需要項目別の動向

●(民間消費)  適度なインフレと緩和的な金融環境の継続、消費マインドの改善によって堅調に推移と予想

2018年の民間消費は5月下旬にトラック業界の大規模ストライキが発生したものの、前年比1.9%上昇と2017年の同1.4%から加速し、10-12月期も堅調に推移している。2019年も適度なインフレと緩和的な金融環境が継続すると見込まれることに加えて、新政権への期待から家計の消費マインドが改善しているため、引き続き堅調に推移するだろう。

足元の消費関連指標は、小売売上高、国内新車販売台数ともに前年比増が続いている(図表7)。また、消費者信頼感指数(季節調整済系列)は上昇傾向が続いており、特に期待指数は2012年以来の高水準に達している(図表8)。インフレ率が4%台で推移すると見込まれる他、政策金利も過去最低の6.50%で据え置かれると予想されるため、2019年の民間消費は引き続き堅調に推移するだろう。

ブラジル経済見通し
(画像=ニッセイ基礎研究所)

労働市場は、失業率の高止まりが続いているが、就業者の内訳に関しては改善も見られる。2017年から2018年にかけての失業率の改善は正規雇用者の減少幅の縮小と非正規雇用者の増加によるものであった(図表9)。しかし、経済省の正規雇用統計(CAGED)によると、2018年の正規雇用者の年間増加数は2014年以来4年ぶりの純増に転じた。実質賃金の伸びに注目すると、2017年は相対的に賃金水準の低い非正規雇用者の割合が上昇したことで鈍化傾向にあったが(8)、2018年は正規雇用者の増加によって底打ちしたと考えられる。なお、政府は19年1月から最低賃金を引上げた他、1月末に公表した「政権発足後100日間に達成するべき35の目標」において、低所得者向け給付金制度(ボルサ・ファミリア)の13カ月目給付(いわゆる年末のボーナス)創設を掲げており、これが実現した場合、可処分所得が増加し、消費を押上げることが期待できるだろう。

ブラジル経済見通し
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(8)2017年から2018年にかけてインフレ率は低下した後、2018年半ばから再び上昇したため、実質賃金の変化はインフレ率ではなく労働市場の構造(雇用形態)

●(総固定資本形成)好調な企業業績を背景とする設備投資の回復によって加速と予想

10-12月期の総固定資本形成(9)は前期比2.5%減と前期の同5.5%から大きく減速したものの、これは前期の高い伸びによる反動であると考えられ、回復基調が続いていると見られる。企業業績の回復による設備投資の拡大やインフラ投資プログラムの効果顕在化も期待されるため、2019年の総固定資本形成は加速すると予想する。

中央銀行が政策金利の引下げを継続してきた結果、銀行の貸出金利は17年初から低下傾向が続いている(図表10)。住宅市場では、景気後退による住宅価格の下落と貸出金利の低下によって、新規住宅着工戸数が2017年以降大きく増加している(図表11)。しかし、足元の貸出金利に上昇の兆しが見られるため、住宅投資に水を差すことも考えられる。

ブラジル経済見通し
(画像=ニッセイ基礎研究所)

企業の設備投資については、製造業PMIが18年7月に景気判断の目安である50を上回ると、それ以降も改善が続いている(図表12)。これは、2018年のブラジルの主要企業の業績が過去最高益を更新する見込みであるためで、今後の設備投資拡大が期待される。また、国内最大の企業である国営石油会社ペトロブラスも2018年の純利益が5年ぶりの黒字となったことに加えて、ラヴァ・ジャット事件の余波で開発が遅れていたプレソルト鉱区への投資を2019年以降拡大する方針を示しているため、設備投資の底上げが期待される。

ブラジル経済見通し
(画像=ニッセイ基礎研究所)

また、テメル政権時から推進されていたコンセッション方式のインフラ投資プログラムについては、テメル氏の汚職疑惑による政権運営の停滞や大統領選挙を控えていたことから、当初の計画通りに入札が進行しておらず、2018年の業種別対内直接投資額のうち、電気・ガス関連向け投資が2017年から大きく減少している(図表13)。新政権も前政権と同様に、コンセッション方式のインフラ投資プログラムを推進することを表明しており、海外企業によるインフラ整備が顕在化し、総固定資本形成を押上げることが期待される。

ブラジル経済見通し
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(9)総固定資本形成の内訳は公表されていない。

