銀行を利用者が選ぶ時代になるべき ライバルは他行ではない

浪川氏、坂本氏対談
(写真=ZUU online編集部)

――アフリカなどでは銀行口座を持ってない人でも金融サービスを使える状況になってきています。世界はそうなりつつある中で、日本の銀行に対して何か具体的にこうなってほしい、というアクションや考え方の提案やアドバイスはないでしょうか。

浪川 銀行の人も証券会社の人も、お客さんは「金融リテラシーが低い」「投資教育をしなくちゃいけない」って言うんですよね。これは間違ってないと思う。ただ重要なのは、みんなが金融リテラシーを高めて、銀行を選別できるようになることなんですよ。いい銀行、悪い銀行、自分にとってフレンドリーなところ、フレンドリーじゃないところというのを見極める。そういう消費者の時代になっているんです。他の業種ではもうそうなってきていて、銀行の世界でも、消費者の時代になりつつあります。そういう厳しい風に当たると成長する側面もおおいにあると思う。

アメリカの銀行がなぜ顧客のためにという発想を進めなくてはいけなくなったのかというと、めちゃくちゃ批判されたからですよ。リーマンショックを引き起こして、経営者たちがそれにもかかわらず、ものすごい高い給料をもらっていて、多額の税金を費やしたのが反省もしてない。国民が怒り狂ったわけです。そういう怒りがあったから、変わらざるをえなかった。だから銀行の利用者、銀行の客というのが、もっと見る目を持つようになった。

――これまでは多くの人は、銀行を「家の近くの駅前に支店があるから」というような点でしか選んでこなかったのかもしれませんね。

浪川 今はどうだか分かりませんが、大学生が就職すると、そこの会社で研修か何かで給振口座をつくってくださいといわれて、たいてい就職先のメインバンクとか付き合いのあるところなんですよね。そこから付き合いが始まってずっと続くわけです。もっと自分で考えるようにならないといけない。

坂本 今おっしゃったとおり、よくよく金融機関を見て選んでいこうということでいうと、今の金融行政は、行政当局ではなく、お客さんにどこの銀行がいい、悪いを言ってもらおうという流れになっている。金融機関に対して、自分たちの個性だとか特色のあるサービスだとか、何をやっているかということをお客さんに分かるように見える化しようと。それを一生懸命促そうとしていますね。

どうしてもこれまでの金融業界の体質だと、減点主義的発想で、「余計なことを情報発信してお客さんが不快に思ったらどうしよう」と恐れて腰が引けるところがある。でもそうではなくて、見える化するというのは、自分がいいことを思い切りPRすることにつながる。それを促して、銀行が考えていることを積極的に開示して、お客さんに伝えていこうという運動を広げようとしています。

そういう意味で、特色だとか得意分野だとか、加点主義の発想で見える化をして、お客さんに選んでもらおうという環境整備を進めようとしている。少しずつではありますが、金融機関の特色が以前より見えるようになってきている。

先々のことになると思いますが、いっそ利用者の側が「こんなサービスをつくってほしい」ともっと主張してもいいんじゃないかと。それで金融機関が「われわれの今の発想と対応ではできません」となれば、それに応えることができる金融機関や、場合によっては金融機関以外のところを選べばいい。

最近は浪川さんの本で書かれている「Bank to Banking」の流れも進んでいて、金融機関以外も金融機能の担い手になり実質的に金融サービスを提供することが、かなりできるようになってきてるじゃないですか。

金融機関が動かないんだったら、金融機関以外のところが、金融機能に参入してくればいい。それがかつてはできなかったけど、データの収集と分析だとか、あるいは情報をどう届けるかということを、今はいろんなことが随分できるようになり、金融機関以外でも実現可能な時代になってきたと思います。

――銀行と事業会社のAPI連携も進んでいますしね。

浪川 ここ数年、大不祥事を起こして評判が下がっていますが、以前僕が調べたときにアメリカのウェルズ・ファーゴがWebサイトに学資ローンのブログのようなコーナーを設置していたんです。学資ローンを利用してる人も、学校関係者も親も書き込めるんです。「こんな金利が高いのやってられない」とか、「もっとこういう設計にしてくれ」とか言える。そこにバーチャルコミュニティーができてるんです。学資ローンコミュニティーが。それを商品設計に生かすわけです。ああいうのって、日本の銀行だってできますよ。

坂本 そこに例えば、学生向けのアパート貸しますとか、住宅貸しますとか、戸建てをみんなでシェアすれば、子供が独立してマンションに移られたご家族の家に3人で住んだらというような提案もできる。住宅サービスだけでなく、お客さんがどういう大学の、どういうような人なのか集団として分かるのだから、もっと生活に密着した情報やサービスも提供できる。本を読むならこういうものはどうですかとか、インターンシップをするのだったらここはどうですか、といったような、学生生活全般にかかわるサービスをとりそろえることもできる。

銀行や金融という枠を超えて、コミュニティーをつくり、そこで金融サービスが発生したときには、あるいは夢を実現するための資産形成のために、銀行が当行やグループの証券会社を利用してくださいっていえる。たとえばZUU onlineだって、そういうコミュニティーをつくって、そこで金融機関が金融取引につなげるというようなこともできると思う。ZUUがつくったウェブ上のコミュニティーで金融取引が生まれることだってありえると思います。

浪川 僕はそういう価値、存在が社会的に重要になってくると思いますね。リアルの世界でもコミュニティーって軽視され続けてきたけど、重要性が増してくると思います。やはりこの時代、単純にリアルだけでのつながりには限界があって、ウェブ上の世界、コミュニティー形成がとても大事になると思います。

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