(本記事は、小山昇氏の著書『利益を最大にする最強の経営計画』KADOKAWA、2018年3月6日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

【『利益を最大にする最強の経営計画』シリーズ】
・(1)100万円超の高額セミナーでも「1年先まで埋まる」理由とは?
・(2)「儲け」よりも大事なコトとは?「16年連続増収」の社長が教えるお金の使い方
・(3)新規事業で利益を出す9つのポイント――間違ったら撤退、迷ったら止める
・(4)もっとも簡単な「経営計画書」のつくり方 「正しさ」よりも大事なコトとは?
・(5)赤字の社長ほど「真似をしない」 武蔵野・小山社長が明かす「知識より大切なこと」

利益を最大にする最強の経営計画
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

利益を出す9つのポイント

経営サポート事業部は、2001年に立ち上げた新規事業です。2000年度の日本経営品質賞を受賞して、ベンチマーキングに訪れる会社が増加して武蔵野の取り組みの質問が多くなり、「現実、現場、現物」を公開するとビジネスになると感じ、経営ノウハウを開示したのが理由です。

新規事業をはじめることは、誰にでもできます。

ですが、社長の勘だけで新規事業をはじめると、収拾がつかなくなる。そこでわが社は、「経営計画書」に「新規事業に関する方針」を明記しています。

新規事業を軌道に乗せ、利益を出すポイントは、次の「9つ」です。

(1) 社長または役員が担当する
(2)3年かけて評価する
(3)現在の収益を確保した上で進める
(4)「現業」がうまくいっているときにはじめる
(5)銀行をチェック機関として活用する
(6)社歴よりも古いマーケットには参入しない
(7)マーケットのない分野には進出しない
(8)「間違った」と思ったらすぐに撤退する
(9)「迷った」ときはやらない

利益を最大にする最強の経営計画
(画像=Jelena Danilovic/shutterstock.com)

(1)社長または役員が担当する

職責下位が担当してその事業が成功すると、職責上位は立つ瀬がありません。したがって、新規事業は、社長または役員が担当します。

わが社は、新規事業のために、ほかの会社の人間をリクルート(ヘッドハンティング)することもありません。

なぜなら、外からきた人材が成功すると、すでにいる幹部社員は「自分たちの立場がない」「おもしろくない」「協力したくない」と思い、協力をしないからです。

どうしてもリクルートをするなら、「すぐには新規事業を任せず、2~3年は他の事業部で経験を積ませてから」にすべきです。

(2)3年かけて評価する

私は、「損益分岐点」(収益と費用が等しくなって、利益も損失も出ない分岐点のこと)を上回ることを新規事業の成功の条件とし、3年かけて評価しています。

・1年目......直近半期の売上を下回っていないか
・2年目......今期の粗利益額と営業利益額が前年を下回っていないか
・3年目......損益分岐点を下回っていないか

赤字の会社と黒字の会社では、投入できる資金額も違います。事業の習熟度によっても、評価する年数は変わります。

ですから、評価基準は正しくなくてもいい。仮説でいい、基準があることが正しい。

(3)現在の収益を確保した上で進める

新規事業は、「現在の収益」を確保した上で進めるべきです。新規事業の成否が現事業を圧迫するようでは困ります。

新規事業の売上を上げるために、収益の出ている既存部門を切り捨てたのでは意味がありません。

赤字の会社が新規事業に取り組むのは最悪です。

(4)「現業」がうまくいっているときにはじめる

経営サポート事業部の成功は、ダスキン事業部の利益が出ているときに立ち上げたのと、職責上位中嶋博記部長・青野真介部長・T部長の3人を投入したからです。

ほとんどの社長は、「現在の事業がうまくいかなくなった。だから、新しい事業をやろう」と考えます。

しかし、業績が下がって「余裕がなくなった状態」のときに新しいことをはじめても、うまくいくわけがありません。そもそも、現業で利益を出せない社長が、新規事業で利益を出せるとは思えない。

新規事業を成功させるには、社長が現業から「1ヵ月間」離れても困らないくらい「人」「お金」「時間」に余裕があるときに、手をつける。現事業で手いっぱいなら、新規事業は時期尚早です。

(5)銀行をチェック機関として活用する

私は、銀行を自社のチェック機関として活用しています。銀行は常に「その事業が伸びるか」「融資しても大丈夫か」を考えています。

銀行に融資を申し込んで「全行貸してくれない」ときは新規事業には手を出さないで、現状路線で進むのが賢明です。

銀行は、採算が合わないことにはお金を貸してくれない。1行も貸してくれないとすれば、その事業は見込みがない証拠です。

(6)社歴よりも古いマーケットには参入しない

社歴よりも古いマーケットには参入しないのは、古いマーケットには規制が多いからです。

一方で、新しいマーケットには、規制がほとんどありません。規制がなければやりたいことがやりやすい。

(7)マーケットのない分野には進出しない

事業は、次の順番で難しくなります。

(a)「現事業」を「現市場」に投入する
(b)「新事業」を「現市場」に投入する
(c)「現事業」を「新市場」に投入する
(d)「新事業」を「新市場」に投入する

「現在扱っている商品やサービス」を「既存のマーケット」に投入し、シェアを伸ばすのがもっとも簡単です(a)。

わが社でいえば、第三支店が行っている仕事をほかの地域でやる。あるいは、小金井支店で成功したことを国分寺支店でやるなど、これが一番簡単です。

とはいえ、これは新規事業ではなく「現事業」なので、売上の大幅増は見込めません。

だから、新規事業は、「新事業」を「現市場」に投入する(b)、あるいは、「現事業」を「新市場」に投入する(c)必要があります。

(8)「間違った」と思ったらすぐに撤退する

多くの社長が、「新規事業をやる以上、絶対に失敗してはいけない」と意気込みます。

しかし、どれほど優秀な社長でも、百発百中はあり得ません。手がけた新規事業のうち、「2割成功すれば、御の字」です。

人間は、失敗からしか学べません。新規事業を成功させたければ、致命的にならない程度に失敗体験を積むしかありません。

一生懸命やって、それでも利益が出なければ、「すぐにやめる」のが正しい。「もうちょっとがんばったら、何とかなるのではないか」と思うかもしれませんが、一生懸命やってもなんともならないのに、これから先に好転する可能性は少ない。

社長は「事業から撤退できて一人前」です。

(9)「迷った」ときはやらない

多くの社長から、「新しくこういうことをやりたいのですが、迷っています」と相談を受けるのですが、そのとき私は、

「迷っているなら、やめなさい」

と答えています。

競馬の馬券を買う場合、「あの馬も来そうだ」「この馬も来そうだ」と目移りして、あの馬もこの馬も......と手を広げる人は勝てません。「可能性がある」のと、「来る(当たる)」のは違うからです。「どうしたら勝てるか」がわかっていない人は、自滅します。私だったら、馬単2点といったように、狭く・深く馬券を買う。

遊びも仕事も、「狭く・深く」が基本です。自社の「得意な分野」「得意な地域」「得意な商品」で、狭く、深く掘り下げる。

小山昇
株式会社武蔵野代表取締役社長。1948年山梨県生まれ。東京経済大学卒。1976年日本サービスマーチャンダイザー(現・武蔵野)に入社、1989年より現職。「落ちこぼれ集団」を毎年増収増益の優良企業に育てる。2000年、2010年日本経営品質賞受賞。2001年から同社の経営のしくみを紹介する「経営サポート事業」を展開。主な著書に『絶対会社を潰さない社長の口ぐせ』(KADOKAWA)、『改訂3版 仕事ができる人の心得』(CCCメディアハウス)などがある。