楽しそうに働いている銀行員はいるか?

浪川氏、坂本氏対談
坂本忠弘氏(写真=ZUU online編集部)

――役所だと必要な書類がある課に行ってくださいという対応になりますよね。

浪川 改めて考えるとこっけいですよ。僕もときどき銀行に行くとすごく待たされる。ようやく呼ばれて窓口で住所変更届や振り込みをお願いすると、窓口の行員は後ろのほうの事務スペースに行く。ここをミドル、バックというんですけど、そこで作業している行員はあまり楽しそうに働いている印象がないんですよね。自分の依頼を楽しくなさそうにやっているのが見えると不愉快じゃないですか。ああいう、楽しくない顔で仕事をしているところが見えちゃうのって珍しいですよね。

もちろん全部の銀行、行員がそうだとはいいませんが、そこで楽しそうにやってくれていれば、客も気分がいいんですけどね。お客さんに見られているという意識がきわめて乏しかったということだと思います。

坂本 まったくもって銀行の店舗が銀行本位で、自分たちの作業の場と考えていることを表す話ですね。お客さんにそういう姿を見られて、どう思われるかとかを考えていない。笑顔がない、表情に乏しい行員が多いと思うのですが、それは作業場で作業をしているからなんですよね。作業だから楽しくない。店舗がお客さんとのコミュニケーションの場だったら、難しいお客さんもいるかもしれないけど、表情が出てくるはず。

浪川 おっしゃるとおり。例えば、お客さんが喜んで「面白いことを教えてくれたね。ありがとう」と言ってくれたら、それはうれしいはずですよね。そういう瞬間があまりにも少ないスペースなんですよ。

――海外には日本の金融機関とは意識が違っているところもあるのでしょうか。

浪川 欧米の銀行もリテール、個人顧客に対応する領域では、かつては日本と似たり寄ったりでした。ところがこの10年くらいで「これではいけない」と変わりましたね。

坂本 いくつか外国の銀行では、デジタルイノベーションというか、ITを使って業務の合理化、できるところは自動化して、その分お客さんとの個性ある、お客さんに応じた対応をしていますね。自動化してコストを下げることでお客さんの満足度は上がる。個性的、顧客に応じたオーダーメード的な対応をしている点でもお客さんの満足度が上がる。

ポイントは、サービスの質的な向上と、デジタルイノベーションにおける合理化を結び付けているところ。単に「合理化しました、人を減らしました、以上」ではないんですよね。浪川さんはそう指摘されていますが、私もまったくそのとおりだと思います。

浪川 先ほど坂本さんのおっしゃった、標準では駄目という点はおっしゃるとおりです。標準でいい部分は機械対応で、標準では済まない、機械対応できない部分では、人間だからこそできる個別に違う対応こそが人間がやるべきことです。それに集中できる余裕を生むのが、デジタル技術の導入という考えにしていかないと新しい世界は開けない。

坂本 私が浪川さんの本ですごく印象的だったのは、ユニバーサルアソシエイト、いわゆる“なんでも係”です。これは、決まった商品を売るのではなく、お客さんが何を求めているか、何に困っているかという、どのようなことを思って店舗にいらっしゃったのかを聞いて、一緒に考えるというところから始める。日本の店舗のつくりである、販売のための、あるいは作業のための場とは、まったく違う象徴的な部分です。

作業だと受け身ですけど、何でも係は当然、受け身じゃないですよね。お客さんと一緒になっていろいろ考えるというか、受け止めるとか、感性をもって対応するだとかがあるから。その意味でユニバーサルアソシエイトという存在が私には印象に残りました。

浪川 そのなんでも屋さんの期待される役割は、お客さんが漠然と「ここだったらいいな」と思っていることを具体化させて、それを自分が所属する銀行に「この方はこういうことを考えているので、それに応えられるものはありませんか」ということなんだと思います。