不動産物件のオーナーは、物件購入後もの立場で様々なトラブルに見舞われます。その都度、適切な対処をしていくのは非常に難しいことですが、事前に問題になりやすいことを知っておくことで事前にできることも見えてくるはずです。ここでは、建物、入居者、管理運営のトラブルにわけて、よく耳にするケースを紹介します。
(本記事は、岡田のぶゆき氏、福岡寛樹氏の著書『大家さん、その対応は法律違反です! ~不動産投資の法律トラブルと対策 Q&A~』ぱる出版(2017年11月17日)の中から一部を抜粋・編集しています)
建物に関係するトラブル
新築のアパートを注文購入した際、検討時はその土地に古家が建っている状態でした。参考のために、メーカーが同じ時期に建てた別のアパートを見学。同じ仕様のアパートが建つと認識して、アパートを注文購入したのですが、竣工してみると見学したアパートよりレベルが落ちているように感じました。メーカーに聞くと見学したアパートは注文者の意向でグレードアップしていたそうで、オプションを申込まなくてはいけなかったとのこと。購入前に聞いていた話と違いました。こうしたケースではどうすればいいのでしょう。
この場合、建築業者に対して瑕疵担保責任を追及することが考えられます。建売アパートだけではなく、最近はプラン売りアパートが人気のようです。しかしプラン売りの場合、まだ建物が建っていない青田買い状態で契約しますので、出来上がってみたら想像していたものと違うとか、付いているはずの物が付いていないとか、あると思っていた駐輪場がない、外灯がないなどのトラブルもありえます。プラン売りで注文購入する際には、既に施工済みの別のオーナーの物件を見学して購入するかどうかを決めることも多く、その際に、別のオーナーがオプションでつけている物を見て、普通に付いているものだと思いこんでしまうケースもありがちでしょう。
プラン売りアパートは建築条件付き住宅と同じで、図面やイメージ図、メーカーの仕様書などがついてくるはずです。トラブルを防ぐためにも、よく仕様を確認することです。建物の完成前であれば、注文者は建築業者に対し、債務不履行に基づく契約解除や損害賠償請求等を求めることができます。しかし、建物完成後は次に述べるように「請負人の瑕疵担保責任」等を追求していくことになります。
ここにいう瑕疵というのは、「契約の内容に照らし通常備えておくべき性能が欠けていること」をいいます。建築請負契約でいうと、マンションの建築を依頼した場合に、大きいお風呂でないといけないところを小さなお風呂にされている、広々したキッチンでないといけないところを小さなキッチンにされている、といったようなことが挙げられます。
「契約の内容に照らし通常備えておくべき性能」が欠けていると認められ、契約をした目的を達することができない、つまり、「それが実現できないのであれば、このマンションを建てる意味がない」と認められる場合には、注文者、つまり建築請負をお願いしている方は契約の解除ができるようにも思えます。しかし、この条文には「ただし書き」があります。「ただし、建物その他の土地の工作物については、この限りではない」という定めのことです。これは、請負契約の中でも建物等に関する請負契約は特別な考慮が必要であり、仮に瑕疵があったとしてもその建物等が完成した後は解除できないとされているのです。当初の計画と違った建物ができ上がって来たとしても解除はできません。そのため、次項で説明する修補請求などを求めていくことになります。建築請負の場合は厳しく、建物が完成すれば、少々中身の仕様が違っても、契約の解除までは認められない場合が多いのです。「建物が完成した以上は契約解除=建て直しはできない」というのが大前提としてあるのです。
こうなってくると、大きな問題になるのは「耐震の基準を全然満たしてない」というようなケースです。例えば柱、鉄骨が、材料費の関係で設計の半分以下しか入っておらず耐震基準を満たしていなかった。実際、このようなケースで解除を求めて争った判例もあるのですが、やはり解除は認められませんでした。ただ、建築費用相当額、全額の損害賠償請求を認めています。つまり、法律の文言上解除はできないけれど、解除したのと同じだけの損害賠償を業者に負わせることができる、という判断が下されています。損害賠償には、受け取ったお金だけでなく、その解体費用が入る場合もありえます。使えない建物が建ったままでも困りますし、契約前の現状に帰するという意味でも、更地に戻すのに要する金額まで認められるように思います。
