株価は長期ではファンダメンタルズを織り込んで上下することが多いが、短期的には需給要因で動くことが多い。利益確定やロスカットなど、株は買い時よりも売り時の方が難しいといったことを耳にしたことがあるだろう。ここでは急騰した株の売り時をどう判断するかを考えよう。

なぜ株価の急騰が起きるか?

急騰銘柄,売買判断
(画像=PIXTA)

2017年の株式相場を振り返ると、年間ベストパフォーマーは北の達人 <2930> で10倍を超えた。個人投資家にも馴染み深い株では、「いきなり!ステーキ」のペッパーフード <3053> が4位で7倍を超えた。株価が急騰するのは「買う人」がいるからで、需給にほかならない。

「業績」で買う人がもっとも多いだろう。ファンダメンタルズ投資が典型で、機関投資家は業績で買うことが多い。16年にポケモンGOで急騰、17年にもスイッチで急騰した任天堂 <7974> がいい例だ。こうした画期的な人気商品は会社の業績を一変させる。それで買いが集中した。ペッパーフードも「いきなり!ステーキ」の行列が絶えず既存店売り上げが驚異的な伸びを示し、業績の上方修正があったから上げ始めた。

「値上がりするから買う」投資家も多い。デイトレーダーはその典型、出来高が出来てボラティリティが上がっている銘柄に参入するのは当然だ。ツイッターなどでカリスマトレーダーがつぶやいた銘柄を買うイナゴ投資も「値上がりするから買う」パターンだ。仮想通貨のビットコインの急騰はこの典型かもしれない。このタイプの投資には「テクニカル」が効果を発揮する。仮想通貨にはファンダメンタルズなど存在しない。ペッパーフードが急騰したのも出来高が急増して急騰、このタイプの投資家を大きく巻き込んだからだ。

「ショートカバー」の買い。実はこれが株式急騰の原因となることも多い。貸借銘柄は「信用売り」、それ以外の銘柄でも一般信用で「借株」で売ることができる。売っている人は株価が急騰したら損失カバーの買い戻しを余儀なくされる。これをショートカバーという。買い方はショートスクィーズといって売り方を踏み上げて買い戻させることで、大相場を狙う。

株だけでなくFXや原油などの商品などの金融商品で、「踏み」は相場の原動力となる。任天堂は空売りも多い銘柄だ。多いときは信用売り残は100万株を超える。任天堂は4万円を超える値嵩株なので多いときは400億円以上のショートが貯まっている。これが買いに回るから大相場になるのだ。

売り時の判断材料

株価の短期的な動きは需給要因になるので、実は必勝の判断材料はない。だから株式相場は面白いのだ。そんな判断材料があればコンピュータにトレーディングさせれば必ず勝てるようになるはずだ。

ヘッジファンド史上最大の破綻は98年の米LTCMである。ノーベル賞学者のドリームチームで確実に勝つはずの裁定取引を多用するファンドとして成功し資金を集めていたが、アジア通貨危機とロシア財政危機で予期せぬ事(テイルリスク)が発生、46億ドルの負債を抱えて破綻した。株式市場はコンピュータが必ず勝つわけでないから面白く、だからこそ個人投資家にもチャンスがあるのだ。

ただ、ある程度売りのガイドラインはある。それを知っているだけでもかなりうまくトレーディングできるだろう。

(1)ファンダメンタルズ

株価の基本はファンダメンタルズ。

重要な指標のひとつとしてPERを挙げよう。PERは(株価÷一株あたりの利益(EPS))つまり、EPSが2倍になるなら、理論的には株価は2倍になってもおかしくない。 任天堂やペッパーフードが買われたのはポケモンGOやスイッチ、いきなり!ステーキで業績が一変する期待からだ。

