バフェット氏
(写真= Kent Sievers/Shutterstock.com)

時には方針転換も重要

【第1回】【第2回】ではウォーレン・バフェットの大型投資について見てきた。どちらも明確な狙いがあり、計画的に行われた投資だ。しかし、バフェット氏は時に前言撤回して方針転換することの重要性についても度々言及している。

つまり、投資家にとってやり遂げる意志と同時に状況に応じて臨機応変に方針転換する柔軟性も重要なのだ。今回【第3回】では、バフェット氏が前言撤回して投資戦略を変更した事例を紹介する。

航空業界に懲りた理由、投資を再開したワケ

世界中の投資家が「神様」と崇める、世界最大の米投資会社バークシャー・ハサウェイの最高経営責任者(CEO)のウォーレン・バフェット氏(86)。優良株が下落した局面で大量に仕入れ、長期保有して利益を大きくする「バリュー投資型」の手法で有名だ。

そのバフェット氏は、最近「変節」が多い。「よくわからないものには投資しない」という理由で避けていたはずのテクノロジー株が、好例だ。いつの間にか米IBMや米アップルにも大規模な投資を行い、それなりの成績を上げている。また、「堅実に成長する米国企業のみを投資対象にする」と公言していたが、近ごろのバークシャー・ハサウェイのポートフォリオには、外国企業の名前も散見されるようになった。

そして昨年、バフェット氏はもう一つの心変わりをする。バフェット氏は、ちょうど10年前の2007年に、毎年恒例の投資家への書簡で米航空業界を「底なし沼」だとこき下ろしていたのだが、その業界へ、新たに10億ドル規模の投資を開始したのである。

この「オマハの賢人」が「変節」するたびに、「バフェット爺さんは、ついに耄碌(もうろく)したか」との声が上がる。今回こそ、バフェット氏は老いて判断を誤ったのだろうか。

バフェット氏が以前、航空業界を見限ったのには、それなりの理由があった。2007年の書簡で同氏は、「安定して大きな利益を出す公益企業と違い、航空会社は急成長をするが、その成長を支えるために莫大な資本投下を必要とするため、利益が非常に小さくなるか、あるいは全くなくなってしまう」との見解を表明。「投資家たちは、この底なし沼に資金を投入し続け、大損を被った」とした。

さらにバフェット氏は、1989年にバークシャー・ハサウェイが、(アメリカン航空と2015年に合併して消滅した)旧USエアウェイズの優先株に投資したものの、同社の経営が悪化し、利益を優先して受け取れるはずの優先株でさえ、配当がなかった時期を回顧。たまたま1998年に巡ってきた売るチャンスを逃さずに、2億5000万ドルの売却益を得たが、その後、旧USエアウェイズは2回も破産したと述べ、「航空業界はもう懲りた」と、失敗談を語ったのだ。

だが、バークシャー・ハサウェイが2016年11月に公表したところによると、同社はアメリカン航空、デルタ航空、サウスウェスト航空、ユナイテッド航空の4社の持ち株会社などに、合計10億ドル以上の投資を始めた。

ブルームバーグ通信がバークシャー・ハサウェイ内部の情報に詳しい者の話として伝えたところによると、この投資判断は、バフェット氏が信頼し、10億ドル規模の投資権限を与えている副官、テッド・ウェシュラー氏の説得によるものだという。

ウェシュラー氏は昨年3月のある投資セミナーで、旧知の間柄であるアメリカン航空のダグ・パーカー最高経営責任者(CEO)が、「米航空業界における、赤字垂れ流しの原因であった過当競争の時代は、業界再編が完了したことで、終わった」と宣言したことに注目したという。パーカーCEOはさらに、「我々は今や、効率的で、顧客の要望に応えられる体質になった」と説き、それに共鳴したウェシュラー氏が、最終的にバフェット氏を説き伏せたとされる。

バフェット氏は2016年11月と2017年1月のインタビューで、航空業界への投資再開の判断の理由についてコメントを拒否した。だが、1月のインタビューでは、「決断をしたのは、だいたいのところ自分であった」と認めている。米投資会社モーガンクリーク・キャピタル・マネージメントのマーク・ユスコ氏は、バフェット氏の変心を評して、「偉大な投資家は、(投資先の)客観的状況が変化した場合、前言を翻すことを恐れないものだ」と述べている。

だが、アメリカン航空のパーカーCEOが描いて見せ、ウェシュラー氏やバフェット氏が「買った」バラ色の未来は幻想に過ぎないとの声もある。米投資サイト『グル・フォーカス』は、「航空業界における、従来からの過当競争や燃料費・人件費などの高コスト体質は改善されておらず、一般の投資家には向いていない」と手厳しい。

それでも2017年初来1ヶ月ちょっとの間に、これら航空会社の株式は最低2.5%から最高10%まで、高騰を続けていた。バフェット氏の賢明な判断力は、健在のようだ。

経営者の世代交代のよい手本か