なお、民法では「建物が完成した後は解除できない」とされていますが、「建物が完成した」か否かという判断にあたっては、「上棟」が基準とされているケースが多いです。RC造(鉄筋コンクリート造)ではコンクリートの打ち込みが終了したとき、鉄骨造では鉄骨工事が終了したときを指すことが多いでしょう。裁判例によって判断内容に幅がありますが、建物そのものが棟上げされていると解除できないと判断される可能性が高いようです。 例えば、バスルームややキッチンのサイズが、小さくなっていた場合はどうなるのか。当初のプランニングされたサイズより、実際には小さいサイズしか設置できなかった……というケースでは、たとえ20センチの差でも、収益物件としての賃料や競争力は大きく変わってきます。ある程度のコストはかかりますが、建物全部建て直す必要まではありません。しかし、その設備が物理的に入らずやり直しができない場合は、お金で解決するしかありません。それなら、建築の請負代金を減額してもらう交渉や、あとは、損害賠償による金銭的解決です。バスルームのサイズが小さくなることで、物件の競争力も落ちて、家賃が3000円下がってしまうというのであれば、それを立証できれば、ある程度の金額を損害として主張できるかもしれません。ただそれには、実際の入居率や募集家賃がどうなるのか、周辺の家賃相場と比べてどうなのか、など客観的なデータ集めが必要になります。
基本的に新築住宅を供給する事業者は、住宅のなかでも特に重要な部分である、構造耐力上主要な部分および雨水の浸入を防止する部分の瑕疵に対する10年間の瑕疵担保責任を負っています。瑕疵担保責任とは、契約の目的物に瑕疵(欠陥)があった場合に、これを補修したり、瑕疵によって生じた損害を賠償したりする責任のことをいいます。そうはいっても、建築業者がいい加減であったり、建物を建てた後に倒産してしまう恐れもありました。2009年(平成21年)10月1日より、住宅瑕疵担保履行法がスタートしました。この法律は、新築住宅を供給する事業者に対して、瑕疵の補修等が確実に行われるよう、保険や供託を義務付けるものです。これを受けて、瑕疵担保責任保険ができました。これは新築住宅に瑕疵があった場合に、補修等を行った事業者に、保険金が支払われる制度です。また、保険への加入にあたっては、住宅の工事中に検査が行われます。
ご自身が取得する住宅が保険に入っているかどうかは、売買契約や請負契約時に、業者からの説明や契約書面の記載がありますので、よく確認してください。住宅に瑕疵があり、事業者が倒産している場合は、引渡し時にもらった書類に記載されている保険法人に連絡してください。瑕疵の状況を調査した上で、必要な費用が支払われることがあります。
入居者との間で起こるトラブル
6部屋中1部屋のみ入居がある状態で、築年不詳のアパートを相続しました。入居者は長年住んでいる高齢者で何年も家賃滞納したまま、ある日突然行方不明となりました。夜逃げされたのかと思い、建物も古くなり危ないのでアパートを解体して更地にしたところ、急に入居者が現れて「部屋には100万円があったから弁償して欲しい」と訴えられました。この場合、オーナーとしてはまず事実確認から始めましょう。突然入居者が姿を消してしまって音信不通で所在もわからない、ということはよくあります。では、その入居者が部屋に置きっぱなしにしている物を勝手に処分して良いかというとそうではありません。部屋の中の物は入居者の所有権が及んでいますので、勝手に処分はできません。また、賃貸借契約も解除等により終了するまでは続いており、勝手に建物の明渡を受けられません。このような場合は、賃料滞納を理由とする賃貸借契約の解除、建物明渡請求訴訟を提起して判決を得た上で強制執行手続をとる必要があります。
