銀行員、金融パーソンはどう変わるのか?

浪川氏、坂本氏対談
『銀行員はどう生きるか』(画像=Webサイトより、クリックするとAmazonに飛びます)

――多くの金融パーソンが業務のほとんどの時間をマーケティングや事務作業に費やされていて、お客様のためのコンサルティングに時間が割けていない。それを変えないといけないということで、われわれZUUが取り組んでいるのは、いろいろなツールや考え方を提供して、効率化すること。それによって金融パーソンが本来やるべきコンサルティングや、お客様のために一緒に考えることに注力をしてもらえると思うのです。

浪川 まったくもってそういう話です。

坂本 ユニバーサルアソシエイトのような存在として、私の本では、みずほフィナンシャルグループが始めている“クライアントファーストマイスター”を紹介しています。

ちょっと極端な言い方をすれば、通常の銀行などでは、住宅ローン、投資運用商品、信託サービスなどプロダクトごとに担当がいて、お客さんからすると「私は1人なのに何人が営業に出てくるんですか」という状況にもなる。

クライアントファーストマイスターの考え方はそうではない。お客さんの人生のこと、家族のこと、いろいろ知っているトータルに分かる人を1人、お客さんの担当として置くという発想です。何か具体的なニーズが生まれたら、証券の商品が必要ならグループの証券会社につなぐ、信託が必要なら信託銀行につなぐということをやろうとしている。メガバンクのグループはとかく単純に機械化で人員を削減するというところがフォーカスされますが、そのためだけではないということを表すものです。

――そこまで大きな変革を、これだけ大きくなった金融機関が実現するのは大変なことではないでしょうか。

坂本 人事制度だとかを変えるのはすごいエネルギーが要りますよ。行員によっては変化に対応できない、自らの存在意義が問われることも起こるでしょう。でも経営陣が中途半端だと中途半端な結果にしか終わらない。結局、内向きに均質的な組織にまた戻ってしまう。どこまで本気になって、そのビジネスモデルを実現するか。行員が同じようなことをやって、同じような仕事をしているだけでは時代に対応できないんだということを、組織体制や組織文化を変えるといった大きな変革を社内にはっきりと明示する必要がある。実際に多様な仕組みをつくれるかというところにかかっています。私の本では、いくつかの日本の金融機関でのそのような動きについてもレポートしています。

浪川 坂本さんが説いておられるフィデューシャリー・デューティーの価値観もそうだと思うのですが、あまたいる銀行員の中で、例えば僕が書いているようなことも含めて、「そうは言っても、数年たてば元に戻るんだよ」と高をくくっている人たちもいて、「ちょっと様子を見よう」という人は多いようですね。

例えば、顧客本位に営業しなきゃいけないなんて、今の時代当たり前のこと。やらなかったら生き残れないはずなんだけど、「また景気よくなれば、(経営からおろされる)目標の数字も大きくなって、本部からは毎月の達成プレッシャーかかってくるような時代に戻るんだよ」とまだ思っている人はいる。

さらに言うと、まだ経営者が「この道しかないんだ」と行員に言い切れていないとも思うんですよ。もう私たちには他の道はない、そうでないと生き残れないんだというぐらいに、強いメッセージを発し切れてないんじゃないかと思いますね。