(本記事は、加谷珪一氏の著書『億万長者への道は経済学に書いてある』クロスメディア・パブリッシング、2018年12月21日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

多くの人がトランプ相場を見誤った理由

億万長者への道は経済学に書いてある
(画像=GettyImages)

トランプ大統領が誕生する直前の雰囲気は、かなり悲観的でした。

識者の中にはトランプ大統領が誕生すれば、株式市場は大暴落し、長期不況に突入すると指摘する人もいたほどです。

しかし一部の投資家は、トランプ氏が選挙に勝利すると同時に米国株を積極的に購入し、大きな利益を上げることに成功しました。

筆者も選挙終了後、すぐに米国株を大量に買い増しましたが、ほぼすべての銘柄が大きく上昇しています。

ちなみに筆者は個人的にはトランプ氏が好きではありませんし、トランプ氏の経済政策もまったく評価していません。

しかし、一部の投資家がそうであったように、マクロ経済の理屈で考えれば、トランプ氏が大統領になれば、株価はかなりの確率で上昇することが分かっていました(少なくとも数年というタームでは)。

これは経済についてドライに判断し、投資を決断しただけであり、トランプ支持、不支持とは何の関係もありません。

ところが世の中の多くの投資家はそうではありませんでした。トランプ氏を好き嫌いで判断してしまい、結果的に大きな投資チャンスを逃しているのです。

トランプ氏が選挙期間中に掲げていた政策は、大規模減税とインフラ投資です。これに加えて、アメリカファーストという、かなり情緒的で曖昧なスローガンを打ち出しており、保護貿易的な政策を実施する可能性が高いという状況でした。

実際、トランプ氏は就任後、大規模減税を実施し、規模を縮小した上でインフラ投資を取りまとめ、中国に対しては貿易戦争をしかけています。

一部の人は、アメリカファーストというキーワードだけに敏感に反応し、貿易が停滞して一気に不況になると考えてしまったわけです。

しかしながら、経済の理屈から冷静に事態を分析すれば、少なくとも短期的には米国の景気が加速することは十分に予測できることでした。

繰り返しますが、トランプ氏は大規模な減税とインフラ投資を公約として掲げていました。どちらの政策も経済学的に考えれば、IS曲線を右にシフトさせるものであり、GDPの増大要因です。

減税だけでもかなりの効果がありますが、これに財政出動が加われば、景気を加速させることはほぼ間違いありません。

経済学的にはこれらの政策は金利を上昇させる可能性がありますが、米国は量的緩和策をすでに終了しており、金利はすでに上昇モードに入っています。市場は金利上昇についてある程度、織り込んでいますから、金利上昇によって景気の腰が折れるという可能性も低いと考えてよいでしょう。

さらに言えば、米国経済はここ数年、絶好調という状況が続いていました。

この状態で、減税と財政出動を実施するというのは、元気が有り余っている人にエナジードリンクを飲ませるようなものです。ここまでやるわけですから、景気は悪くなりようがありません。

ダウが25%程度上がることも予測できた

多くの人が懸念した貿易戦争についても、時間軸で考えれば、すぐにマイナスの影響が出ないことが想像できます。

トランプ氏が貿易赤字を問題視して、中国や日本に対して制裁を加えるにしても、これを短期間で実施することはほぼ不可能です。通商交渉は十分な準備期間を経て実行されるものであり、大統領就任直後に関税が引き上げられる可能性はほぼゼロだったわけです。

過去の通商政策はそのような時間軸で遂行されてきましたが、実際、トランプ氏が中国や日本を標的にした敵対的な通商政策に乗り出したのは、大統領に就任してから1年以上経過した2018年春のことでした。

その間、ダウ平均株価は20%も上昇し、主力銘柄の中からも、株価が2倍を超えるものが相次ぎました。

株価が大きく反応したのは、景気拡大の恩恵と減税の恩恵の両方を受けるからです。大規模な減税が実施されれば、企業の最終利益が増加し、その結果として、企業の手元資金は大幅に増えることになります。

