ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイが、イスラエルの製薬大手テバファーマスーティカル・インダストリーズの株3.58億ドル相当を取得し、ジェネリック医薬品分野への関心を示している。「投資家がショートポジションをとっている銘柄」のトップ25に入っていたテバファーマスーティカル・インダストリーズにとって、バフェット氏の救済策は渡りに船との見方とともに、「焼け石に水」「窮地に追いやられた医療産業株を安値で買いたたく」との手厳しい意見もある。

同社はAmazon、JPモルガン・チェースと共同で、共同で「非営利目的の」医療ケアシステム企業の設立を発表し、医療市場への参入を明らかにしたばかりだ。

またIBM株の大半を売却し、代わりに280億ドル相当のApple株を取得するなど、テクノロジー分野への関心も強めている。

「最後の貸し手」が救済する世界最大規模のジェネリック医薬品メーカー

ウォーレン・バフェット,医療,投資
(画像=Getty Images)

バークシャー・ハサウェイは2018年2月14日、テバファーマスーティカル・インダストリーズの株1890万株(3.58億ドル相当)を取得したと発表した。同社は創業110年を誇る世界最大規模のジェネリック医薬品メーカーだが、近年は巨額の負債をかかえ経営難が懸念されていた。

サンフォード・バーンスタインのアナリスト、ロニー・ギャル氏によると、その負債額は230億ドル。売上低迷により、コスト削減に向けた組織再編に取り組んでいるものの、主力商品である多発性硬化症治療剤「コパキソン」の特許の存続期間が年内にきれることから、さらなる苦境が待ち受けている可能性が高い。コパキソンの売上は現在の年間38億ドルから18億ドルに落ち込むと、ドイツ銀行のマイルズ・ハイスミス氏は予想している。(CNBC2018年2月15日付記事 )。

「後発医薬品」とも呼ばれるジェネリック医薬は、高価な新薬と有効成分・効果・品質・安全性などが同等にも関わらず、開発費が少なくてすむため低価格な点が特徴だ。テバファーマスーティカル・インダストリーズはジェネリック医薬の最大手として日本にも進出を果たしているが 、昨年10月、ライバルメーカーのマイランがコパキソンと同等のジェネリック医薬を開発し、初の承認を米国食品医薬局から得たことで社債が急落。

債券価格報告システム「Trace」のデータによると、2046年償還の価格は過去最低の81セント、2026年償還の価格は3.2%安の89.6セントと過去最大の下落を記録した(ブルームバーグ2017年10月4日付記事 ) 。

同社は再起をかけ今年1月、50億ドル相当の債務発行を発表。昨年後半にはジェネリック事業と専門医療事業の統合、一部の施設閉鎖、25%以上の人員削減などを実施し、2019年まで30億ドルのコスト削減を目指す意向をあきらかにしていた(ロイター2018年1月30日付記事 )。

しかし「最後の貸し手」の異名をもつバフェット氏が動いたとの発表を受け、2015年の3分の1まで落ち込んでいた株価は、18.80ドル(2018年2月13日)から20.81ドル(2月15日ブルームバーグ・データ )まで値を上げている。

バフェット氏の救済策はおおむねポジティブに受けとめられているものの、「窮地に追いやられた医療産業株を安値で買いたたく」 という批判のほか、30億ドルのコスト削減は「効果的だが事業成長の低迷の改善には貢献しない」 」とのネガティブな意見も聞かれる。

Amazon、JPモルガンと共同で医療ケアシステム改革に乗りだす

窮地におちいった企業に資金を投じ、少額のリスクから巨大な利益を生みだす、「バフェット流救済トレード」はあまりにも有名だ。しかし今回の救済に関しては、医療分野参入という果てしない野望が背景にあるものと推測される。

バークシャー・ハサウェイは今年1月、Amazon、JPモルガン・チェースと共同で新たな医療ケアシステム事業の立ち上げを発表した。これは3社100万人を超える米国の労働者により簡単に利用しやすい医療サービスを提供することを目的とする、非営利の事業となる予定だ。仲介業者を省いた独自の共同システムを構築すれば、従業員により低コストな医療サービスを提供できるというコンセプトである(ブルームバーグ2018年1月3日付記事 )。

まだ初期段階のため詳細は明らかになっていないものの、大手3社の取り組みが従来の医療ケア市場にあたえる影響は計り知れない。医療ケア供給の構造自体を根こそぎ覆す可能性もある。非営利としてスタートをきるものの、バフェット氏は「将来的な利益創出への投資」ととらえているかも知れない。また医療用品・機器販売ですでに医療分野に進出しているAmazonに続き、例えば株の取得というかたちで今後医療株を買い増していく可能性も十分に考えられる。

ウェルズ・ファーゴよりもAppleに肩入れ、IBM株の大半を売却

テクノロジー株に慎重だったバフェット氏が、最初にApple株980万株を取得したのは2016年5月 。その後一部を売却したとの報道が流れたが、実際は徐々に保有量を増やしており、昨年9月末の時点で合計1.65億株280億ドル相当—ウェルズ・ファーゴの保有株278億ドルを超えるほどに入れ込んでいた。Apple株は買い増しの発表翌日、3.4%増しの172.99ドルに値を上げた。

そのほかバンク・オブ・ニューヨーク・メロン、USバンコープ、ウェルズ・ファーゴ、アメリカン航空グループ、ゼネラルモーターズ、化学バイオメーカー、製薬・バイオ技術メーカー、モンサントやサノフィの株保有を拡大している。

IBM株売却、フィリップス66は売り戻し合意

対照をなしたのはIBMだ。バークシャー・ハサウェイは2011年に取得したIBM株のうち、50億ドル相当を売却。保有を205万株3.14億ドル相当にまで減らした。バフェット氏は昨年5月株主総会に出席した際、「IBMの株価がもっと上がると思っていた」と、自身の判断ミスを認める発言をしていた(USA TODAY2018年2月14日付記事 )。

また石油精製・製品販売大手フィリップス66に、1株あたり93.725ドルで合計3500万株330億ドル相当売り戻すと合意 。現在バークシャー・ハサウェイが保有している43%以上に値する。この動きに関しては、あくまで「株式保有比率が 10%を超える場合に適用される規制を排除するため」であり、「今後もフィリップス66の大株主の座を維持する意向に変わりはない」とバフェット氏は述べている。(ロイター2018年2月14日付記事 )。

一部の「引退準備報道」を吹き飛ばすほど野望に満ちたバフェット氏から、目が離せない。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)