世界同時株安から次第に落ち着きを取り戻す状況下で、ウォール街の市場関係者の多くが「新たな悩み」に頭を抱えている。その悩みとは「ここでポートフォリオを見直すべきなのかどうか?」だ。そうした中、著名投資家の相次ぐポジションや見通しの「変化」を伝えるニュースが注目を集めている。レイ・ダリオ氏、ウォーレン・バフェット氏のポジションの変化、そして強気な予想で知られていたゴールドマン・サックスのアビー・コーエン氏のトーンダウン、相次ぐ「変化」が意味するものは何か。

米金利上昇懸念は未だにくすぶり続けており、3月にはイタリアでの総選挙、そしてFOMC(米連邦公開市場委員会)も迫っている。ポートフォリオを見直すべきか、結論を出すのに残された時間は少ない。

今回は、最近話題となった著名投資家のポジション、大手金融機関の見通しを整理してお届けしよう。

「帝王」ダリオ氏は欧州株と日本株をショート

ウォーレン・バフェット,医療,投資
(画像=Getty Images)

「ヘッジファンドの帝王」ことレイ・ダリオ氏が率いる世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーターが欧州株と日本株をショートしていることが話題となっている。ブリッジウォーターは世界同時株安が発生する以前の1月にポートフォリオを切り替えて、米国株を大量にロングする一方で、欧州株と日本株をショートにしたとされている。

さらに、2月に入ると欧州株へのショートを220億ドルとそれまでの4倍に積み増した様子だ。ダリオ氏は「今後18~24カ月のうちに景気後退入りするリスクが高まっている。ほとんどの市場参加者は今年のことで手一杯だが、私は2019~2020年に注目している」と述べており、景気の先行き不安をにじませている。

また、ダリオ氏は1月に債券市場が弱気相場に入ったとも警告しており、同氏が重視する企業利益と金利のバランスが崩れた可能性もありそうだ。すなわち、企業利益の伸びに対して債券の利回りの上昇スピードが速すぎるということなのだろう。

ブルームバーグが伝えるところによるとダリオ氏はインテーザ・サンパオロ銀行や電力会社のエネル、石油会社ENIなどイタリア企業株のショートポジションを積み上げているという。背景には3月4日のイタリア総選挙がある。同選挙では明確な勝敗が着かず、むしろ経済改革が遅れるリスクが警戒されており、そうした状況を見据えた動きのようだ。

さらに、ダリオ氏は欧州のエネルギーと製造業、建設会社等の株価下落も見込んでおり、ドイツのシーメンス、アディダス、フランスのトタル、エアバス、BNPパリバ、オランダのINGグループ、フィンランドのノキアなどの欧州株もショートしていると伝えられている。

かつてのお家芸、新興国投資も大きく削減

また、ブリッジウォーターは昨年10~12月に代表的な3つの新興国市場のETF(上場型投資信託)の保有を圧縮している。今月13日の同社の届け出で明らかになった。具体的には「iシェアーズMSCIエマージング・マーケットETF」の保有を従来の半分に、「バンガードFTSEエマージング・マーケッツETF」を20%縮小、「iシェアーズ・コアMSCI新興国株ETF」を40%弱減らしている。

新興国への積極的な投資で高いパフォーマンスを叩き出す手法は、かつては同社の「お家芸」でもあったが、現在は運用資産1600億ドルのうち新興国ETFへの投資は56億ドル相当とわずか3.5%にとどまっている。

新興国ではこれまで、FRB(米連邦準備制度理事会)による低金利政策の恩恵を受けてドル建ての債務を膨らませてきた。しかし、正常化による金利の上昇とドル高の進行により企業の債務返済負担が増加し、信用不安が広がる恐れがあることから、新興国からの資金流出リスクへの警戒を強めているようだ。

「神様」バフェット氏、ついにIBM株を手放す

このほか、「投資の神様」ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハザウェイが10~12月に保有するIBM株の9割強を売却していたことが、SEC(米証券取引委員会)に提出した保有有価証券報告書で明らかとなった。

ハイテク株に投資しないことで有名だったバフェット氏が初めてIBM株に投資したのは2011年のこと。当時も話題を集めたが、6年の歳月を経て事実上の撤退となった。IBM以外では、GM、アメリカン航空、ウェルズファーゴなどのポジションを落としているが、その一方で、アップルやUSBを買い増している。

さらに2017年は株式市場が絶好調となった中で、スター投資家の苦戦も浮き彫りになっている。まず、デイビッド・アインホーン氏率いるグリーンライト・キャピタルの昨年のリターンはプラス1.6%と過去20年で最悪の成績となり、競合ファンドやベンチマークを下回る伸びにとどまった。ヘッジファンドの平均はプラス6.5%、S&P500はプラス22.0%だった。

アインホーン氏は2008年の金融危機の際にリーマンの破綻を事前に予想し、同社の空売りで莫大な利益を上げた人物だ。同氏は10~12月にツイッター、タイムワーナー、JCペニー、ベストバイなどを新規で購入、その一方で金ETF、HP、ライトエイドなどから撤退したほか、GMの保有比率を引き下げている。

また、「アクティビスト(物言う株主)」としても著名なビル・アックマン氏が率いるパーシングも2017年の投資リターンは4%のマイナスと振るわなかった。

パーシングによると、2015年には183億ドルに上っていた運用資産総額は2017年末時点で87億7000万ドルまで減少している。

ゴールドマンのコーエン氏も珍しく慎重

また、投資家ではないが、強気な予想で知られるゴールドマン・サックスのストラテジスト、アビー・コーエン氏が慎重な見方を示していることも関心を集めている。

S&P500は1月26日に2872.87の最高値をつけたが、コーエン氏は2月13日、ブルームバーグ・ラジオのインタビューで年内に最高値を更新するのは難しいかもしれないと発言しており、いつになく弱気だ。2月21日現在、S&P500は2701.33となっている。

コーエン氏は2018年末の予想を2850としているが、「そこにたどり着けるかどうかは警戒が必要」と述べ、この予想には企業利益の持続的な伸びと景気後退が起きないという見通しが前提となっているという。さらに懸念材料として、米国のみならず世界中で金利が上昇するリスクを挙げ、トランプ政権の税制改革は成長には結びつかないとの考えを示している。

レッドラインの3%が近づく、残された時間は少ない

21日の米国市場では10年債利回りが2.95%まで上昇しており、レッドラインとされている3.0%が目と鼻の先に近づいた。

その1週間ほど前、ソシエテ・ジェネラルは10年債利回りが3%に達すると潮目が変わり、S&P500は2500を下回る可能性があるとの見解を示している。ブルームバーグの取材に応じたものだが、金利の上昇で企業の借り入れコストが上昇し、企業利益の低下が見込まれるほか、債券利回りが3%を超えると株式の配当に比べて債券が魅力的に見えてくるという。実際に同社の予想が的中するかは、そう遠くないうちにハッキリするだろう。

マーケットは世界同時株安から落ち着きを取り戻しつつあるが、米金利上昇懸念はくすぶり続けている。3月にはイタリアでの総選挙、そしてFOMC、新興国市場の反応など波乱要因が控えている。

上記の要因に加え、ウォール街の市場関係者が気にかけているのは、マーケットのカリスマ的な存在であるダリオ氏やバフェット氏、そしてゴールドマン・サックスのコーエン氏らの様子が豹変していることなのだ。「ここでポートフォリオを見直すべきなのかどうか?」残された時間は少ない。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)