前編では坂本、浪川両氏に、銀行店舗のつくりから見える銀行の顧客への姿勢や考え方の分析、金融パーソンがお客様一人ひとりとどう向き合うべきかを考えるうえで参考になる、金融機関の取り組みなどについて披露してもらった。後編ではより具体的に、金融パーソンはこういう存在にならなければいけない、という将来像・理想像について語ってもらった。

前編はこちらから

銀行も個性的になるべき 変革のネックはカタすぎるアラフィフ?

浪川氏、坂本氏対談
浪川攻氏(写真=ZUU online編集部)

浪川 坂本さんが指摘されていることに近いんですが、銀行は本当に長いこと顧客に選別されることがなかったわけです。銀行のサービスが不満でもほか(の業種)に行きようがないから、変えるとしても別の銀行に行くだけで、銀行そのものから離れることはできなかった。

でも今はそれが起こり得る。その変化は劇的であるという認識を、銀行の人たちは認識しないとまずいと思います。変わらないとまずいんだと。

坂本 金融庁の幹部も、金融機関が個性化、多様化することを切に願っています。それは標準化だとか没個性に導くような、過去に自分たちが設けてきた規制や行ってきた対応について反省をした上で、金融機関の個性化や多様化をなんとか実現したいと思っている。ものすごく真剣に考え悩んでいる。

日本の金融機関には、よそと違うということを売りにするというか、人と違うことを強みにするというような習慣や考えがなかった。しかしこれからは、人と違うというところを特色にしてもらいたい。全員が標準点、平均点のような金融機関になってもらいたいとは思わないでほしい。得意、不得意があってもいい。

金融庁など行政も、平均点から脱するような対応ができる職員を、一生懸命今、育成して状況を変えようとしています。

浪川 銀行に勤めてる人、銀行に入ってきた人って、何をもってそう言うかは別として、まあおしなべて優秀なわけですよ。その優秀さをどうやって生かすんだと。

坂本さんがおっしゃったみたいに、均一性、つまり規則正しく行列つくって行進するために、頭のよさを使っても仕方がない。もっと個性的に、より面白いものに向かうためにこそ、その優秀さはあると思う。能力がない、ということでは決してないと思う。どこか吹っ切ればできるんだと。僕はそうあってほしいと思う。

――ただ銀行や金融業界に入った人を育成するだけでなく、社会に出る前、学校教育などの段階で、敷かれたレールに乗る生き方が普通だと思っている人が大多数で、そういうところも変わっていかないとなかなか追いつかないんじゃないでしょうか。

浪川 そのとおりですね。確かにアメリカの金融業の歴史を見ても、劇的な変化というか、質的な変化をもたらした経営者というのが何人かいるんですが、例えばJPモルガンなんかが大きく変わったときのトップのデニス・ウェザーストン(JPモルガン中興の祖といわれる人物。1930-2008)は、イギリス生まれ、労働者階級出身で、高卒のメッセンジャーボーイから始めた人ですよね。そういう人が劇的に、世界最高品質の銀行のトップに登りつめて、さらに劇的な変化を遂げさせた。これは象徴的だと思います。

――そういうビジョナリーなトップがいて「やるんだ」というふうになれば、一気に変わるんでしょうか。そういう期待が持てるも要素、ポジティブな予兆は日本にもあるのでしょうか。日本の状況が大きく変わるには何が必要でしょうか。

坂本 教育(の段階)から(意識や制度が変わる必要がある)というのはおっしゃるとおりだと思います。私が金融機関に関わる中で感じることは、正直、若い人たちって、それなりに時代の変化の中で、自分自身で人生設計はしなきゃいけないという人が増えてきているように思います。

金融機関でも、若い人は時間軸も長いし、まだ失うものも少ないということもあるから、「違うな」と思ったら、もう金融機関を辞めちゃうわけです。なんだかんだ言われていますが、若い人たちって、今の時代環境の中で、それなりの感性や考え方を持った見どころのある人が増えていると思う。

私は51歳なんですが、この50歳前後の世代が今、行政でも金融機関でも事業会社でも、均質で量的拡大の競争の中で生きてきて、それがうまくいかなくなった時代の中で悩み、でも組織の中でそれなりのポストでいる世代です。どうしていいか、正直よく分からないところがあるけど、組織にまだ依存して生きていけるかなっていう、正直期待も持っていて、ポジション上、組織の中でそれなりに立派にやらなきゃ、優秀じゃなきゃいけないみたいな立場にある。

この40代後半から50代前半くらいの世代が、組織でそこそこのポジションにいて、ここがある意味で言えば、変革のネックになっているところがある。若い世代にエンパワーメントして任せたら一気に変革するかもしれない。

浪川 問題発言かもしれませんけど、メディア業界もまるっきりそうですね。

――私も今まさに指摘しようと思いました。たとえば雑誌からウェブという変化一つとっても、こだわって雑誌や紙を作り続けている人もいる一方で、先細りしてはいるもののウェブには能力的にも気持ちの面でも移れない、というネガティブな理由で対応しきれていない人は多くいるように思います。

浪川 そういう人たちは10年前と変わらない企画を立ててたりするわけですよね(苦笑)。