さて、今回のケースでは、訴訟手続を経ることなく勝手に処分してしまった後に入居者が戻ってきてしまったということですが、実際に部屋の中にあった物品等については所有者の許可なく処分してしまった以上、損害を賠償する義務があると考えられます。ただ、その場合であっても、家主としては入居者の一方的な言い分だけで全ての損害を認めることはできません。それが現金なのか、高級品(貴金属、時計等)なのかを問わず、現実にその部屋に置いていたことと、建物明渡に伴う処分によって失われてしまった(壊れてしまった)ことを裏付ける証拠がなければ判断のしようがありません。
「部屋に100万円があった」ことを立証するには、直前に100万円を引き出した預金通帳の履歴があるとか、100万円の保管状況を撮影した写真があるなどが考えられますが、それらは建物明渡当時に100万円がまさに部屋の中にあり、明渡に伴って失われてしまったということまで直接的に立証するものではないと思われますので、結局のところ立証は難しいと言わざるを得ません。
また、入居者が原因で火事がおこり建物が焼失してしまったというケースにも注意が必要です。この場合、不法行為責任の追及は難しい場合が多いです。そこで債務不履行責任を追及しましょう。例えば、入居者の不注意で火事を起こしてしまい、上の階の部屋を燃やしてしまったら、その入居者に不法行為責任が問えるのかといえば、原則的には問えません。失火責任法は、「重大な過失」がなければ責任を負わなくてよいと定められているためです。重大な過失とは「わざと放火したのではないか?」と考えられるほど、よほど故意に近い振る舞いです。寝タバコからの失火といったものでなければ、上に住む人は責任の追及ができない場合が多いです。
ただし、賃借人は、賃貸人に対して債務不履行責任を負うことになります。不法行為の責任と、債務不履行の責任は、同じ損害賠償請求なのですが、責任の根拠が違います。不法行為は、互いに契約関係にない人に対する行為を規律するものです。たとえ何の契約も交わしていなくても、不法な行為をされたら責任追及が可能です。債務不履行責任は契約があるのが前提で、その契約違反の責任追及です。失火した入居者は、賃貸人との間に賃貸借契約があり、賃借人の義務として、「借りている物は傷つけません。大切に使います」という義務があります。それを自分の不注意で燃やしてしまったということで、オーナーに対しては「善管注意義務」という責任を負います。
さて、最近の相談で多いのが高齢者の孤独死問題。もし、所有するアパートで人が亡くなった場合はどうなるのでしょうか。こうしたケースでは、入居者の家族に賠償請求が可能です。高齢者単身世帯数は年々増加の一途を辿っており、今後も孤独死事案は増えていくものと考えられます。孤独死の場合、発見までに相当期間が経過してしまう可能性があり、ご遺体の損傷状況によっては室内が惨憺たる状況になっているケースもあります。場合によっては異臭等により他の入居者や近隣住民に被害が発生することもあります。
家主としては、保有物件において孤独死が発生した場合、何を置いても迅速な対応が必要です。なぜなら、発生から時間が経過すればするほど室内の状況は悪化していき原状回復にかかる費用も膨れ上がってしまうだけでなく、近隣住民の口コミにより事故物件であるとの噂がたちまち広まってしまう可能性が高まるからです。
自殺者や殺人事件があった物件は事故物件として説明義務が生じます。具体的には、入居募集に「告知事項あり」と明記されます。自殺や殺人には該当しなくても、孤独死の場合でご遺体の損傷状況や室内の状況によっては、後々のトラブル回避のためにも入居者に説明をしておくべき必要があることに注意してください。なお明確な定義はありませんが、一般的に「事故物件」と言えば、建物内での自殺や他殺、火災による焼死、不審死、事故死といった人の死亡にかかわる事件があった場合を指します。孤独死等により室内のリフォームが必要となったり、事故物件として敬遠され入居者が決まらないといった事態が発生した場合、家主としては亡くなった入居者の連帯保証人や相続人に対しての損害賠償請求が考えられます。
