(本記事は、Nami Barden氏、河合克仁氏の著書『世界中の億万長者がたどりつく「心」の授業』すばる舎、2018年12月13日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
世界のエリートたちが「誰にも明かせない本音」とは
●深夜に成功者たちが冗談交じりに語る「心の葛藤」
私(河合)は、この十数年で何千人もの経営者やプロフェッショナルに接する機会に恵まれてきました。
仕事で圧倒的な結果を残し、周囲にも認められているエリート、無数の企業の中でも数えるほどしかいない上場企業の創業経営者などなど、周囲からは「成功者」として見られ、悩むようなことがあるのか?と思ってしまうような方々です。
ところが、彼らとの付き合いが深くなるに連れてこんな声が聞こえてきます。
「それなりのお金を手に入れたら幸せになれると思っていたのに、むしろそれを失うことへの心配が増えた。幸せとは何なんだろうね……」
「もう俺は家ではいないことになってるんだよ(笑)。娘のためにと思って必死に結果を出して、やっと家族のためにってときに、娘が目も合わせてくれなくてさぁ……」
「最近、社員に“ちょっといいですか”って言われるたびに、また会社をやめたいって言われるんじゃないかって思っちゃうんだよね……(笑)」
冗談交じりに話される彼らの言葉の真意が、20代でがむしゃらに働いていた当時の私にはよくわかりませんでした。
家庭での時間や対人関係、自身の健康など、多少の犠牲なくして成功には近づけない。それがプロフェッショナルの証拠であり、よりよい仕事をするためには仕方のないことだろうと考えていたのです。
ところが自分も家庭を持つようになり、40代が目前に迫った今、ふとした瞬間に彼らの言葉を思い出すようになってきました。
メンタルが強く、圧倒的な才覚を持っていた(と周囲の誰もが思っていた)経営者が急病で退任。業界の第一線で活躍していた人が、ハードワークがたたって体を壊し、帰らぬ人となってしまった……身近でそうしたことが起きるようになり、かつて聞いた言葉がよみがえってくるのです。
実際、厳しい競争社会で戦っているビジネスマンたちと深い部分で話をしていくと、会社の売上や利益よりも、社員の退職、ビジネスパートナーや家族関係の問題を原因にした心の葛藤のほうが大きいと言う人もいます。
また、「この前誘われたパーティーで、俺よりずっと若い人がすごい活躍しててさぁ。今までのやり方で本当によかったのかって思っちゃったんだよね……」と漏らしたのは、ある上場企業の創業経営者の方でした。
年齢も立場も関係なく、それぞれが心の葛藤を抱えているのです。
●何をしていても、つきまとう苦悩
しかし、その心の苦しさはどこにもぶつけようがありません。立場上、部下や周囲の人に弱みを見せて相談するわけにはいかない。
ましてカウンセリングなどに行っていることを周囲に知られると「大丈夫?」「やばいんじゃない?」とまわりから(過剰に)心配されてしまう。
誰にも相談できず、解決の糸口も見えないからこそ、夜遅くまで飲み歩き、クラブの女性たちに心の癒しを求める……という人も少なくありません。
そして、それが「あたりまえ」とされてきたのがこれまでの日本社会です。
これは女性も同様です。完璧に仕事をこなすことは当然で、それに加えて周囲から求められる女性らしさの両立や、家庭では妻や母としての役割……さまざまなタスクに追われて、いっぱいいっぱいになっています。
久しぶりに会った友人に悩みを話すことができたとしても、結局は表面的な会話だけで終わってしまい、解決までには至らない(それ以上は重過ぎるので話せない)……。そうして、奥底の悩みは誰にも打ち明けられません。
年に1~2回の有給休暇で海外旅行や温泉旅行をすることを目標にがんばって働いていますが、念願の休暇中、旅先で思い出すのは残してきた仕事や部下、返信できないメールやチャットのこと……。
多くの現代人は仕事に追われ、家庭のことに追われ、振り返る時間もないままに日々を過ごしています。
私自身、仕事と家庭や健康、結果と幸福を両立させる働き方はできないのだろうか?
