相続対策で失敗するヒト、成功するヒト
資産が無ければ無いで悩むが、増えたら増えたで今度は「築いた資産をいかにして守るか」といった「持つ者ならではの悩み」を抱えるようになる。例えば、こんなことを耳にしたことはないだろうか。
「日本は外国と違って相続税が高いから資産を残すことが難しい」
「相続を3回繰り返せば一族の資産は全部無くなってしまう」
これに対して「相続・事業承継が上手くいくかどうかは戦略次第。相続の度に資産が減ってしまうのは方法が悪い」と指摘するのが、K’sプライベートコンサルティング代表取締役で公認会計士、税理士、中業企業診断士の金井義家氏だ。本特集では「富裕層の『資産防衛術』」と題して、富裕層の相続・事業承継における資産の残し方を金井氏から聞き出す。特集第6回では、企業オーナーに提案される相続税対策の注意点について。(聞き手:押田裕太)※本インタビューは2018年11月16日に実施されました
企業オーナーが抱える「相続・事業承継対策」の課題
――企業オーナー(会社経営者)の相続対策といえば「自社株対策」のイメージが強いですよね。まずは企業オーナーの「相続・事業承継対策」の課題から教えてください。
企業オーナーやその親族は「相続・事業承継対策」が必要となる富裕層の代表格で、特に成功した企業経営者は巨万の富を築くこともあります。資産の中核は、自分が経営している会社の株式、すなわち「自社株式」です。成功者であることから、通常は不動産や金融資産も保有していることが多く「相続・事業承継対策」のやり方次第で、その後の明暗が大きく分かれるといえるでしょう。
まず企業オーナーの「相続・事業承継対策」で解決すべき課題の1つが「後継者問題」です。どんなに超一流の経営者であっても、人間である以上はいつか必ず相続になります。日本を代表する超一流の経営者であった本田宗一郎氏や松下幸之助氏も今となっては故人です。しかし、会社は経営者を失った場合でも、新しい経営者を選んで存続していかなくてはなりません。特に中小・零細企業は、経営者個人の能力に大きく依存していることが多いですから、新しい経営者を誰にするかということには、会社の存亡がかかっているといっても過言ではありません。この「後継者問題」は世の中にあるあらゆる企業が共通して抱える課題と言えるでしょう。
さらに後継者問題に加えて、一握りの超優良企業だけは、もう1つ、解決すべき課題が発生します。それが自社株式の問題です。一握りの超優良企業は、自社株式の時価が非常に高くなっているため、自社株式を大量に所有する経営者が死去すると、多額の相続税が発生し、相続人が納付するための現預金が用意できないという問題が発生することがあります。さらに経営者に複数の相続人がいると、この時価の高い自社株式を巡って相続人間で「俺が相続する」「いやいや、相続するのは俺だ」という、遺産分割の問題が起きることがあります。
しかし、これらの問題は全て「自社株式」の時価が高いことから発生する問題であるということを理解することが重要です。例えば「相続税」というのは「自社株式」の時価が高いほど巨額になりますから、相続税が払いきれないということは、それだけ会社が超優良企業であることを示しています。また、遺産分割問題も、誰も債務超過の会社の株式を欲しいとは思わないでしょう。必然的に時価の高い超優良企業の自社株式だから、その相続を巡って争いになってしまうのです。
このように普通の会社は後継者問題だけを悩んでいれば良いのに対し、一握りの超優良企業は後継者問題に加えて、自社株式の問題も解決しなくてはならないというところにポイントがあります。
後継者問題の解決策
――まず「後継者問題」にはどういった解決策があるのでしょうか? 具体的に教えてください。