することになります。

次に、売買契約書の記載と実測値が異なる場合に「売主」「仲介業者」にどういった請求ができるのかという問題です。「売主」に対しては、民法上、売買契約の信用を確保するため担保責任が課されています。つまり、買主は不足分の代金減額請求が可能です。土地の不足について「知らなかった」かつ「不足のために売買をした目的が達成できなかった」という話で、売買契約を解除して、損害賠償を請求することも考えられます。このケースが、単価を基準にした「数量指示売買」であれば、6坪分の代金減額を売主に請求することもできます。「数量指示売買」とは、売買代金が売買目的物の数量に単価を掛けて決定される売買契約をいいます。

続いて「仲介業者」へできる請求。仲介業者は委任された内容に従って善良な管理者の注意義務を負っており、売主と買主の問に立って売買契約を成立させる業務を担当しています。境界について争いがあるという事実は、購入判断にとって重要な情報です。この仲介業者が買主に伝えなかったとしたら、善管注意義務違反になるといえるでしょう。裁判例でも「仲介業者に土地の境界を明示して買主の損害の発生を未然に防止すべき義務がある」としたものがあります。

では、実際にトラブルを回避するための予防策はどうすればいいでしょうか。まず、公図等の資料のみで判断をせず、購入者自らが現地調査を実施することが肝要です。本件のようなケースであれば、簡易な測量を行っていれば100坪に満たない土地であることが判明したでしょうし、隣家に聞き取りを行えば、境界標の杭が存在することや、これまでに境界についてトラブルがあったかなどの情報も得られたでしょう。そうなれば、そもそもこの土地の購入を断念するとか、隣家との間で境界に関する紛争解決の見込みがあるかを見極めて交渉するといった選択をすることができ、トラブルを未然に防止できたと考えられます。

岡田のぶゆき(おかだ・のぶゆき)
大阪生まれ。23才から投資効率を最大限高める事を目標に収益物件への不動産投資を始める。主な投資先は一棟マンションを中心にビル、区分所有、底地、工場、倉庫、駐車場、別荘等多岐に渡る。約45億以上(売却済物件を含む)投資し、実行融資総額は35億以上。売却総数約60件。現在も年間平均10件以上売買を繰り返す。「長期的保有による賃料収入」「物件再生、不動産評価の価値を向上させて売却益を得る」等を考え投資している。2012年4月に不動産投資家コミュニティ「これから大家の会」を設立し、勉強会、交流会を開催している。

福岡寛樹(ふくおか・ひろき)
平成23年 弁護士登録、大阪弁護士会所属。弁護士登録後、顧問先企業を中心に不動産関係の紛争を数多く解決するなどして経験を積む。平成29年 袖縁綜合法律事務所 開設。これまでの経験を活かし、不動産投資家向けの講演を実施している。経営者や士業の交流を目的とする「袖縁会」を主宰し、落語会を開催するなどの活動も行っている。

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