(本記事は、黒田尚子氏の著書『親の介護は9割逃げよ』小学館2018年2月11日刊行、の中から一部を抜粋・編集しています)

【関連記事 『親の介護は9割逃げよ』より】
・(1)空き家になった実家はどうする?「マイホーム借上げ制度」のメリット・デメリット
・(2)親の自宅を現金化する「リバースモーゲージ」4つのリスクとは
・(3)遺産が少ないほど多い「相続トラブル」「実家とわずかな預貯金が遺産」は揉める典型例

親の介護は9割逃げよ
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

親の施設入所で空いた実家を賃貸に出す

親が介護施設や有料老人ホームなどへ住み替えた場合、空き家になった実家をどうすればいいのだろうか?

そこで考えられるのが、「移住・住みかえ支援機構(以下、JTI)」が行う「マイホーム借上げ制度」を利用して実家を賃貸にする方法である。

この制度は日本に自宅を所有する50歳以上の人が利用でき、東京や大阪などの大都市に限らず地方でも活用されている。

おもな利用者は、60代以上が多いが、その家を借りるのは、50代以下の子どもがいる人たち。シニアには広すぎる家もファミリー世帯にはちょうどよいようだ。

「マイホーム借上げ制度」のメリットと注意点

マイホーム借上げ制度のメリットは、おもに次の3つである。

(1)空室でもJTIが最低賃料(査定賃貸料の85%)を保証し、終身借り上げてくれる。
(2)JTIと入居者の3年ごとの定期借家契約のため、更新時に家に戻ることができる。
(3)貸出人と入居者がそれぞれJTIと契約するのでお互い接点がなく、家賃の未払いや入居者とのトラブルで悩むことがない。

また、2014年11月から「マイホーム借上げ制度定額保証型」がスタートしており、契約時に最低保証賃料が定額で保証されるので、空室時や賃貸市場が変動しても、この金額を下回ることはない(定額最低保証期間中)。

また、貸し主である親が亡くなったら、相続人が土地・建物の所有権と貸出人の地位を引き継ぎ、相続人全員の承諾により契約を更新できる。

さらに、この制度で得た賃料収入を担保に生活資金を借りる方法もある。常陽銀行の「常陽リバースモーゲージローン『住活スタイル』」などだ。

一方で注意点もある。定期借家契約という貸し主有利の契約をとるため、賃料は周辺相場より最大3割ほど安く設定される。また、JTIが耐震性や老朽化を検査し、改修の必要があれば貸し主負担による工事をしなければならない。

このほかJTIでは、収入減などで住宅ローンの返済が一時的に厳しくなった人を対象に「再起支援借上げ制度」も実施している。この制度を利用する場合、年齢制限(50歳以上)は問われない。

また借り上げたマイホームは、3年の定期借家契約で転貸するため、親や子どもの状況が改善すれば、3年後には子ども自身のマイホームに戻すこともできる。

自宅を賃貸に出すと確定申告が必要?

自宅を賃貸に出す場合、気をつけておきたいのが確定申告だ。

賃貸で得た収入(賃料・共益費・礼金・更新料など)から必要経費を差し引いた所得が、不動産所得として所得税の対象となる。その際に、青色申告をすれば、10万円を経費として控除できる。

また、賃貸のまま親が亡くなって相続となると、空き家の場合よりも相続時に評価額が下がる。家屋は、他人の借家権がついているので30%減額。土地は貸家建付地(貸家の目的とされている宅地)として、20%ほど評価が低くなる。

たとえば、固定資産税評価額が、家屋1000万円、土地4000万円、合計5000万円の場合、空き家であればそのままだが、賃貸に出している場合、建物1000万円×(1-30%×100%)=700万円、土地4000万円×(1-60%×30%×100%)=3280万円。

合計3980万円となり、評価額は1020万円低くなる(借家権割合30%、借地権割合60%、賃貸割合100%の場合。地域などによって異なる)。

さらに、相続時には「小規模宅地等の特例*」の適用が受けられる。特定居住用宅地等に該当する宅地は330㎡を限度に80%も評価額が減額される。

いずれも、相続発生時に借り手がいることが条件になるが、このように実家を賃貸に出すと、税制上有利な面もあるということは知っておきたい。

*小規模宅地等の特例……相続や遺贈で土地を取得した場合、その土地に被相続人が自宅として住んでいたとき、あるいは事業の用に供していたなどの小規模な宅地があったときは、その土地が被相続人の生活基盤になっていたことを配慮し、宅地の評価額の一定割合を減額する制度。

転貸賃料は、対象住宅のある地域の賃貸相場の動向や建物の状況などから判断される。基本的に募集予定賃料は、周辺相場の80~90%が目安。

賃料が決定すると、そこから15%(JTIの物件を管理する協賛事業者への管理費用5%+空室時の保証準備積立と機構の運営費 10%)を差し引いた金額が制度利用者の手取りになる。全国の賃料平均は、月額8.6万円。地方でも6万円程度のケースが多いという。

黒田 尚子(くろだ・なおこ)
1969年富山県出身。千葉県在住。立命館大学法学部修了後、1992年(株)日本総合研究所に入社。在職中に、自己啓発の目的でFP資格を取得後に同社退社。1998年、独立系FPとして転身を図る。2010年1月、消費生活専門相談員資格を取得し、消費者問題にも注力。また、2009年12月の乳がん告知を受け、2011年3月に乳がん体験者コーディネーター資格を取得するなどがんをはじめとした病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行う。