若者人口の東京一極集中が進む中、20代、30代の地方移住が静かなブームを続けている。ネットメディアやクラウドソーシングサイトでは、「月10万円生活」などと生活費の安さを強調し、地方移住を呼びかける声が並んでいるが、地方暮らしで貯金を使い果たし、都会へ舞い戻る若者もいる。

田舎暮らしは本当に安上がりなのだろうか。過疎地域を多く抱えながら、IT企業のサテライトオフィス進出が相次ぎ、多くの若い世代が移住している徳島県で実態を聞いた。

安易な移住で都会へUターン

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徳島県阿南市新野町の農村地域。地方移住で生活費が安くなるといわれるが、そうならないこともある(写真=筆者)

「1平方メートル当たりの住宅地平均価格は徳島3万100円、東京33万2800円」、「民間住宅の家賃は坪当たり1カ月で徳島3954円、東京8620円」。徳島県が移住者獲得に向けて発行するパンフレットには、生活費の安さを強調する言葉が並ぶ。

徳島県地方創生推進課によると、県内に移住した人の数は2016年度1年間で842人。その多くは首都圏や関西で暮らす20代、30代の若い世代だ。2017年度は4月から9月末までの半年間で605人に達し、確実に移住者が増えている。

特に人気が高いのは、IT企業のサテライトオフィスが相次ぐ神山町。深い山に囲まれた山村だが、県庁所在地の徳島市に隣接し、徳島市の中心部まで車で30〜40分ほど。河川敷でノートパソコンを広げて仕事をする姿が報道されて以来、IT企業の間で急速に知名度が高まり、今も移住の問い合わせが後を絶たない。

神山町は賃貸住宅が少なく、移住者の多くが古民家など空き家を借りている。現在は生活できるようリノベーションされた空き家が減り、移住者を受け入れにくくなった。神山町総務課は「移住希望者が多いのはありがたいことだが、空き家の数が限界に達しつつある」とうれしい悲鳴を上げている。

だが、そんな徳島県に移住しながら、都会へ舞い戻った人もいる。大阪市西成区のコンビニで働く男性(28)もその1人。男性は神山町とは別の町に2015年、出身地の大阪府から移住したが、3カ月ほどで徳島県を離れた。

「生活費が安いと聞き、あこがれだけで仕事を決めずに移住した。確かに家賃は安かったが、生活費は大阪と大して変わらない。学歴がないからIT企業で働けず、貯金が尽きた」と肩を落とす。

住宅費は格安、公共交通は割高

家を買うにしろ、賃貸住宅を借りるにしろ、住宅費が安いのは間違いない。不動産投資会社の資料によると、全国の家賃相場は1R、1K、1DKの間取りで平均4.4万円。これに対し、東京都は平均7.8万円と飛び抜けて高い。23区内だと10万円を超すケースも珍しくない。

総務省の住宅・土地統計調査によると、1住宅当たりの延べ床面積は東京都の64.48平方メートルに対し、徳島県は113.96平方メートルとほぼ2倍。移住後、家賃が安くなったのに、部屋の広さが倍増したという声は再三、耳にした。

だが、移住で負担が大きくなる費用もある。例えば公共交通の料金だと、JR徳島駅から香川県のJR高松駅まで74.5キロは、高徳線特急で約1時間だが、料金は2640円。ほぼ同距離の神戸市の三宮駅から京都市の河原町駅までだと、阪急で620円だ。

東京23区のバス運賃は均一料金でどこまで乗っても210円だが、徳島バスだと神山町役場前のバス停からJR徳島駅までの29.4キロが1100円。鉄道、路線バスとも便数が少ないため、どうしてもマイカーでの移動となることが多い。

ただ、毎日の買い物、職場までの通勤、子どもの送り迎えなどを考えると、マイカーは大人1人に1台必要になる。駐車場代は安いが、自動車税などを含めた維持費に年30万円以上かかる人もおり、毎日の移動距離が長いと、家賃が安くなった分を維持費やガソリン代が相殺するという。

移住前に十分な検討が必要

地元産の野菜や鮮魚が安いのは田舎の特徴だ。徳島県は大阪市場への生鮮野菜出荷高でトップを争う農業地域だけに、特にその傾向が強い。しかし、全国どこでも手に入る商品になると、むしろ東京や大阪より高くなる。

中でも町村部は中小のスーパーが競争もなく、営業している。ほとんど定価に近い価格で、野菜や鮮魚を安く買える分も吹き飛んでしまう。このため、都市部のより安いスーパーへ行くのに、1時間以上かかる地域もある。

プロパンガスの値段は一般に都市ガスより高い。徳島県は山間部が多く、南国とはいえ冬に暖房が欠かせない。県西部を中心に冬場は1カ月当たり数万円の暖房費が必要になる年もある。このほか、水道料金など行政サービスにかかる費用も高い傾向がある。

住宅費と生鮮食品購入費を中心に生活費を安く抑えることは可能だが、安易に移住して思わぬ出費がかさみ、生活を苦しくすることも考えられるのが実情といえそうだ。

厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、平均年収は東京都が606万円、大阪府が527万円なのに対し、徳島県は433万円。移住して転職するなら、相当の減収になる可能性が大きい。徳島県地方創生推進課は「市町村や地域によってかかる費用が異なる。市町村の支援策なども事前によく検討してほしい」とアドバイスしている。

高田泰 政治ジャーナリスト
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。