相続対策で失敗するヒト、成功するヒト
アジア太平洋地域でトップの資産額を誇る日本人富裕層。コンサルタント会社キャップジェミニが2018年11月28日に公表した「Asia-Pacific Wealth Report」によれば、日本人富裕層の資産合計額は7兆7000億ドル(約870兆円、1ドル113円計算)にのぼるとのことだ。
資産が無ければ無いで悩むが、増えたら増えたで今度は「築いた資産をいかにして守るか」といった「持つ者ならではの悩み」を抱えるようになる。例えば、こんなことを耳にしたことはないだろうか。
「日本は外国と違って相続税が高いから資産を残すことが難しい」
「相続を3回繰り返せば一族の資産は全部無くなってしまう」
これに対して「相続・事業承継が上手くいくかどうかは戦略次第。相続の度に資産が減ってしまうのは方法が悪い」と指摘するのが、K’sプライベートコンサルティング代表取締役で公認会計士、税理士、中業企業診断士の金井義家氏だ。
本特集では「富裕層の『資産防衛術』」と題して、富裕層の相続・事業承継における資産の残し方を金井氏から聞き出す。(聞き手:押田裕太)※本インタビューは2018年11月16日に実施されました
日本人富裕層の相続・事業承継対策リテラシーの現状
――著書『相続対策で消える富裕層、生き残る富裕層』の中に、「日本人富裕層のリテラシーは低い傾向にある」とありました。まずは具体的に富裕層とはどういった方を指すのでしょうか。
諸説ありますが、弊社では「相続税を実際支払わなければならない方」を富裕層と捉えております。欧米では、100万ドル以上の投資することができる資産を持つ世帯を定義することが多いです。日本円にすると約1億円ですね。もう少し厳密に言えば、欧米の富裕層の定義は「自由にできる時間とお金を持っている人」とされているようです。
その定義で言うと、日本で富裕層の代名詞と言われる企業オーナーいわゆる企業経営者などや、先祖代々の土地を引き継いでいる不動産オーナーいわゆる「地主」と呼ばれる人たちなどは、基本的に欧米では富裕層の定義には入らないと言えるでしょう。非上場会社の企業オーナーを前提とすると、確かに時価の高い自社株式を持っているのは事実ですが、これらの自社株式はM&Aをしない限りはお金に換えることができません。
このため実際には周囲が思っているほど自由なお金は持っていないことが多いです。また企業オーナーは経営者として本業が忙しく、時間にも追われている方が多いですね。不動産オーナーも同じで先祖代々の土地などの不動産を多く所有しているものの、都心の一等地などを除けば、決して経営効率が高いわけでもなく、常に固定資産税や相続税などの税金に終われていて、どちらかというとお金に困っている人が多いというのが実態だと思います。
ただ、今回のテーマは相続・事業承継ですから、非上場株式や不動産を含めた資産で時価1億円以上の保有者を富裕層と定義したいと思います。超富裕層は10億円として話を進めていきましょう。
――欧米と比べると「リテラシーが低い」とありました。
前提として日本人が能力的に欧米人に比べて劣っているわけではありません。富裕層としてのキャリア、もっというと時間的なものにカギがあります。