――そういう実態を坂本さんはどう見られますか?

浪川氏、坂本氏対談
『フィデューシャリー・デューティー・ワークショップ 金融における顧客本位な働き方改革』(画像=Webサイトより、クリックするとAmazonに飛びます)

坂本 正直言って、数字でしばられた中で社内競争していくほうが楽と言えば楽だと思うんです。

浪川 楽ですよね。

坂本 人から与えられた目標を、とにかく深く考えずに達成にむけてがむしゃらにがんばる。100軒回って20件取れなかったら、もう100軒回る。20件取れるまで回る。人から言われたことをこなすほうが楽といえば楽だからみんな変われないということでしょう。

ただ、話は少し戻りますが、金融を取り巻く環境自体が大きく変わっています。アンバンドリングというのか、以前は、情報は銀行が一番知っていて、あるいは証券会社が一番知っている、ユーザーは、情報は金融機関のほうから提供されるという時代でしたが、いまは、全然そうでなくなっている。スマホでピッと検索できる。

金融機関から金融の情報がアンバンドル(分離独立)されて、ユーザーが自分の手元のスマホで入手する時代、ユーザーバンドリングとでもいえる時代になってきている。リバンドルという言い方もありますが、私的にはユーザーバンドリングといいたい。そういう時代になってきています。

そうした中で金融パーソンは、お客さん一人ひとりに応じた対応をしていかないといけない。でないと、お客さんのほうがむしろいろんな情報を持っちゃっている時代だから、金融パーソンは会社から言われた商品を言われた方法でお客さんに売ろうとしても、通じないような時代になっている。

にもかかわらず日本の金融機関はなぜかそこに気付かない。外国だと特に、アンバンドリングの中で、オープンイノベーションが起こってきている。このあたりは本にも書かれているとおりだと思います。

浪川 とにかく数字でしばってマネジメントすればやっていけるんだというのが捨て切れてないですよね。

坂本 事業会社でも、大きな組織だと、自分たちの今生産しているプロダクトやサービスがまったくキャッシュを生まない状況になるとさすがに気付くのでしょうが、収益性は落ちてきても、なかなか踏ん切りがつかないというところもある。銀行の場合、ストックビジネスなので目先は一応なんとかなり、危機感がより鈍る傾向がある。

それなりの規模の組織では、そこの役職員は鈍感というか、今のままの延長線上に未来はあるというふうに思いがちになりますが、そこはやっぱりトップをはじめとした、外に対する感性や健全な危機感をどう持つのかということがあるように思います。

浪川 たとえ話というと古過ぎるんですけど、東西ドイツの壁、冷戦構造がなくなって、あの壁が壊されたにもかかわらず、旧東ドイツでは壁を構成するブロックの工場がブロックを生産し続けたという話があるんですよ(笑)。これは象徴的ですよ。劇的変化が起きたのに、前の時代の歯車、発想が回り続ける。もしかしたら金融はそういうところにきてるのかもしれない。

坂本 浪川さんも書かれているワンセット主義の限界、例えば銀行が自前でワンセットですべてのサービスを提供するのはもう限界がある。だからオープンイノベーションで、いろんな人たちと連携して組んでお客さんに選んでもらう。お客さんにむしろ選んでもらって、それでいいサービスを届けるほうがお客さん本位ですよね。

お客さん本位になるためには、自分たちの力の限界、サービスの限界を自覚して、いろんな人たちと組むこと。ある種の古き時代のプライドを捨てないといけない。自分のお客さんのために最善のアドバイスをすることが最優先。そのためには、自分が最善と思う人を紹介することになる。

そこでお客さんは誰に感謝をするかというと、いい人を紹介してくれたあなたにだと思います。「いやあ、濱田さん、いい人を紹介してくれてありがとう」と紹介してくれた濱田さんに感謝して、信頼も増す。別に自分自身が何でも提供しきれなくても、評価されないわけではない。そこのところのプライドの持ち方が、日本の金融機関の人って違うんじゃないかと思う。自分たちは人よりも偉くなきゃ駄目だと思っている。だから自分にはできないとか、自分には分からないということを言えない。それが顧客本位の対応を実現する上でのネックになっているんじゃないかと率直に言えば思います。

浪川 それは言い得て妙ですね。そういう価値観のままだと、今の自分を崩したくないですもんね。今の自分を崩して、次の時代に生き残ろうというよりか、今のままでいたいという欲求のほうが強くなりますよね。

坂本 テクノロジーが進化しても、結局人はそれを誰が提供してくれるのかという、運び手の人だとか、それを届ける場だとかをつくっている人を信頼して、物事を判断する。浪川さんの本からの引用になりますが、機械化、効率化、人員が減った中でも、人ができること、人にしかできないことが絶対にある。私の本でも、そういうことにスポットをあてています。

浪川 金融業界や銀行員に向けた本は最近たくさんありますが、坂本さんと僕で共通してるのは、僕ら銀行員には優しいんだと思うんですよね(笑)。往々にして、フィンテックで銀行は要らなくなる、みんな崩壊するみたいなのが多い。銀行員やいま金融業界で働いている人たちの価値というものがあると思うし、その価値を高めるために頑張ってほしい、変わってほしいというメッセージをおくっているつもりなんです。

坂本 それぞれの選択ではあるけれども、金融を取り巻く環境が変わっているから、早くそれに気付いて主体的に行動するほうが、みんなの幸せにつながるんじゃないかという思いは私もありますね。

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