(本記事は、菊地正俊氏著書『No.1ストラテジストが教える 日本株を動かす外国人投資家の儲け方と発想法』日本実業出版社、2017年12月10日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
【関連記事 『No.1ストラテジストが教える 日本株を動かす外国人投資家の儲け方と発想法』より】
・(1) 外国人投資家は「どのような」日本株を「どれくらい」買っているか
・(2) トランプ氏、レイ・ダリオ氏――著名投資家発言から相場動向を読みとるには
・(3) 日銀の出口戦略「40年かかる可能性」も ポートフォリオにはボロ株ばかり残る?
・(4) フィンテック時代に銀行が生き残るカギ 駅前の地価が高い場所に本当に必要?
・(5) 外国人投資家が注目する「元村上ファンド」丸木氏が経営するアクティビストとは?
外国人投資家が注目するマクロ経済指標はこれだ
日本は製造業が多いので、景気循環の観点からは、世界景気が良くなる(強くなる)との見通しが出ると、業績拡大期待から、外国人投資家が日本株を買う傾向があります。世界経済の強さを示す指標としては、米国のISM製造業指数、OECD景気先行指数、米国の10年国債利回りなどが重視されます。
また、米国10年国債利回りと日本株の世界株価指数に対する相対パフォーマンスとの相関が高くなっています。その理由は、(1)米国経済が強いと米国の年国債利回りが上昇、(2)日本企業の米国事業の収益が良くなると同時にドル高円安にもなる、(3)日本から米国への輸出が増える見通しが出る、ということです。2017年9月も、米国10年国債利回りの反発が外国人投資家の日本株買いのきっかけとなりました。
日本独自の経済指標としては、消費者物価、鉱工業生産と在庫サイクルなどが注目されています。
日本の輸出に占める中国向け比率は米国向けと同じ約2割なので、中国経済の足元の強さを示す指標として中国のPMI指数が注目されます。ただ、中国のマクロ経済統計は信頼性が低いので、コマツが毎月Webに発表する中国の建機の稼働時間に注目する投資家もいます。そして、中国株は空売りしにくいので、中国経済が減速すると日本の製造業の株を売る外国人投資家がいます。
日銀の異次元金融緩和はあまり効果がないと見られ始めているので、マネタリーベースや銀行貸出などの金融指標への注目度は低下しました。
小売業はサブセクターや個別企業それぞれの強みや弱みによって業績動向が大きく違うので、米国と異なり、全体としての小売売上は注目されず、個別企業の既存店売上が取引材料になっています。
日銀のETF購入の出口戦略に注目
米国のFRBは2017年9月にバランスシートの縮小を決めましたし、欧州のECBも近く国債購入プログラムを縮小すると予想されています。外国人投資家は2008年のリーマンショック以降の中央銀行の異常な緩和策を正常化するのが当然と考えています。
日銀のETFの将来的な処理法を考えるうえでは、1960年代の株価支持策とその後の株式売却が参考になります。
1964年に旧日本興業銀行と富士銀行(現みずほ銀行)と旧三菱銀行が中心になって、財務省承認の下で設立された日本共同証券は、1964年3~月に日経平均1200円維持を目的に、市場取引を通じて、当時の東証時価総額の約2.8%を購入し(ちなみに、現在も日銀の株式保有額は東証時価総額の約3%です)、その後1965年月から1971年1月にかけて保有株を売却しました。
日本共同証券による買い支えが終了した後も、株式投信の解約が収束しなかったため、証券業界が中心になって、新たな株式凍結機関の日本証券保有組合が設立されました。日本証券保有組合は1965年1~7月に当時の東証時価総額の3.5%を保有するに至りました。1964年1月の朝日新聞が、「欧米では株価は市場の自由な決定に任すのを当然とみているが、株価の人為的操作という日本独自の現象に外国人が戸惑っている」との記事を掲載したように、当時の株価買い支え策に対しても、外国人投資家の評判は悪かったようです。
結局、日本共同証券と日本証券保有組合の保有株の売却は、相当な部分が市場を通さずに金融機関や事業法人にはめ込まれて、現在に至る株式持合の形成につながりました。
日銀の将来的なETF売却には数十年かかる可能性
日本共同証券は1965年月から1971年1月までの、実質10%の経済成長が続いたいざなぎ好景気のあいだに保有株の売却を行ないました。好景気にもかかわらず、1966年1月から1967年12月までは日経平均が下落し、高値を更新できたのは1968年9月になってからでした。
1967年の経済白書は、EPS(1株当たり利益)が1966年1月より急上昇したにもかかわらず、株価が低迷した理由として、日本共同証券と日本証券保有組合などの存在を挙げました。
すなわち、実体経済や企業業績が良好でも、株式需給の悪化が、日経平均の上値を抑制しました。1967年12月の読売新聞は、日本共同証券の凍結株の放出見通しが市場に流れて、市場が「凍結株ノイローゼ」になっていると指摘しました。
今回の日銀のETF購入の場合、黒田東彦日銀総裁は出口戦略について語るのは時期尚早との立場を崩していませんが、仮に日銀が年5000億円ずつ売却するとしても、2017年8月末のETF残高の15兆円を売却するのに30年かかる計算になります。現在の政策を続けて、2018年6月末に残高が20兆円に増えれば、売却完了に40年かかる計算になります。
これだけのETF残高を市場売却するのは現実的でないので、政府・日銀は個人投資家などに有利な条件をつけて、市場外で売却するか、ETFを個別株に分解して企業に自社株買いをしてもらうなどの別の手段を考える必要があるでしょう。後者では、自社株買いできるのは優良企業でしょうから、優良企業が自社株買いを行なった後に、日銀のポートフォリオにはボロ株ばかり残るおそれがあります。
菊地正俊(きくちまさとし)
みずほ証券エクイティ調査部、チーフ株式ストラテジスト。1986年東京大学農学部卒業後、大和証券入社、大和総研、2000年にメリルリンチ日本証券を経て、2012年より現職。1991年米国コーネル大学よりMBA。日経ヴェリタス・ストラテジストランキング2017年1位。インスティチューショナル・インベスター誌・ストラテジストランキング2017年1位。