年輪経営に立ち塞がる、成長の壁

ところが、近年ではこのような「年輪経営」だけを唯一の道と信じていると、成長の壁にぶつかってしまうケースが目立ち始めた。

売上や利益の規模を拡大しようと、どんなに頑張っていても、今までの延長線上では、低収益体質に陥ってしまうのだ。

その原因は何か。

大きな理由の一つは、昔に比べて、コンテンツやプロダクトが高く売れなくなったことだ。

今や情報はネット上にあふれているので、わざわざお金を出さなくても、必要なノウハウはある程度手に入る。またネットで探せば、全世界から最安値で取り寄せられるプロダクトも多いため、どんなに高い商品力があっても、そのブランド管理が行き届いていなければ、顧客はお金を払ってくれなくなっている。

加えて、もう一つ大きな理由として挙げられるのは、ビジネスモデルが進化すればするほど、商品数や業務が増え、利益が増える以上に、経費がかかるようになることである。

顧客満足度を上げるため、顧客の要望に丁寧に応えようとすると、どうなるか。商品やサービスの数は自然と増えていき、一方で一つひとつの商品の売上は減っていく。つまり、多品種少量生産になっていく。

すると、業務が煩雑になり、従業員を増やさなければ回らなくなるわけだが、ここに落とし穴がある。人を増やした結果、教育に時間がかかったり、できない人の分のフォローを仕事ができる社員がしなくてはならなくなったりなど、生産性が下がってしまうことが多いのだ。

「忙しすぎる社長」はなぜ生まれる?

また、コミュニティ型ビジネスにおいては、顧客とのやり取りを密に行う必要が出てくるが、それには単純に人を増やすだけではダメで、おもてなしの心を持ったスタッフを育成することが欠かせない。

こうなると、大変なのは社長である。最近は組織のフラット化が進んだこともあり、増えた業務の多くを社長が決裁しなくてはならなくなった。しかし、社長といえども、たくさんの決裁事項を一気に判断するのは難しい。

その結果、社長の仕事が滞って、社内が大渋滞を起こす。現場のスケジュールは混乱し、残業は常態化し、その残業代で会社の収益は悪化。これでは、社内の雰囲気が悪くならないほうが不思議だ。

そこで、会社の雰囲気を良くしようと、福利厚生に力を入れたり、社員旅行をしたり、地域貢献活動をしたりするわけだが、そうすると、さらに人件費などのコストがかさんでしまう。

インパクトカンパニー,神田昌典
(画像=THE21オンライン)

こうして、売上や利益を求めるほど、会社の収益性はどんどん低下していく。こんな善意による悲劇が、日本の至るところで起きている。