勝どき駅直結という好立地に店を構える『かちどきバル Bonte(ボンテ)』。店の広さは3.3坪、坪月商45.6万円という極めて効率的な経営を実践している。店内は奥に細長く、客席の幅は87cm。L字のカウンターには6席のスツール、そして4~5人収容のスタンディングスペースが設けられており、10人も来店すれば満席になる。
オーナーシェフの山崎高史さんは、居酒屋の店長や『ブルーノート東京』の料理人として腕をふるった後、この店をオープンした。大箱での経験を持ちながら、なぜ3.3坪という狭小物件に目をつけたのだろうか。
「もともと飲食店をやってみたいと思っていたところに、知人から『事務所として使っていた場所が空くから、チャレンジしてみないか?』と言われたんです。水回りも空調もない上、最初は家主の勘違いから『5坪』と聞かされていました。5坪の繁盛店を色々視察して、一生懸命に店の構想を練っていたのですが、蓋を開けてみれば3.3坪で……。この面積だとスタンディングしかありえないと思い、L字のキッチンカウンターを客席がぐるりと囲む設計にしました」
来店客は、20代から50代の男女。店に入れる人数は、山崎さんが顔ぶれを見ながら流動的に決めているそうだ。常連ばかりだと15人がぎゅうぎゅう詰めになることもあるが、人付き合いが苦手なタイプの客がいる場合は、ゆとりを持たせるため、8人でも入店をストップすることがあるという。目の前の客の表情を見ながら気配りができるのも、客とシェフの距離が近い店の強みだろう。
日替わりメニューで飽きさせない
山崎さんのこだわりは、日替わりメニューで飽きさせないこと。毎朝仕入れのために築地の場外市場出張店へ行き、全国の美味しい鮮魚を仕入れる。珍しい魚は目利きの仕方から調理法までを聞く。そのやりとりから新しいメニューが生まれることもあるそうだ。取材日に捌いていたのはマゴチという白身の高級魚だった。
「マゴチって夏が旬ですけど『いいものが入ったから』と教えてもらったので、仕入れました。上品な甘味があり、食感もいいのでカルパッチョにしようと思っています。カルパッチョは毎日市場に通って新鮮なものを仕入れて、その日のうちに売り切ることが理想です」
山崎さんは手早くマゴチを捌き、刺身に柿と菊、生姜をあえた「秋のソース」を添える。食用花や実山椒を添えた一皿は、見た目も美しく、女性なら歓声を上げること請け合いだ。食材はもちろん盛り付けも毎日変えるため、同じ料理でも飽きさせない。
フレンチの技法で食材ロスを無くす
食品の原価率が50%を超えるような目玉商品も常に用意し、商品のクオリティアップを図っているという。
「食材原価率はサイコロステーキや子羊のグリルで50%を超える一方、30%に収まっている料理もあるので、平均して40%くらいです。食材原価率が高い分、ロスが出ないような調理法を考えています。例えば『砂肝のコンフィ』は、フランス料理のコンフィールという技法を使っています。肉を味付けしてオリーブオイルで加工する調理法で、しっかり売り切れるまで劣化することがありません。好きな食材を美味しく提供し、なおかつロスを無くすにはどういう調理法がいいのかを常に考えています」
コンフィは、食材を保存するために生まれたフレンチの技法で、オイルに漬け込むことで劣化の原因となる水分と酸素を遮断することができる。肉は軟らかくしっとりとした食感になり、一緒に漬けたハーブや香辛料により食材の風味もアップする。その日に食材を仕入れて売り切る料理と、日持ちのする料理をメニューにバランスよく構成し、廃棄ロスを減らしているのだ。