(本記事は、加谷珪一氏の著書『億万長者への道は経済学に書いてある』クロスメディア・パブリッシング、2018年12月21日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

米国は閉じた経済圏のような動きをする

億万長者への道は経済学に書いてある
(画像= Viktoriia Hnatiuk / Shutterstock.com)

米国は中国や日本などから大量にモノを輸入しており、世界貿易の中心に位置していますが、同時に米国は世界の金融市場の中心でもあります。

したがって、米国の金利は他国の金利や為替などからほとんど影響を受けず、米国内の経済状況によって決まってしまう傾向が顕著です。

つまり米国は見方によっては、外部から隔絶された巨大な島国なのです。

米国は先進国では数少ない人口増加国であり、今後も着実な需要の増加が見込めます。

米国の経済は旺盛な個人消費がベースとなっており、貿易をしているのは、付加価値の低いモノをより安く調達したいからであって、貿易を経済成長のツールにしているわけではありません。

これに加えて米国はエネルギー大国でもあります。

米国はシェールガスの開発が進んだことで、サウジアラビアを抜いて世界最大の石油産出国となっており、自国で必要とするすべてのエネルギーを自給することが可能です。

さらに言えば、米国は世界屈指の食料産出国であり、その気になれば、食料も外国に頼る必要がありません。

つまり米国は完全に世界から孤立しても、現在の豊かさを維持できるだけの基礎体力を持っていることになります。こうした事情から、米国は時に、閉じた経済圏のような動きをすることがあるのです。

保護貿易をしても景気が拡大するワケ

多くの人はこうした事実を見逃しています。

筆者はトランプ政権の経済政策はあまり評価していませんが、トランプ氏が大統領に選出されるとすぐに米国株を大量に買い増しました。

その理由は、米国は閉じた経済圏という側面があり、トランプ氏が主張する保護貿易を実施しても、減税やインフラ投資といったIS曲線をシフトさせる政策が同時に行われれば、景気が拡大する可能性が高かったからです。

フタを開けてみれば、実際、その通りになり、米国株が急上昇したことで筆者は大きな利益を上げることができました。

しかし、トランプ氏が選挙で勝った時点における日本の雰囲気は総悲観といった状況でした。特に学校のお勉強が得意なタイプの人ほどこうした傾向が顕著といってよいでしょう。

投資というのはタイミングがすべてです。どんなによい銘柄を見つけることができても、マクロ的によいタイミングで投資できなければ、すべて水の泡です。

株式投資をしていないと損をする

現在の日本は20年以上デフレが続いている状況ですが、これは世界的に見ても非常に珍しいケースです。経済が成長すると基本的に物価も上昇しますから、経済が成長していればインフレ傾向になるのは自然な現象といってよいでしょう。

株式投資をしている人ならよく分かっていると思いますが、インフレが進むと現金の価値が毀損しますから、金融資産が預金に偏っている人は大きな損失を抱えてしまいます。

インフレ時代においては、株式投資をしていないと資産を防衛することすらできません。

歴史的にほとんどの時代がインフレであったことや、日銀の量的緩和策によって大量のマネーが市場に供給されていることなどを考え合わせると、日本もいつインフレに転じてもおかしくありません。

私たちは予言者ではありませんから、日時を予測するのはナンセンスです。

しかし、いつインフレに転じてもいいように、投資のポートフォリオはインフレに強い銘柄を意識しておくなど、工夫が必要でしょう。

そうはいっても、インフレになるのはいつなのか、投資をしている人からすると非常に気になるところです。

薄利多売で儲けてきた企業は失速する

日本のフィリップス曲線(失業率と物価の関係を示したもので、物価が上がると景気が拡大しGDPが増えて失業率も減る、あるいはGDPが増えると失業率が減って物価が上がります。グラフの形状はたいてい左肩上がりとなっています)の場合は、左肩上がりではなく、フラットになっていると説明されることがあります。

つまり失業率に関係なく物価が上がらない状態です。

確かにその通りなのですが、グラフにプロットされるのはここ20年のデータであることがほとんどです。バブル崩壊以降は、不景気とデフレが続いたので、失業率にかかわらず、物価上昇は限定的となり、グラフは水平となっていました。

しかし、1960年代まで遡ってデータを入力すると日本のフィリップス曲線はまったく異なる様相を見せてきます。失業率が2.5%を切ると急激に物価が上昇し、教科書的な右肩下がりのフィリップ曲線に近くなってくるのです。

今の日本経済がインフレになりにくい体質だといっても物事には限度があります。一定のしきい値を超えればどのような経済でもインフレになる可能性はあります。

先ほど、日本のフィリップス曲線では失業率が2.5%を切ると急激にインフレになる傾向があると説明しましたが、実は、日本の失業率はこのところ急激な勢いで低下しており、インフレを警戒する水準にまで下がっているのです。

2018年5月時点の完全失業率は2.2%となっており、インフレのしきい値を突破しました。今後、失業率がさらに低下するようなら、インフレに対する警戒が必要ではないかと筆者は考えます。

インフレが進むと、いわゆる薄利多売で利益を上げてきた業種は不利になります。

外食チェーンなどがその代表ですが、低価格を売りにした商品の場合、価格転嫁が難しいですから、インフレ時には業績が低迷する可能性が高まります。

不動産は一般的にインフレに強いですが、日本は人口が減っていますから、場所の吟味は必要でしょう。グローバル銘柄もインフレに強い業種の一つと考えて差し支えありません。

億万長者への道は経済学に書いてある
加谷珪一(かや・けいいち)
経済評論家・投資家。仙台市生まれ。1993年東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は、ニューズウィークや現代ビジネスなど数多くの媒体で連載を持つ。億単位の資産を日常的に運用する個人投資家でもある。

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