(本記事は、加谷珪一氏の著書『億万長者への道は経済学に書いてある』クロスメディア・パブリッシング、2018年12月21日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

知っているようで知らない「一物一価の原則」

億万長者への道は経済学に書いてある
(画像=Sisacorn / Shutterstock.com)

外国との取引について考える場合、避けて通れないのが為替です。

為替は、様々な要因で動いていますから、何によって為替が決まるのか単純に判断することはできません。しかしながら、長期的に見た場合に、為替は各国の物価水準によって決まることが知られています。

ハンバーガーの価格で考えてみると…

為替と物価の相関性が高いことは、いわゆる「一物一価」の原理で説明することができます。

これは、簡単に言ってしまうと、物価が高い国の為替は安くなり、物価が安い国の為替は高くなるというシンプルな理屈です。

一物一価に関してよく引き合いに出されるのが、各国のマクドナルドの価格を比較した、いわゆるビックマック指数でしょう。

もし、一物一価の原則が成立するならば、ある国のビックマックの価格が永遠に上昇することはあり得ません。

物価が上昇した国の通貨は下落し、物価が下落した国の通貨は上昇することで、最終的にビックマックの価格は一定レベルに収束することになります。

例えば、米国で1個1ドルのハンバーガーがあったとします。この時、ドル円の為替レートは1ドル=100円と仮定します。日本でのハンバーガーの価格は当然ですが100円ということになります。

もし、米国の物価が2倍になるとハンバーガーの値段は1個2ドルとなります。

ここで日米の為替レートが変わらない場合、日本で100円を支払ってハンバーガーを買い、米国で2ドルで売れば、差額の1ドルが儲かってしまいます。この状態を皆が放置しておくわけがありません。

しばらくすると為替が円高に動き、1ドル=50円になっているはずです。

そうなると日本で100円のハンバーガー買うためには2ドル必要となり、米国で売っても2ドルですから利益にはなりません。つまり、ハンバーガーの同一価格が維持されるわけです。

つまり一物一価の原則では、物価が上がった国の通貨は安くなり、物価が下がった国の通貨は高くなります。

これはハンバーガーという単一の商品をベースにしたものですが、これをあらゆる商品の平均価格に当てはめ、為替に適用したものが購買力平価の為替レートということになります。

物価の影響で円高ドル安が続いた

購買力平価の為替レートは、長期的に見ると現実の為替レートと高い相関性を示しています。

日本はここ20年、ずっとデフレが続き物価が下がっていました。一方、米国の物価は一貫して上昇が続いていました。その間、円高・ドル安が続いてきたのは、二国間の物価の乖離を為替レートが調整してきたからです。

短期的には為替は様々な要因で動きますが、長期的には購買力平価に沿って動くケースが多くなっています。為替は金利によって動くとも言われますが、金利と物価には密接な関係があります。

最終的には、為替は物価によって動くと考えて差し支えないでしょう。

高金利の外債投資はおススメか?

日本では長く低金利が続いてきたことから、高利回りの外国債が投資家の間では人気となっています。

トルコやブラジルなど新興国の通貨で発行されたものは高利回りとなっていることが多いですから、一部の投資家にとってはかなり魅力的に映るようです。

しかしながら、一物一価の概念を理解していれば、こうした商品が必ずしも有利であるとは限らないことが分かると思います。

条件付きで100%儲かる商品とは?

ある新興国の債券の利回りが7%だと仮定しましょう。

格付けの高い国際金融機関などが発行していれば、日本国債と同様、償還されないという可能性はほぼゼロといって差し支えありません。

そうなると、リスクは同じくらいなのに、利回りが高く、とても有利な商品に思えてきますが、現実にはそれほどでもないことがほとんどです。

その理由は、金利が高い通貨はたいていの場合、インフレ率が高く、その分だけ為替が安くなる可能性が高いからです。

ある新興国の債券の利回りが7%だったということは、その国では、毎年7%程度の物価上昇、つまりインフレが発生しているということになります。

もし、その国の通貨と日本円の為替レートが変わらなければ、その国で運用して日本にお金を戻せば100%利益が得られる計算です。

有利な状況はすぐ打ち消されてしまう

しかしここで登場してくるのが先ほどの一物一価の法則です。現実には、こうしたオイシイ話は市場では放置されません。

インフレで物価が上昇する分、その国の通貨は売られ、日本円が買われますから、為替レートで調整されてしまい、結局のところ、得られる利益はあまり変らないことがほとんどです。

これはあらゆる投資商品に共通ですが、ある商品だけが他の商品に比べて圧倒的に有利ということは原則としてあり得ません。もしそのような状況が生じた場合には、それを打ち消すような取引が行われてしまい、そのチャンスはすぐに消滅してしまうからです(こ れを金融理論では裁定取引とよびます)。

まれに、為替市場がセオリーとは別の動きとなり、予想外に儲かるということもあるかもしれませんが、それはあくまで例外と思ってください。

金利の高い外貨預金も基本的には債券と同じです。

金利が高い国はインフレ率が高いですから、為替は下がる可能性が高いと考えて差し支えありません。その中で、うまく通貨高になるケースがあれば大きく儲けられますが、それはむしろ例外的なパターンといってよいでしょう。

これに加えてマイナーな通貨が関係する商品の場合、手数料が高額になる傾向が顕著です。困ったことに、為替の手数料は、手数料という形では明示されておらず、為替レートの中で調整されてしまいますから、いくら手数料がかかっているのか、すぐに計算できないことがほとんどです。

ドルやユーロではなく、新興国の通貨に投資する場合には、物価動向など、その国の経済についてよく理解してからにすべきでしょう。

億万長者への道は経済学に書いてある
加谷珪一(かや・けいいち)
経済評論家・投資家。仙台市生まれ。1993年東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は、ニューズウィークや現代ビジネスなど数多くの媒体で連載を持つ。億単位の資産を日常的に運用する個人投資家でもある。

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