アナリストは、任天堂の過去のヒット作の「ファミコン」や「Wii」がどれだけ売れて、どれだけ任天堂の利益を押し上げたかを分析する。例えば任天堂の場合、ITバブルが崩壊後の06年3月期の営業利益は903億円まで落ち込んだが、Wiiのヒットで09年3月期には5552億円の過去最高益をだした。約利益は6倍だ。株価は先行するため、03年安値の7970円から07年の高値73200円まで9倍になった。

株価を売るかどうかの判断は、上がったから売るではなく、まだ利益が伸びるかどうかを考えることがファンダメンタルズの基本だ。新商品が話題になれば、その材料が数年後にどれくらいその会社のEPSを押し上げるかにつきる。単なる利益水準でなく利益増加のモメンタムも重要だ。赤字企業が黒字に転換すると大きく上げるのはモメンタムを好感しているからだ。

アナリストはよく過去のPERを判断材料にする。日経平均のPERのここ数年のレンジは14倍から16倍であり今は15倍だから株はまだ高くはないという論議を聞いたことがあるだろう。個別銘柄の分析も同じだ。

任天堂が過去のPERが何倍のレンジを動いており、または過去のヒット商品が出たとき何倍まで買われたかを考えて、アナリストはターゲットプライスを設定する。 今はインターネットでだいたいの情報が手に入るので個人投資家も同じようなアプローチはできるはずだ。

(2)テクニカル

トレーダーが一番見ているテクニカルは移動平均線だ。MACD、ボリンジャー、一目均衡などもファンが多いが、個人投資家にも判りやすいのが移動平均線。もちろん必勝パターンはないが、目安はある。

大きく上げた後に大きく下げる株にはある程度パターンがある。上げているときは5日/25日/75日の移動平均線が順相関で右上がりに並ぶ。その後、5日移動平均線が25日をデッドクロスしたら相場が一旦終わることが多い。ペッパーフードで言えば11月30日にデッドクロスしその後株価は低迷した。

もっと短期的にいうと急騰相場で株価が5日移動平均を割り込んだら、一旦調整にはいることが多い。ただ、一旦割れた後に切り返すなら逆に強さの象徴ともなる。必勝パターンはないのだが、5日移動平均線を意識していると、より売り時を考えやすいので指標にして欲しい。

(3)ショートカバー

ショートが入っていなければショートカバーも起きない。一番基本的な見方は信用売り残を見ることだ。貸借倍率といって、信用売り残の比率が買い残と近ければ上げ出せば踏みが入ってショートカバーをトリガーする可能性がある。また、開示情報などで,個別銘柄のショート残高も確認することができる。ほとんどがヘッジファンドのショートポジションだ。

ただ、信用残は週に1回発表される統計であり遅行統計であること、売り残にはCBやワラントの行使のためのつなぎ売り、大株主のつなぎ売りなど必ずしも買い戻す必要のない数字も含まれている可能性がある。また、個別の相場観と関係のないバスケットでのショートなども入っている。たとえば、時価総額の大きなマザーズ貸借銘柄の多くに数十万株のショートが入っている。これは証券会社のマザーズ先物のヘッジ売りだと推定される。

売り時はやはり難しい

株式投資は、エントリーは簡単だが売り時が難しい。損失を塩漬けにしてしまう、利益確定を早くやり過ぎた。これが勝てない人の典型例だ。どんなカリスマトレーダーでも全部の銘柄で勝つことは不可能だ。損失を小さくして、勝ちを大きくすることしか必勝法はない。漠然と投資するのでなく、勝つ人はしっかりと相場を研究しているはずだ。

平田和生(ひらたかずお)
慶応大学卒業後、証券会社の国際部で日本株の小型株アナリスト、デリバティブトレーダーとして活躍。ロンドン駐在後、外資系証券に転籍。日本株トップセールストレーダーとして、鋭い市場分析、銘柄推奨などの運用アドバイスで国内外機関投資家、ヘッジファンドから高評価を得た。現在は、主に個人向けに資産運用をアドバイスしている。