(本記事は、井上雅夫氏の著書『ビジネスの武器としての「ワイン」入門』日本実業出版社、2018年6月10日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

ビジネスの武器としての「ワイン」入門
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

【『ビジネスの武器としての「ワイン」入門』シリーズ】
(1)味だけではない「最高級ワイン」大統領も使うおもてなしの極意
(2)なぜワインはエグゼクティブの必須ツールになるのか?
(3)あなたには「1本10億円」のワインの価値が分かりますか?
(4)ギネスを更新した「これまでに売られた最も高価な白ワイン」の中身
(5)ワインの味は値段ではない 本物の「ワイン通」が見るポイントは?

ワインには「おもてなし」の心がある

ビジネスの武器としての「ワイン」入門
(画像=Evgeniy pavlovski/Shutterstock.com)

ビジネスシーンでは、大切な顧客を「おもてなし」する機会がよく訪れます。

商談がうまく進んでいても、クロージングの「おもてなし」で失敗してしまうこともあります。

「おもてなし」とは、相手のことを考えて心を込めてもてなすこと。

ここでもワインは「潤滑油」として、とても有効なツールとして機能します。例を挙げてみましょう。

「シャトー・シュヴァル・ブラン」

これは、フランスはサン・テミリオン地区の最高格付けの赤ワインです。

シュヴァル・ブランとは、フランス語で「白い馬」。

16世紀末に宗教戦争を終結させたアンリ4世が、白馬に乗ってシャトーの前身であった宿場に立ち寄り、ワインを楽しみながら一夜を過ごしたのが名前の由来です。

このワインが「おもてなし」のシーンで活躍します。

2001年に首相に就任した小泉純一郎首相(当時)は、就任後まもなくフランスを訪れエリゼ宮で日仏首脳会談に臨みました。 親日家のジャック・シラク大統領(当時)は、ワイン好きで知られる小泉首相に最大級の「おもてなし」の心を示すために、この「シャトー・シュヴァル・ブラン」を饗宴の赤ワインに選びました。

その「心」とは?

小泉首相は昭和17年生まれ。干支でいうと午年にあたります。

白馬ではありませんが、「馬と午年をかける」というフランス側のなかなか手の込んだ演出です。シラク大統領がこのワインを選んだ理由を小泉首相に楽しそうに説明している、ほのぼのとしたシーンが目に浮かぶようです。

「馬と午年をかける」だなんて多少おやじギャグ的ではありますが、「あなたのために、特別にこのワインを選びました」というメッセージは、間違いなく小泉首相に伝わったはずです。

「シャトー・シュヴァル・ブラン」のエピソードをもう一つ紹介します。

2009年、鳩山由紀夫政権時に、中央アジア・トルクメニスタンの大統領が来日しました。トルクメニスタンは世界有数の天然ガスの産出国で、石油も豊富な国です。

関係強化を期待する日本は大統領を手厚くもてなし、大統領を招いての夕食会でも「おもてなし」の心を示そうとしました。

トルクメニスタンには「アハルテケ」という同国原産の馬がいます。

世界に3500頭しかいない「黄金の馬」として有名ですが、国章や国旗、貨幣にも描かれるほどトルクメニスタンにとってその馬は国の宝とされています。

そんな馬とゆかりのある国の大統領は、実は乗馬が趣味で白馬を持っていることでも知られています。

そこで「シャトー・シュヴァル・ブラン」の登場です。

トルクメニスタン、そして大統領のことをくまなく調べ、考え抜いて選ばれた「シャトー・シュヴァル・ブラン」。このワインを選んだ理由を説明することが「おもてなし」の心を伝える絶好のチャンスとなりました。

ことの経緯を知らされた鳩山首相は、会談を終えて夕食会場に移る際、大統領に「今夜は何か馬にちなむワインが出るようで......」とつぶやきました。

ところが小声だったために大統領にはまったく聞こえなかったようで、結局、食事の最中もワインの話題になることはなく、この「おもてなし」の企ては失敗に終わったそうです。

もし、鳩山首相がもう少し大きな声を出していたら、夕食会は大いに盛り上がったに違いありません。

そして、ワインを通じての「おもてなし」が大統領を感激させたことでしょう。

このようにワインは商品名だけでも十分にストーリー性があります。ですから「おもてなし」の心をとても伝えやすいのです。

商品名だけではありません。

ヴィンテージ(ブドウの収穫年)もおおいに利用できます。

人は誰にも記念日があります。

その人にとって大切な記念日のヴィンテージ・ワインを選び、相手の記念日を共有するのです。そうすればあなたの「おもてなし」の心は相手をきっと感激させることでしょう。

他にも産地など、ワインには「おもてなし」に使えるツールがボトル一杯に詰まっています。

そうです。ワインは「おもてなし」の最強ツールなのです。

井上雅夫(いのうえまさお)
株式会社オリーブプロジェクトJAPAN代表取締役。醸造家、ワイナリーコンサルタント。ゴールデンゲート大学院・修了(MBA)。カリフォルニアワイナリー、Sycamore Creek Vineyards代表取締役&CEO。ワイン醸造家としても活躍し、2001年国際ワインコンクール(Monterey Wine Competition)にて赤ワイン部門グランプリ受賞。2005年帰国後、盛田甲州ワイナリー取締役営業本部長に就任。2007年カリフォルニアワイナリー、KENZO ESTATEの立ち上げ責任者のオファーを受けて、ワイナリーコンサルタントとして独立し再渡米。著書に『ワインづくりの心得を生かす部下を酸化させない育て方』(実務教育出版)がある。