(本記事は、菊地正俊氏著書『No.1ストラテジストが教える 日本株を動かす外国人投資家の儲け方と発想法』日本実業出版社、2017年12月10日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

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No.1ストラテジストが教える 日本株を動かす外国人投資家の儲け方と発想法
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

日本株保有比率は約30%

投資家別の株式保有比率は、東証が年に1回発表する「株式分布状況調査」で知ることができます。外国人投資家の日本株保有比率(金額ベース)は1990年度末の4.7%から、ピークとなった2014年度末に31.7%に高まった後、2015年度末に29.8%に低下し、2016年度末に30.1%と若干回復しました。

同調査では金額ベースの保有比率以外に、株数ベースの保有比率も発表しています。2016年度末の株数ベースの保有比率は26.5%と、金額ベースよりも若干低くなっています。これは、外国人投資家は時価総額が大きい大型株の保有比率が高いためです。

この「30%程度」が高いか低いかは、意見が分かれるところです。33.3%超の保有であれば、M&Aなど株主総会で特別決議が必要な案件に反対できますが、経営パフォーマンスが悪い社長を解任するには50%超の保有比率が必要です。

日本の機関投資家もスチュワードシップ・コードの受け入れによって、議決権行使は是々非々で行なうようになっていますが、日本の株式市場はまだ安定株主比率が高く(みずほ証券の子会社である日本投資環境研究所では、東証1部全体の安定株主=主に政策保有株主の比率を50%程度と推計しています)、純投資の株主の意見が経営に十分反映されていません。

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外国人投資家の保有比率が高い業種・低い業種

「株式分布状況調査」は、業種別の外国人投資家の保有比率も掲載しています。2016年度末の保有比率が高い業種は、鉱業39.0%、電機38.2%、精密37.8%、海運35.0%、保険34.8%だった一方、低い業種は、水産・農林16.0%、紙パ16.2%、空運18.2%、倉庫・運輸19.7%でした。2016年度に外国人保有比率が高まった業種は電機、海運、精密、卸売、機械の順だった一方、低下した業種は食料品、不動産、倉庫・運輸、石油、輸送機の順でした。

鉱業の外国人保有比率が高いのは、時価総額が大きい国際石油開発帝石の外国人保有比率が43%と高いためです。また、2016年度に外国人保有比率が高まった理由は、電機は業績回復や世界的なテクノロジー株物色の影響、海運はシンガポールのエフィッシモキャピタルが川崎汽船株を38%も保有しているため、卸売は総合商社の資本政策の見直しが外国人投資家から評価されたためでしょう。

一方、外国人保有比率が低い業種は、内需安定型の産業が多くなっています。外国人投資家は成長率が低く、変化に乏しい業種を敬遠する傾向があります。

2016年度に外国人保有比率が低下した食料品は、バリュー(割安株)志向の外国人投資家から、バリュエーションが高いとみられたのでしょう。不動産は、株主還元策への不満が強いうえ、長年の株価低迷でさじを投げた投資家がいたのでしょう。輸送機は、電気自動車や自動運転の開発で出遅れた日本の自動車産業を構造不況とみなす外国人投資家が出てきたためでしょう。

なお、外国人保有比率と個人投資家の保有比率は反比例していることが多く、2016年度末に個人保有比率が高い業種は、空運の44.4%、水産・農林の27.8%、電気・ガスの27.6%の順でした。

GPIFの動向は大きな影響を与える

日本株を運用している外国人投資家は、運用資産約150兆円、日本株を約40兆円持つGPIFの動向を常に注視しています。

たとえば、世界的にESG(環境、社会、ガバナンス)に着目した運用が主流になるなかで、2017年7月にGPIFは、ESGパッシブ指数の採用を発表しました。GPIFは企業のESG意識を高めて、日本株式市場全体を底上げしたい意図があります。

GPIFから選ばれた2社はMSCI、FTSEというともに世界的な株価指数会社でした。選ばれたのは、「FTSEBlossomJapanIndex」「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」がESG総合、「MSCI日本女性活躍指数」がS単独であり、EやG単独指数の採用はありませんでした。いずれも時価総額上位500社で構成される親指数から選ばれるため、時価総額が小さい企業は選定の対象外となりました。

MSCIのESG指数の銘柄選定では、企業の開示情報(有価証券報告書、CSRレポート、アニュアルレポート、株主総会資料、プレスリリース等)、外郭団体、政府・NGO発表データ、メディアその他など公開情報が使われ、アンケートや個別調査は行なっていません。

ESG株価指数のパフォーマンスは良いか否かが問われていますが、バックテストによると、3指数ともパフォーマンスとリスク量はTOPIX並みになっています。3指数による当初運用額は日本株全体の3%程度(約1兆円)ですが、今後増える見通しです。

3株価指数によるESG評価が高くても、親指数の業種時価総額の縛りがあるため、そのまま株価指数の比重になるわけではありませんが、ESG評価が高い企業は注目されるでしょう。3指数いずれも公開情報に基づいて格付けされるため、ディスクロージャーが良いと高評価を受ける傾向があります。

欧州投資家はESG意識が強いため、グローバルな株価指数の提供会社のESG指数に採用されないと、欧州投資家の投資対象にならなくなる可能性があるでしょう。

GPIFをはじめとするアセットオーナーがESG重視を鮮明にし、運用会社のファンドマネジャーも銘柄選別でESG情報を考慮せざるを得なくなると、株式市場でもESG要素が効き始めると予想されます。そうすると、ESG株価指数がTOPIXをアウトパフォームし始めるでしょう。みずほ証券でも2017年半ばから、アナリストの企業分析レポートにESG項目の分析を入れるようにしました。

菊地正俊(きくちまさとし)
みずほ証券エクイティ調査部、チーフ株式ストラテジスト。1986年東京大学農学部卒業後、大和証券入社、大和総研、2000年にメリルリンチ日本証券を経て、2012年より現職。1991年米国コーネル大学よりMBA。日経ヴェリタス・ストラテジストランキング2017年1位。インスティチューショナル・インベスター誌・ストラテジストランキング2017年1位。

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