●(純輸出)輸入の回復と中国向け輸出鈍化によって、悪化する見通し

10-12月期の純輸出の寄与度は輸入の減少によって前期比1.5%ポイントと成長率を大きく押上げたが、これは7-9月期の高い伸び(前期比9.4%増)の反動と大統領選挙という一時的な要因によるものであるため、再び輸入は増加するだろう。また、輸出についても2018年に大きく増加した中国向け輸出が鈍化すると予想されることから、2019年の純輸出の寄与度は悪化するだろう。

2018年の貿易動向を通関ベースで見ると、輸出は財別では一次産品、地域別では中国向けが輸出増額を押上げた(図表14・15)。特に、2018年の中国向けの輸出総額は前年比で34.2%も増加し、全体の輸出総額に占める割合も26.6%と4分の1を上回るなど中国への依存度が高まっている。これは、米中貿易戦争において中国が米国製品への追加関税を発動した結果、大豆や牛肉などのブラジル産農産物への需要が高まり、中国向け輸出が増加したためである。しかし、今後は中国景気の減速や中国による米国産農産物の輸入拡大が見込まれるため、輸出総額を押下げるだろう。

ブラジル経済見通し
(画像=ニッセイ基礎研究所)

また、リスク要因としてボルソナロ氏の外交姿勢が挙げられる。ボルソナロ氏はトランプ流の外交政策を志向しており、大統領選時には中国資本による投資の制限や在イスラエル大使館のエルサレム移転を公約に掲げてきた(10)。足元ではこれらの動きに歯止めが掛かっているが、実現した場合には中国やアラブ諸国との関係が悪化し、輸出にも悪影響を及ぼす懸念がある(11)。

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(10)自身の支持基盤である福音派信者に配慮しての公約である。
(11)アラブ諸国のうち、サウジアラビアはブラジル産鶏肉の最大の輸出先となっている。

物価・金融政策等の動向

●(為替)足元では落ち着きを取り戻したレアル。今後も安定的に推移と予想。

為替は、米国の利上げ観測の高まりによって18年4月頃からレアル安が急速に進行し、さらに10月の大統領選挙に向けて不透明感が高まると、9月には4.0レアル/米ドルを割り込んだ。しかし、構造改革を訴えるボルソナロ氏の当選が市場で好感され、レアル高に転じた。足元では、新政権への期待の高まりや米国の利上げ観測の後退によって3.7レアル/米ドル付近で推移している。

今後も、3.7~3.8レアル/米ドル台で推移すると予想するが、足元では新政権への期待が先行していることから、年金改革等の動向次第では、大きくレアル安が進行することも考えられるだろう。

●(物価・金融政策)インフレ率の上昇は一段落。当面は、改革の行方を静観し、政策金利を据え置きと予想

インフレ率(IPCA、対前年比)は、16年以降に大きく鈍化し、特に17年7月から18年5月にかけてはインフレ目標の下限である3%を下回っていたが、6月以降は前述のレアル安の進行による輸入物価の上昇や国際原油価格の上昇に伴う燃料価格の上昇によって4%を上回った。しかし、足元では為替や国際原油価格が落ち着きを取り戻したため、インフレ率も落ち着いている。足元のインフレの圧力が弱いため、インフレ率は、当面の間4%台で推移するだろう(図表16)。

ブラジル経済見通し
(画像=ニッセイ基礎研究所)

ブラジル中央銀行(以下、中銀)は、インフレ率の鈍化を背景に16年10月から18年3月にかけて12会合連続の利下げを行い、政策金利(Selic)は過去最低の6.50%となったが、5月以降は据え置いている。直近に行われた19年2月の金融政策決定会合の声明では、足元のインフレ圧力は弱いものの、上振れリスクとして年金改革等の停滞を挙げており、改革の行方を静観する姿勢が示されている。今後の政策金利は、当面の間据え置きが続き、19年末の政策金利は6.50%と予想する。なお、2月から開始した議会では、新政権の改革の一環として中銀の独立性を高める法案が審議されており、この法案が成立した場合、中銀の金融政策に対する信任が高まることが期待される(12)。

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(12)法案には中銀の総裁及び理事における固定任期制の導入が盛り込まれている。現行制度では中銀の総裁及び理事は政権交代にあわせて総入れ替えとなるのが通例であるが、固定任期制が導入されれば、時々の政権からの介入を受けにくくなると期待されている。

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神戸雄堂(かんべ ゆうどう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員

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