好景気な状態で手元資金が増えれば、企業はこれを設備投資に回すはずであり、これはGDPのプラス要因となります。

さらに、企業の最終利益が増加すると、企業のEPS(1株あたり利益)もその分だけ増えることは確実です。PER(株価収益率)が変わらないと仮定すると、理論上、利益の増加分だけ株価が上がる計算となります。

景気拡大による業績の伸びに、理論上の株価上昇がプラスされますから、株価への影響はさらに大きくなるわけです。

筆者は、トランプ氏が勝利した時点で、法人減税が20%引き下げられることを前提に試算を行いましたが、その結果は、PERが変わらない場合、平均株価は20?25%ほど上昇するというものでした。

実際、ダウ平均株価は予想通りの上昇となり、筆者も大きな利益を得ることができました。

これはマジックでも何でもなく、ごく普通の経済学の知識から導き出せるシナリオなのです。筆者に言わせればトランプ氏誕生と同時に米国株を買わないというのは、あり得ない選択です。

為替トレーダー必見!為替は物価で決まる

FX(為替証拠金取引)や外貨預金など、為替レートが直接的に影響する投資はもちろんのこと、株式投資を行う場合でも、為替動向を把握することはとても重要です。

為替はマクロ経済との関連性が密接ですから、ここでも経済学の知識は役に立ちます。

ドル円は「購買力平価」に沿って動いている

為替は様々な要因で動いているので、何によって為替が決定されているのかを単純に示すことは困難とされています。

為替を動かす要因としては、「二国間の金利差」「マネー供給量」「物価」などがありますが、これに加えて経常収支の動向やファンドの買いといった実需要因が影響することもあります。

しかしながら、長期的に見た場合、為替が何によって動いているのかはほぼ明白といってよいでしょう。

長期的な為替を決めているのは「物価」です。

為替と物価の相関性が高いことは、経済学における購買力平価の概念、いわゆる「一物一価」の原理で説明することが可能です。

これは、物価が高い国の為替は安くなり、物価が安い国の為替は高くなるという単純な理屈ですが、これを為替に適用したものが購買力平価の為替レートということになります。

この理論的な為替レートは、長期的に見ると現実の為替レートと高い相関性を示しています。

ドル円相場は、1973年のニクソン・ショックをきっかけに固定相場制が実質的に崩壊。変動相場制に移行してからは、一貫して円高ドル安が続いてきました。それまでのドル円の動きは、日米間の物価上昇率を元にした購買力平価の為替レートと綺麗に連動しています。

1985年のプラザ合意以降、為替介入などで一時的に円安になることはあっても、購買力平価による理論的な為替レートを超えて円安になることはなく、基本的に円高トレンドが継続してきました。

日本のバブル崩壊以後、米国は順調に経済成長を続け、穏やかなインフレが長期にわたって続いてきました(リーマンショックという一時的例外はありますが)。

一方、日本は長期のデフレに悩まされており、経済水準も物価もずっと横ばいという状況でした。このため、米国の物価と日本の物価には乖離が生じており、これを調整するため、為替レートが動いたと解釈できます。

為替の分析については、二国間のマネタリーベースの差(いわゆるソロス・チャート)や金利差など、いくつかの考え方があります。

しかし、これらの方法論は、適用できる局面とそうでない局面が混在していますが、物価に関してはほとんど例外がありません。

少なくとも長期的には為替は物価の差で決定されるとみて差し支えないでしょう。

金利差についても、物価動向が金利を決める要因のひとつになっていることを考えると、結局のところ為替は物価に収束すると考えてよさそうです。

億万長者への道は経済学に書いてある
加谷珪一(かや・けいいち)
経済評論家・投資家。仙台市生まれ。1993年東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は、ニューズウィークや現代ビジネスなど数多くの媒体で連載を持つ。億単位の資産を日常的に運用する個人投資家でもある。

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