そんな疑問がずっと浮かんではいましたが、「とは言え、やることはたくさんあるし、深刻に考え過ぎないようにしよう」と見て見ぬふりをしてきました。
「どこかおかしい」「何とかしたい」と心のどこかでは思いながらも、しかし問題の根本的な解消法がわからないので、結局いつもそのままに。
そしてそれは、まわりからすれば「強い」「すごい」と思われている人たちでさえも同じなのです。普段は閉じている心のふたを開けてみれば、奥底には解消できない葛藤を抱えています。
●もがいているのは、日本人だけではない
では、日本人以外はどうでしょうか。心の葛藤に苦しんでいるのは、日本人特有の話なのでしょうか?
いいえ、そうではありません。世界の人たちも同じ葛藤を抱え、しかし「どうすればいいかわからない」状態で毎日を過ごしています。
世界でもっとも優秀な大学の1つであるスタンフォード大学。ここでマインドフルネスを教えているスティーヴン・マーフィ重松先生は、スタンフォード大学の学生たちを「水面に浮かぶカモ」にたとえて“ダックスシンドローム”であると言います。
水に浮かんでいるカモは水面を優雅に泳いでいるように見えますが、水面下では必死に水をかき続けています。同じように、頭脳明晰で人生がうまくいっているように見える学生たちも、心の内では大きな葛藤が渦巻いており、もがいている状態だと言うのです。
たとえば、「勉強もスポーツもできて、明るくて、ユーモアあふれる素晴らしい人を演じなければいけない」、「どんなときも素敵な人でいなくてはいけない」という、トップエリートの世界独特の同調圧力のようなものがあり、本来の自分とのギャップに悩んだり、人生の目的がどこにあるのだろうか?と迷ったりしています。
ベテランのビジネスマンたちも同様で、たとえば投資家のウィリアム(仮名)さんは40代にして年間数十億ドルもの利益を上げる起業家で、インドで「心の授業」に参加した人の1人です。
家庭では2人の子どもに恵まれ、家族関係も良好。開放的でユーモアにあふれた楽しい父親であり、さらにスポーツマンとして体を鍛えることも忘れません。その姿は、周囲からすれば「完璧な人生」そのものです。
しかし、彼の心の奥底では常に「もっと、もっと」というさらなる成功を求める声がやみません。1つのプロジェクトで成功をおさめた途端、また次のプロジェクトを手掛け、成功を求め続けてきたのです。
しかし、なぜその欲求が湧いてくるのか自分でもわからず、わからないままに成功を求めて走り続ける日々。それは決して幸福なものではなく、空虚感や焦りでいっぱいだったと言います。
●なぜ、億万長者たちはインドに向かうのか?
そう。どれだけ優秀で完璧だと思われるような人々でも、内側では「もっとこうあってほしい」「自分の人生はこれでいいのか?」という願望や葛藤を抱えています。そこに日本であるか、海外であるかという違いはありません。
経済的な豊かさや社会的な信用は十分に得たという億万長者が、インドまで行って心を学ぶ理由は、そこにあります。
どれだけ資産を得ようと、激しい競争に勝とうと、有名になろうと、素晴らしい家族がいようとも、自分自身の心を理解し、心が快適な状態を認識しなければ、真の満足感を得ることはできないのです。
自分の本心に向き合うことなく日々を過ごしていくと、ますます結果やお金に執着をしてみたり、お酒やドラッグ、また刹那的な快楽にのめり込んだりします。
また、じっとがまんを続けた結果、最後にはがまんが効かなくなり爆発する、心身が負荷に耐えきれず病に倒れてしまう……といったことが起きてしまうのです。
「夢や目標に向かってがむしゃらに努力をし、結果を出すこと(富や名声を得ること)が成功である」「人と比べて成功者でなければならない」といった価値観は、もはや多くの人が共感できるものではないでしょう。
しかし、そう感じながらも、現実ではその価値観から脱出できていません。他人と収入やステータスを比べて一喜一憂したり、自分よりよい人生を送っている(ように見える)人をうらやんだりしてしまいます。
私たちが本質的によりよい仕事・人生を追求していくには、そんな心の葛藤を認め、自分自身を知り、克服していく必要がある。そうでなければ、幸福感や満足感を味わうことはできない──そう気づいた人々が、本質的な意味で「心」に目を向け始めています。
心に起きる葛藤の原因はどこにあるのか?どうあれば快適であるのか?
そうして自分に向き合っていくことで、「心の授業」は始まっていきます。
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