(本記事は、菊地正俊氏著書『No.1ストラテジストが教える 日本株を動かす外国人投資家の儲け方と発想法』日本実業出版社、2017年12月10日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
【関連記事 『No.1ストラテジストが教える 日本株を動かす外国人投資家の儲け方と発想法』より】
・(1) 外国人投資家は「どのような」日本株を「どれくらい」買っているか
・(2) トランプ氏、レイ・ダリオ氏――著名投資家発言から相場動向を読みとるには
・(3) 日銀の出口戦略「40年かかる可能性」も ポートフォリオにはボロ株ばかり残る?
・(4) フィンテック時代に銀行が生き残るカギ 駅前の地価が高い場所に本当に必要?
・(5) 外国人投資家が注目する「元村上ファンド」丸木氏が経営するアクティビストとは?
アベノミクスで大きく改善したコーポレートガバナンス意識
アベノミクスの大きな成果の一つであるコーポレートガバナンス改革は、英国からの輸入で行なわれているので、英国投資家が強い関心を抱いています。
2014年2月に策定された日本版スチュワードシップ・コードでは、英国版にある集団的エンゲージメントに関する原則が削除された代わりに、「機関投資家は投資先企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行なうための実力を備えるべき」との原則が加えられました。長期の投資や対話の実績がある英国投資家に比べて、日本の機関投資家はそうした経験が少ないとみられたためでしょう。
スチュワードシップ・コードは2016年月までに214の内外運用会社が受け入れました。日本の機関投資家はすべて受け入れ、日本株に投資している外国運用会社もほとんど受け入れました。しかし、事業会社の年金基金で受け入れたのはセコムしかありませんでした。年金基金の常務理事には、年金を拠出する企業の財務担当者が就くことが多く、スチュワードシップ・コードを受け入れると、自らの企業や取引先企業の経営にも厳しいことを言わざるを得なくなることを恐れているのでしょう。
外国人投資家からは、自らが運営する企業年金で、スチュワードシップ・コードを受け入れない企業はその理由を、コーポレートガバナンス報告書で説明させるべきだとの意見が出ています。安倍政権はスポンサーの一つである経団連に対して甘い面がありますが、大企業が嫌がる政策も、コーポレートガバナンス改革のためになしとげる必要があるでしょう。
外国人投資家は和製アクティビストに期待
日本株に投資するアクティビストファンドとしては、米国のサード・ポイントや香港のオアシスなどが有名です。日本で激しいアクティビストが受け入れられにくいことを認識しながらも、外国人投資家は和製アクティビストファンドにもっと出てきてほしいと思っています。情報サイト「ActivistInsight」によると、2013年以降2017年上期までに日本でも83のアクティビストファンドによる要求がありましたが、うち要求が何らかの形で満たされたのは20%のみでした。元々、建設的な対話、エンゲージメント、アクティビスト活動は紙一重の違いです。投資先企業との対話を重視する日本の多くのファンドは、アクティビストと呼ばれることを嫌い、エンゲージメントファンドやガバナンスファンドと呼んで欲しいといいます。
そうしたなか外国人投資家から注目されているのが、元村上ファンドの丸木強氏が経営するストラテジックキャピタルです。
ストラテジックキャピタルは低ROEやキャッシュリッチ企業などに対して、次々と株主還元増加などの提案を行なっており、株主提案が株主総会で可決されたことはありませんが、提案を受けた企業は自社株買いや増配を行なうことが多くなっています。ただし、ストラテジックキャピタルは日本の大企業をターゲットとする海外アクティビストファンドに比べて運用資産が小さいので、投資対象は中小型株が中心になっています。
2014年に株主提案を受けたアイネスは、自社株買いや不要資産の売却などを行なう株主重視企業に変わりました。ストラテジックキャピタルから3度にわたって株主提案を受けた日本デジタル研究所は、2017年にMBOに追い込まれました。2017年に株主提案を行なった蝶理は、中期経営計画で配当性向の目標を20%から25%以上に引き上げました。ストラテジックキャピタルからネットキャッシュなのに不必要な公募増資を行なったと批判された帝国電機製作所も、自社株買いと記念配当を含む増配を発表しました。外国人投資家はこうした株主利益を実現する動きが、大企業にも広がってほしいと考えています。
コーポレートガバナンス・コードへの誠実な対応で株が買われる
スチュワードシップ・コードも、コーポレートガバナンス・コードも表面的な受け入れではなく、誠実に対応することが求められます。表面的であることは、英語でスーパーフィシャルやチェック&ボックスタイプの受け入れと表されます。
コーポレートガバナンス・コードは2015年6月から東証1・2部企業に適用が開始されました。企業はコーポレートガバナンスに関する73の原則(5つの基本原則、30の原則、38の補充原則)について、実施するか、実施せずに説明するか開示が求められ、毎年アップデートされます。
東証の2016年末の集計によると、20%の企業が全原則を実施し、65%の企業が実施率90%以上、15%企業が実施率90%未満でした。説明率が高い項目は、議決権行使の電子行使のための環境整備と招集通知の英訳の58%、取締役の実効性に関する分析・評価の45%、業績連動の報酬と現金報酬・自社株報酬の適切な割合設定の31%、海外投資家比率を踏まえた英語での情報開示の30%、指名・報酬等の独立社外取締役の関与・助言の26%、独立社外取締役の2名以上の選任の21%でした。
とくに、英語情報の少なさに不満を抱く外国人投資家が多くいます。コーポレートガバナンスが良いことで有名なオムロンは、日本語で「オムロンコーポレートガバナンス・ポリシー持続的な企業価値の向上を目指して」、英語でも「OMRON Corporate Governance Policies~Seeking sustainable enhancement of our corporate value」を出しています。
ただ、オムロンの場合、コーポレートガバナンスの良さは内外機関投資家のあいだですでによく知られているので、それだけでは株が買われにくくなっていますが、経営者の考え方が変わり、コーポレートガバナンスが良くなるときに外国人投資家に注目され、最も株価が上昇する可能性が高まります。そうした機会を逃さないためにも、外国人投資家は日本企業のコーポレートガバナンス関連の情報を求めています。
菊地正俊(きくちまさとし)
みずほ証券エクイティ調査部、チーフ株式ストラテジスト。1986年東京大学農学部卒業後、大和証券入社、大和総研、2000年にメリルリンチ日本証券を経て、2012年より現職。1991年米国コーネル大学よりMBA。日経ヴェリタス・ストラテジストランキング2017年1位。インスティチューショナル・インベスター誌・ストラテジストランキング2017年1位。