相続対策で失敗するヒト、成功するヒト
資産が無ければ無いで悩むが、増えたら増えたで今度は「築いた資産をいかにして守るか」といった「持つ者ならではの悩み」を抱えるようになる。例えば、こんなことを耳にしたことはないだろうか。
「日本は外国と違って相続税が高いから資産を残すことが難しい」
「相続を3回繰り返せば一族の資産は全部無くなってしまう」
これに対して「相続・事業承継が上手くいくかどうかは戦略次第。相続の度に資産が減ってしまうのは方法が悪い」と指摘するのが、K’sプライベートコンサルティング代表取締役で公認会計士、税理士、中業企業診断士の金井義家氏だ。本特集では「富裕層の『資産防衛術』」と題して、富裕層の相続・事業承継における資産の残し方を金井氏から聞き出す。特集第3回では、「良い相続対策」「悪い相続対策」の見分け方について。(聞き手:押田裕太)※本インタビューは2018年11月16日に実施されました
「勘違いされがち」なコンサルティングのステップ
──顧客にコンサルティングをする上で金井さんはどのようなステップを踏まれていますか?
はじめの段階では、顧客の資産規模や資産構成だけでなく、家族、親族などの人間関係、富裕層になった背景などを確認していきます。例えば、企業オーナーであれば会社の業績や従業員数、ビジネスモデルやビジネスライフサイクルにおけるポジションなどを理解していきます。不動産オーナーであれば、その人が持っている不動産の立地の他、町の人口動態や産業構造、家賃相場など、とにかく顧客についてのあらゆる情報を入手し、分析していきます。
前提として顧客のことを深く知らないとコンサルティングはできません。顧客のあらゆる資料を受け取り、机上で理解するところから始めます。そして、ある程度イメージができたところで実際に現地へ行き、会社や不動産を見たり、ヒアリングをしたりします。
さらにその時に顧客と色々な話をして、コミュニケーションを取ることが大事です。そうすると最初は入ってこなかったような重要な情報が入ってきます。例えば兄弟関係の良し悪しや、会社のビジネスモデルに大きく影響する要因、保有している土地が抱える真の問題点、過去の税務当局とのトラブルの有無……、こうした情報はコンサルティングを行う上で極めて重要なのですが、顧客も契約したからといってすぐに心を完全に開くわけではありませんから、簡単に手に入れることはできません。顧客と信頼関係を構築する中で、少しずつ手に入るものなのです。
ところが投資勧誘やセールス目的の「相続・事業承継コンサルティング」と称するものは、初回面談ですぐに提案書を示してくることが多いため、そういうものだと思い込んでいる富裕層の方も多いようです。しかし、本当のコンサルティングサービスでは提案書を最初に出すということは絶対にあり得ません。なぜなら顧客のことを良く知らない限りは、解決策は決して出てこないからです。
私も名刺交換の後に「じゃあ、早速だが君の提案を聞こうじゃないか」と言われることがありますが、そのような場合は「あなたのことをもっと良く知らないと提案なんかでませんよ」と答えます。最初にお会いした段階で提案されることが一般的だと思っている方が多いので、大抵は事情がのみこめない顔をされます。
そのような方に対しては、最初に投資勧誘やセールス目的の「提案型営業」と、本物のコンサルティングサービスが全く違うことから理解していただく必要があります。いきなり提案書が出てくる状況というのは、提案する側で着地点が決まっていることの裏返しといえるでしょう。最初から「借入をしてアパートを建てて相続税対策をしましょう」と記載されている提案書の雛形があって、宛名と数字を少しだけ入れ替えているようなケースが一般的なようです。
しかし、実際は全く同じ資産構成、資産規模の2人の富裕層が存在したとしても、その人の価値観や家族の人間関係などによって、解決策は強い影響を受けます。だからこそ、本物のコンサルティングサービスではアイデアがまとまるのに半年、1年かかることも当たり前です。