入居者は家主に対し、善管注意義務(善良な管理者の注意義務。民法400条)を負い、物件を損傷するなどして価値を下落させないようにしなければなりません。自殺や孤独死によって物件価値が下落した場合には、その分を損害として賠償請求することができるのです。とはいえ孤立死の問題をより深刻にしているのは、亡くなった後に誰も頼れる人がいないケースです。こうした「孤立死」の増加に伴い、リスクに備えるための保険が誕生しています。例えば「無縁社会のお守り」(アイアル少額短期保険株式会社)では「原状回復費用保険金」「家賃保証保険金」「事故見舞金」の3つの補償を行う保険で、高齢者の入居に対して義務付けているオーナーもいます。
管理運営上で起こるトラブル
いざオーナーとなってから、管理会社とトラブルが発生するケースもあります。例えば家賃表がでたらめで購入前に認識していた話と違っているケース。いわば犯罪の領域にもなってくるのですが、実際にこうしたケースは発生しているのです。事例ではオーナーはオーナーチェンジで一棟マンションを購入しました。レントロール上では空室になっていたのですが、実際に部屋を見に行ったら人が住んでいました。そして管理会社には家賃が振り込まれていました。つまり、オーナーには空室だと嘘をついて家賃を横領していたのです。ここでいう家賃表(レントロール)は、誰々がいつ入居したのか、家賃をいくらで借りているのか、という情報が部屋毎に並んでいて、家賃収入の金額がわかる、正に家賃の一覧表です。物件の購入前に物件資料の一部として、売主が入手することができます。オーナーチェンジ物件では、この家賃表を参考に物件の収益を計算します。そのため、家賃表が正しくない……ということは大きな問題です。しかし、家賃表と実際の入居状況が違っていたというのは、割合とよくあります。
そもそも家賃の受け取り方には二種類あります。一つは、大家さんの通帳に、入居者がそれぞれ振り込んでくるタイプです。大家さんは個別に家賃の振り込み状況を確認し、滞納にも対応しなくてはいけないので大変ですが、いきなり管理会社が潰れても自分のところには実害がありません。また、家賃管理の手間がない分、管理費が割安になるというメリットがあります。もう一つは、一旦管理会社が窓口になって管理会社の通帳に全ての家賃が振り込まれ、そこから大家さんの口座にまとまったお金が振り込まれてくるタイプです。通常、家賃の支払い状況の報告書も付いてきます。この管理会社が一旦受けとるタイプは、家賃管理の手間がかからずラクですが、管理会社の倒産や横領などによって、被害を被る可能性もゼロではありません。とくに首都圏在住のサラリーマンが九州や北海道など遠隔地に物件を持っている場合、管理会社も、「このオーナーは、そう滅多に来ないだろう」というのが分かっているので、こういうことをやりやすいのです。
対策としては、丸投げするのではなく、定期的に自分、あるいは委託した第三者が見に行って、実際の管理状況を確認にいくということです。北海道などは遠隔の大家さんが多いので、定期的に物件の管理状況を調査して報告するような会社もあります。万が一、このような横領が行われている場合の対処方法ですが、まずは横領された金額や期間を特定し、内容証明郵便等で請求する意思を通知し、交渉を開始しましょう。交渉での解決が難しい場合には訴訟での解決も検討しましょう。併せて、悪質な事案については警察への相談もしておきましょう。
岡田のぶゆき(おかだ・のぶゆき)
大阪生まれ。23才から投資効率を最大限高める事を目標に収益物件への不動産投資を始める。主な投資先は一棟マンションを中心にビル、区分所有、底地、工場、倉庫、駐車場、別荘等多岐に渡る。約45億以上(売却済物件を含む)投資し、実行融資総額は35億以上。売却総数約60件。現在も年間平均10件以上売買を繰り返す。「長期的保有による賃料収入」「物件再生、不動産評価の価値を向上させて売却益を得る」等を考え投資している。2012年4月に不動産投資家コミュニティ「これから大家の会」を設立し、勉強会、交流会を開催している。
福岡寛樹(ふくおか・ひろき)
平成23年 弁護士登録、大阪弁護士会所属。弁護士登録後、顧問先企業を中心に不動産関係の紛争を数多く解決するなどして経験を積む。平成29年 袖縁綜合法律事務所 開設。これまでの経験を活かし、不動産投資家向けの講演を実施している。経営者や士業の交流を目的とする「袖縁会」を主宰し、落語会を開催するなどの活動も行っている。
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